くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「水深ゼロメートルから」「ミセス・クルナスvs.ジョージ・W・ブッシュ」

「水深ゼロメートルから」

高校演劇の映画化なのですが空間を広げすぎた演出が、女子高生の細かい心の機微を表現する原作の意図を散漫にしてしまった気がします。決して悪い作品ではないし、不思議な感動を見せてくれるように思えるのですが、砂だらけのプールという空間が主人公の女生徒たちへの気持ちに集中出来ない結果になったのはちょっと残念です。監督は山下敦弘

 

8月を目前にした高校のプール、そこに砂が溜まっていて一人の女子高生ミクが何やらイヤホンをつけてプールの底で踊り始めるところから映画は幕を開ける。そこへもう一人チヅルがやってきて空っぽのプールで泳ぎ始める。ミクはヤマモト先生の指示で補習としてプールの砂の掃除をすることになっていた。そこへミクと同じく補習を受けるココロがやってくる。

 

チヅルは補習をする必要はないが、泳ぐ真似をしている。彼女は水泳部だが男子水泳部はインターハイに出かけている。ミクは間も無く行われる阿波踊りに男踊りを披露する予定だが、かすかに悩んでいた。チヅルは野球部のエースクスノキのことが好きらしい。しかし、野球部が練習しているためにその砂埃がプールに飛んできているのだった。

 

ココロはメイクが好きでそれを咎められて今回の補習になったようである。映画はココロ、ミク、チヅルの三人の会話で淡々と進んでいくが、中盤、元水泳部キャプテンのユイも参加することになる。ココロは途中で生理だからとトイレにはけ、ミクは飲み物を買ってくるとその場を離れるが、そこで野球部のマネージャーをしているレイカと出会う。レイカの話ではチヅルも野球部マネージャーを志望したが面接で落ちたらしかった。

 

飲み物を買った帰り、ミクはユイに会う。ユイはプールでチヅルに、自分より遅いことを責められ落ち込んでいた。ユイはチヅルが凄いと呟き、自分は特に好きでもなく水泳部にいるのだと告白する。ヤマモト先生が途中で作業状況を見にくるが、ベンチで横になっているココロと言い争いになりつい感情的になってしまうものの、直前で冷静になって戻っていく。

 

8月にプールの改修作業があり、それを知ってプールに入らなくてもいいようにヤマモト先生はこの日補習を決めたらしい。チヅルはどうやらクスノキに競泳で負けたことが気になっているらしい。男であること女であることにこだわるミクやココロとも言い争う。チヅルは集めた砂を持って、宣戦布告だ!と叫んで校庭のマウンドに砂をぶち撒けて帰ってくる。まもなくして雨が降り出す。ココロが慌てて屋根の下に隠れるが、意を決したようにミクが阿波踊りを踊り出して映画は終わる。

 

まさに舞台劇という様相なのですが、ちょっと空間を広げすぎた感じで、広いプール、校庭、中庭と移るカメラ、クローズアップを控えほとんどフルショットで捉える主人公たちの姿が、あまりに繊細な彼女たちの心を捉えきれなかった感じがします。いい作品なのは分かるのですが、原作の味を百パーセント映像に昇華できなかった感じでした。

 

「ミセス・クルナスvs.ジョージ・W・ブッシュ

実話を元にした作品なのですが、映画としてのストーリー構成は無視して、淡々と出来事を羅列する造りなので、次第に退屈になってくる。しかし、主演のラビエ・クルナスを、ひたすら悲壮感で覆った描写をせず、能天気なくらいに明るく描いた演出はうまいと思える映画でした。監督はアンドレアス・ドレーゼン。

 

2001年、いつものようにラビエは息子のムラートを部屋に起こしにいくところから映画は幕を開ける。ところがムラートの姿はなく、どうやら友人と出かけたらしい。しかし、いつまでも戻らないので警察に相談したりモスクに行ったりしたら、どうやら海外へ向かったらしいとわかり、まもなくしてキューバにあるグアンタナモアメリカ軍の収容所に拘束されたことがわかる。

 

ラビエは息子を取り戻すべく画策するも埒があかず、たまたま電話帳で見つけたドッケという人権弁護士に強引に会いに行って懇願、ドッケもラビエの苦境を察知して、無償で仕事を受けることにする。ラビエはドッケのアドバイスアメリカのブッシュ大統領を相手にアメリカ合衆国最高裁判所で訴訟を起こすことにする。

 

そして、周囲や関係団体の力もあり、勝訴するが、政治的な駆け引きの中、ドイツがムラートの帰国を拒否する。しかし、まもなくしてドイツ首相が変わり、考え方が正反対になって急転換、無事ムラートは帰国するがすでに5年以上の月日が経っていた。ムラートの妻は離婚し、ムラートは戻ってきたが複雑な思いを抱くことになり映画は幕を閉じる。

 

淡々と描く物語は、ある意味面白いのですが、いかんせん、映像作品としての仕上がりにまとまり切らず、作品としては普通の仕上がりだったように思います。