さすがデビッド・クローネンバーグ監督、やってくれます。
ジャンルとしてはミステリーホラーと区分してもいいくらいの毒々しいほどに怖い映画かもしれません。もちろん、物語は、一見華やかに見えるハリウッドセレブたちの、その赤裸々な真実を描いているわけですが、それがあまりにもホラーなのです。
タイトルが終わると、画面は深夜バス、一人の少女アガサがジャンパーを羽織って眠っている。ジャンパーには「いけない子守」と刺繍されている。
停留所についたアガサは、予約していたリムジンに乗り込み、ハリウッドセレブたちが住む地区へと観光客のごとく進める。運転しているのは、脚本家で俳優もしているもののまだまだのジェローム。
アガサはとある廃墟跡にやってくる。そこはかつてセラピストのセレブ、ワイス家があった家の跡で、火事で焼けたらしい。後にわかるが、火事を起こしたのが幼い頃のアガサで、弟に薬を飲ませ、殺人未遂を起こして、家に火をつけ、自分は酔っていたのでやけどを負ってしまう。しかし、そのことでアガサは病院に入院したのだ。そして、この日、戻ってきたのである。
一方、ここにドラッグを克服し名子役になったベンジーという少年がいる。彼は人を見下した態度をとっている。実は彼はアガサの弟である。ベンジーの両親はセラピストのスタッフォード・ワイスとクリスティーナ・ワイスである。そして、物語が進むと明らかになってくるが、彼らは兄と妹という近親相姦の夫婦なのだ。
アガサは、ツイッターで知り合ったキャリー・フィッシャーのコネでハバナというやや落ち目の女優の秘書となる。
こうして、アガサが戻ってきたことから端を発した導入部は、次第にハリウッドのセレブたちの化け物のように狂った毎日を暴いていくのである。
アガサが戻ってきたことを恐れるワイスの両親。自分たちの真相や、弟ベンジーを殺しかけた異常な姉が戻ってきたことに恐怖を覚えるのだ。
一方ハバナは、かつて母が演じた映画のリメイクで再度スクリーン復帰をかけるが、別の女優にさらわれる。しかし、その彼女の子供がプールで溺死したために、ハバナに代役が回ってきて、驚喜する。しかし、そこから、やけどのあるアガサを見下し始める。
一方アガサはジェロームと恋仲になる。
ベンジーは、見舞ったファンの女の子が死んでしまい、その幻影をみたり、死者が現れて、彼を惑わせるようになる。競演の子役の男の子に嫉妬したりもする。
物語はどんどんとどろどろとし始め、アガサが次第に狂気を帯びてくるに当たり、いよいよデビッド・クローネンバーグ世界へと引き込まれていく下りが、とにかく不気味である。
そして、ハバナにジェロームを寝取られたアガサはハバナを殴り殺し、一方ベンジーは幻覚に惑わされ、競演の子役を殺してしまう。
アガサは両親の元を訪れ、クリスティーナから指輪を盗み、施設から脱走したベンジーに父から指輪を盗ませる。
ベンジーに絶望したクリスティーナは焼身自殺をし、それを目撃したスタッフォードは呆然としてしまう。
やがて、アガサのところに駆け込んだベンジーは二人で車で出かけ、両親の指輪を交わして結婚の誓いをたて、その場で睡眠薬を飲んで自殺する。そして暗転エンディング。
書き込まれた脚本が、かなり深層深くまで入り込んでいくので、気を緩めると、導入部で参ってしまう。
スタッフォードがセラピーをしているのがハバナ、という冒頭のシーンを整理しないと、二つのセレブの物語が絡んでいく様についていけないのであるが、さすがに、今回は必死で画面を整理したので、展開を読むことができた。
アガサがハバナを殴り殺すシーン、その直前、生理でソファを汚してしまったアガサをののしるハバナのカット、いやそのまえに、車の中でジェロームとハバナがSEXしているのを見つめるアガサのカット、焼身自殺するクリスティーナを見つけるスタンフォードのカットなど、ホラー映画を彷彿とさせる怖さがある。まさにデビッド・クローネンバーグの真骨頂である。
綿密に入り込んだエピソードと展開がかなりしんどいが、それだけにみた後の充実感は半端ではない。見事な映画だった。