くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「わたくしどもは。」「ライド・オン」

「わたくしどもは。」

観念的な内容とシュールな展開の作品ですが、構図、光、空間などなど映像がとにかく美しいので最後までしっかり見ることができます。現生で一緒になれなかった男女が命を絶ってあの世へ旅立つまでのシンプルなお話ですが、見応えのあるクオリティの高い作品でした。監督は富名哲也。

 

山深い古刹の寺、崖に張り出した舞台に黒い服を着た男女が現れ、次、生まれ変わったら一緒になろうと呟いて飛び降りるところから映画は幕を開ける。場面が変わり、掃除婦の女性が一軒の建物に入って行くとそこに先ほどの心中した女性が白い服で横たわっている。掃除婦は彼女を起こして古民家風の家に連れ帰る。そこでは他にアカとクロという子供も暮らしていた。連れ帰った女は名前を忘れたというのでミドリと呼ぶようにする。そして掃除婦の女はキイという名だと聞かされる。

 

キイはミドリに、一緒に掃除の仕事をして暮らそうと提案する。掃除をする建物の傍にかつての鉱山の廃坑があり、館長と呼ばれる男がキイたちに声をかけてきたりする。ミドリは廃坑を潜り、猫の鳴き声と鈴の音がする方へ行くと、草原の片隅に一軒の建物があり、そこへ入ると冒頭の青年がいた。そして床にはミルクの入った器があった。その青年も名前がないというのでミドリはアオと呼ぶようにする。後日、ミドリはミルクを持ってアオのところを訪ねる。アオはどこかへ出かけようとミドリを誘う。古刹の寺の門の前で待ち合わせた二人は森を歩き回り、一軒のホテルに入る。

 

ここにバスガイドをしている一人の女性がアオの部屋を訪れる。しかしアオはその女性のことは知らなかった。ミドリがやってきてバスガイドと鉢合わせするが、バスガイドはムラサキという名だと言う。性同一性障害で自分が男の姿なのを忌み嫌う中学生は、クラスメートに虐められ、縄で首を吊って自殺してしまう。それをアオが見届ける。

 

しばらくして、館長はキイに、四十九日が済んだのでこの地を去らなければいけないと伝える。どうやら此処はあの世へ行くまでの待避所のようなところらしい。キイがミドリの前から消えてまもなくしてアカとクロも姿を消してしまう。ミドリはアオとバイクで出かける。延々と続くトンネルを二人は疾走するが、途中で事故を起こす。しかし、二度死ぬことはないと二人は目を覚まし起き上がる。二人の脳裏には、心中をした時の姿が蘇っていた。二人はトンネルの中を延々と歩いて映画は終わって行く。

 

構図、光の使い方、色彩演出、ロケーションの舞台となる廃坑や古民家、森の景色などなどが実に美しく、レトロな色合いと不可思議な物語が見事に映像として溶け合って昇華しています。なかなかクオリティの高い作品でした。

 

「ライド・オン」

可もなく不可もない、今となっては古臭い物語のエンタメ映画でしたが、ジャッキー・チェンがニコッと笑うだけで娯楽として成り立つのはやはり凄いなと思ってしまう作品だった。監督はラリー・ヤン。

 

かつてはスタントマンとして名を馳せたルオは、今は一頭の馬チートゥと細々と暮らしている。三年前、生まれながらに足が悪くて安楽死させる予定の仔馬を貰い受けて、足も治し、育てて今や息子のように可愛がっている馬だった。ルオはスタントの会社を経営していたが八年前に大怪我をして倒産、その借金に追われていた。妻は娘シャオバオが幼い時に病気で亡くなり、ルオはシャオバオとは疎遠になっていた。

 

そんなルオのところに、チートゥを譲り受けた社長の借金のかたにチートゥが奪われることになったとその法的な書類を持って役人がやって来る。ルオは困って、まだ法学部の学生のシャオバオのところに助けを求めて行く。シャオバオは恋人で新人弁護士ルーを頼って父ルオを助ける事にする。そんな時、たまたま演じたスタントの仕事が気に入られたルオとチートゥに次々とスタントの仕事が来るようになる。

 

危険を顧みず、老体に鞭打ちながらスタントをこなし始めるルオたちにシャオバオが懸念を感じるようになってくる。そんな時、ルオの元弟子で今は大スターになっている男から大きなスタントの仕事がくる。ルオたちが現場に行くと、今はCGを使うので危険なことはないと説明されるが、体を張ってきたルオは納得せず、CGなしの撮影に臨む。しかし、すんでのところで、過去の様々が脳裏をよぎり、スタントを中止し、スタントマンとして引退することを決意する。

 

一方、裁判ではルーの奮闘にも関わらず負けてしまい、チートゥは名馬を集めるホー総裁のところに譲られる事になる。ルオは納得したものの、寂しい日々を送っていた。そんな父の姿を見たシャオバオはホー総裁に掛け合い、チートゥを返してもらう事を了承させる。いつものように朝を迎えたルオは、傍に来たチートゥの姿に歓喜し、映画は終わって行く。

 

かつてのキレのいいアクションこそ無くなってしまったものの、ジャッキー・チェンが画面に映っているだけで映画が娯楽の王様だと実感させてくれる。エピソードがあちこちに飛んで一体何を語りたいのかわからない映画ですが、単純に楽しめる肩の凝らない映画でした。