くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」「フィリップ」

「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

美しくて上品なカメラ映像ととっても優しい物語、心に残る数々のセリフに、映画の質の良さを体感できるとっても素敵な映画だった。昨今のやたら奇抜な展開や物語に辟易としてくるとこういう優しい映画は心の糧になります。良いひとときを過ごせました。監督はアレクサンダー・ペイン

 

1969年、クリスマスを前にした全寮制の寄宿学校、雪深い景色と美しい色合いで撮られたカメラから映画は幕を開ける。学生や同僚からも嫌われている歴史教師ハナム先生は今日も生徒の答案の採点をしていた。そこへ、クリスマスクッキーを届けに同僚の女性クレインがやってきて、校長先生が呼んでいると言う。

 

ハナム先生が校長室へ行くと、クリスマス休暇で家に帰れない生徒の監督役をして欲しいと頼まれる。本来別の先生だったが、体良く理由をつけられて逃げたのでハナム先生に回ってきたらしい。校長先生はかつてハナム先生の教え子でもあった。学校へ多額の寄付をする父兄の息子への採点にも厳しかったハナムへの嫌がらせも込めた処置だった。

 

クリスマスを前に、休暇に遊びに行く予定のアンガスはトランクに色々詰めていたが、何かにつけて絡んでしまうクンツと喧嘩するばかりだった。休暇で帰れなくなったのは食堂のメアリー、掃除夫のダニー、アンガスも直前で父兄と連絡が取れず結局生徒五人も残ることになる。

 

メアリーは息子のカーティスをベトナム戦争で亡くしたばかりだった。ところが数日して一人の生徒の父親がヘリコプターで駆けつけ、みんなをスキーに連れていくことになる。父兄の了解を得た生徒たちはそのヘリコプターで旅立ってしまうが、アンガスの両親には連絡がつかず、結局、ハナム、ダニー、メアリー、アンガスの四人が学校に残る。

 

淡々と過ごす毎日だが、次第に四人は家族のように親しみを感じ始める。ハナムと追いかけっこをしたアンガスが脱臼して病院へ行ったり、クリスマスイブにクレインのホームパーティに呼ばれたりする。そのパーティの帰り、ついハナムがアンガスの父の事を話したためにメアリーに叱られる。アンガスの父は亡くなったとされていて、母は新しい父と再婚していた。

 

ハナムはアンガスに詫びようとするが、アンガスは代わりにボストンに行きたいと申し出る。最初は反対したハナムだが社会見学ということにして出かけることにする。メアリーもその途中に住んでいる妹を訪ねたいと言うことになって三人でボストンへ向かう。メアリーは妊娠している妹に子供の靴や服を届ける。

 

メアリーを下ろした後ハナムとアンガスはホテルに泊まるが、二人で映画を見に行った際、アンガスはトイレに行くとハナムのもとを離れタクシーで逃げようとする。ハナムがそのタクシーに乗り込み向かったのはアンガスの父が入っている精神病院だった。アンガスの父は統合失語症認知症を四年前に発症していた。アンガスは父と言葉を交わし、ハナムと戻ってくる。

 

ハナム、アンガス、メアリー、ダニーらはカウントダウンパーティをし、新年が明け、生徒たちも戻ってくる。ハナムは校長室に呼ばれて行ってみると、入り口にアンガスがいた。アンガスの両親が来ているにだという。ハナムが入ると、アンガスの両親は、アンガスが父に会いに行ったこと、その父がアンガスにもらったクリスマスプレゼントで家に帰りたいと暴れたことを責められ、アンガスの両親はアンガスを退学させて陸軍高校へ転校させると言い出す。しかしハナムは、アンガスは賢い生徒だしここで潰すべきではないと説き、全て自分が計画したことだからとアンガスを庇い部屋を後にする。

 

ハナムは全ての責任を負って学校を去ることになる。アンガスやメアリーが見送る中、ハナムは車で旅立って映画は終わる。助手席には校長室にあった高価なウィスキーの瓶があった。

 

ハナムが語るセリフの一つ一つがとっても味わいがあって素敵だし、自省録をメアリーやアンガスにプレゼントしたり、雪景色と学校校舎をシンプルな構図で収めたり、小さなエピソードや場面の一つ一つがとっても素敵に映画に味わいを作り出しているのがとっても楽しい。良質の映画というにはこういうのをいうのだと言わんばかりの名編でした。

 

「フィリップ」

面白い作品だし、それほどクオリティも悪くないのですが、全体に漂う悲壮感がなんともしんどい上に、様々な登場人物の背景が今ひとつ見えづらく、振り回したカメラワークと長回しも今ひとつ効果的なリズムを作っていないのは勿体無い。監督はミハウ・クフィェチンスキ。

 

ワルシャワ1941年、フィリップは恋人のサラ、それに家族と一緒に舞台に向かっていた。サラとフィリップはどうやらダンサーか何からしいのだがよくわからない。そしてステージが始まるが、フィリップが衣装のほつれで袖に一旦引き下がった時、ナチス兵士がなだれ込んで銃撃しサラや家族は目の前で殺されてしまう。そして二年、フィリップはドイツフランクフルトにいた。

 

フィリップはホテルで給仕をしながら、夫が戦場に行って寂しい思いをしているドイツ人の孤独な妻たちを慰み者にしてナチスへの復讐をしていた。そんな時、プールでターゲットを物色していたフィリップは、一人の美しいドイツ人リザと出会い恋に落ちてしまう。フランクフルトでユダヤ人を使って工場を営むスタシェクは、ポーランド時代からフィリップを知り、フィリップのために身分証などを用意したりした。

 

ある日、フィリップのホテルに、ポーランド時代のフィリップを知るというマレナという女性がやってくる。そしてホテルに部屋を取る。このホテルではドイツ人将校が息子の結婚披露宴をする予定になっていた。一方、スタシェクがさまざまな重圧に耐えきれず自殺してしまい、フィリップが段取りして集めていた高級ワインが残される事件が起こる。ピエールはそのワインのうち二本を盗みロッカーに隠し、親友のフィリップに教える。

 

フィリップを慕ってやってきたブランカという女性は、結局フィリップに捨てられ、後に外国人と寝たことがバレて髪の毛を切られフィリップの部屋に転がり込んで来る。フィリップはブランカに部屋を当てがい、食事とワインを残して出ていく。フィリップはリザとパリに脱出する計画を立て、駅で待ち合わせるが、折下連合軍の空襲があり、フィリップたちは脱出を見合わせる。

 

そんな時、ナチス将校によるホテル従業員への盗難の嫌疑の捜査があり、ピエールが隠していたワインが見つかりピエールは将校に撃ち殺されてしまう。フィリップは、リザに、最初からもて遊ぶだけだったと別れを告げてホテルへ戻っていく。

 

やがて結婚披露パーティの夜、フィリップが会場を一旦抜け出すと、ドイツ人将校がマレナ達によって銃殺される現場を発見し、そこにあった銃を持ってフィリップは会場へ戻り、ピエールを撃った将校らを撃ち殺しそのまま駅に向かう。そしてスタシェクに段取りしてもらっていた身分証でナチスの目を欺いて駅へ消えて行って映画は幕を閉じる。

 

と、物語はそんな感じだったと思いますが、次々とフィリップに関わってくる人物の素性の説明描写がほとんどなく、推測で物語を追う形になっているので、ややわかりづらいところもあります。展開の構成は面白いのですが、結局リザとの恋物語もスッキリせず、サラや家族を殺されたことからの復讐心の盛り上がりも今ひとつ弱いので、映画が湧き上がってこない。ちょっと演出力不足かなという感じの作品だった。