くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春のソナタ」「夏物語」「君を想い、バスに乗る」

春のソナタ

とっても素敵な会話劇で、絵作りも綺麗だし、年下のジャンヌ、エーヴらと年上のジャンヌや父イゴールとの微妙な描き分けも見事にされていて、ストーリー展開の妙味もとっても面白く、知的でセンスの良い映画でした。監督はエリック・ロメール

 

高校の哲学の教師であるジャンヌは、仕事を終えて恋人マチューの家に帰ると、彼は旅行に出ていて留守で、煩雑な室内に辟易としてしまう。元々、異常に整理整頓にこだわるジャンヌは家を飛び出して従兄弟に貸している自宅に行く。ところが、試験も終わって出て行っているはずのいとこのゲールはまだ住んでいて後二日は居たいと言われる。そこへ、友人のコリンヌからパーティの招待をもらい、ジャンヌはパーティに出かけるが退屈だった。そこで同じく暇を持て余すナターシャと知り合い、彼女の家に泊まることにする。

 

翌日、ナターシャは学校へ行ったが、留守の間に、ナターシャの父イゴールが鞄だけ取りに戻って来る。間も無く帰ったナターシャと一緒にジャンヌはナターシャらの別荘に遊びにいく。その後、ジャンヌが自宅に戻ってみるとゲールは二次試験まで残ったのでもう一週間居たいという。ジャンヌは再びナターシャの家に行く。ナターシャは、イゴールを夕食に招待するが、イゴールの恋人エーヴもやって来る。ナターシャはエーヴと仲が悪く、エーヴがナターシャの首飾りを無くしたと思って恨んでいた。しかもナターシャは父とジャンヌが恋人同士になればいいと思っていた。

 

食事の席で、哲学の話で盛り上がるジャンヌとエーヴにナターシャはますます機嫌が悪くなる。イゴールらが帰ってから、ナターシャはジャンヌと別荘に行こうと言い出す。二人が行ってみると、イゴールとエーヴが先に行っていた。エーヴ、ナターシャ、イゴールらのギクシャクした関係にジャンヌは次第に巻き込まれていく。タバコのことでエーヴとナターシャは喧嘩になり、エーヴは帰ってしまう。そこへ、ナターシャの恋人ウイリアムが現れ、ナターシャはウイリアムと出ていく。そしてその夜は帰らないと連絡があり、ジャンヌはナターシはイゴールと二人きりになる。

 

夕食の後、さりげなく親しげになる二人だが、ジャンヌはあっさりとナターシャの家に帰ってしまう。翌朝、帰ってきたナターシャとちょっとした口論になり、ジャンヌは、家に帰る決心をして荷物を整理していると、ナターシャの父親の靴の中からなくなっていたネックレスが出てくる。それを見たナターシャはジャンヌと仲直りをする。

 

ジャンヌが家に戻るとゲールが花束を残していた。それを持ってマチューの家に戻ったジャンヌは、相変わらずの乱雑な室内を片付け始めて映画は終わる。

 

会話劇はいつもの感じですが、上品な色合いの画面と静かな音楽がとっても素敵でセンスの良い映画に仕上がっています。登場人物それぞれが微妙に色分けされている感じが見事で、ナターシャの父への想いもさりげなく伝わり、なかなか見ていて楽しいいい映画でした。

 

「夏物語」

一人の青年のフラフラ彷徨う恋の物語という典型的な作品で、シンプルなストーリーと会話劇で綴る一編でした。監督はエリック・ロメール

 

バカンスでディナールへやってきた大学生ガスパールの場面から映画は幕を開ける。二日目に、クレープ店で一人の女性マルゴと出会い、翌日海岸で再会する。ガスパールは恋人のレナがここにくるのを待って一緒に過ごすはずがなかなかこないので半ばナンパをしていた。マルゴと親しくなったガスパールはディスコに行ったりするが、まもなくしてパーティでソレーヌという女性とも知り合う。

 

ガスパールは、ソレーヌともねんごろにするが後一歩踏み切れないまま、マルゴとも付き合いを続ける。そんな頃、レナがようやく到着するのだが、その態度がそっけないので喧嘩別れしてしまう。落ち込んだガスパールはマルゴとウェッソン島へいく約束をする。ところが、しばらくしてソレーヌと出会い、彼女もウェッソン島に行きたがっていたので、断りきれず承諾。

 

部屋に戻り、悩んでいるところへレナからお詫びの電話が入る。ガスパールは、レナと過ごす約束をするが、三人同時の約束になる。ところがそこへ、以前から頼んでいた8トラレコーダが入荷した知らせが入る。しかも急ぐので明日、取引したいという。

 

ガスパールは仕方なくオルガを呼び出し、三人の女性を残して旅立つと告げる。そして、後日会いたいと言うが、オルガは9月に恋人が来るのでもう会えないとガスパールを送り出す。こうして映画は終わる。

 

たわいのない一本で、エリック・ロメールの四季シリーズ唯一の男性を主人公にした作品らしい。なんとも優柔不断の適当な青年の物語でもどかしい限りですが、これがフランスなのでしょうね。

 

「君を想い、バスに乗る」

いい物語だし、絵作りも丁寧で美しいのですが、エピソードのタイミングや羅列が普通すぎて、過去と現代を交錯させる編集もちょっとテンポが悪く、本当に勿体無い仕上がりの映画でした。主人公トムの描写が極端すぎるよぼよぼ感が、かえってマイナスになった部分もあるのも残念。監督はギリーズ・マッキノン

 

1952年、若き日のメアリーが後ろにいる夫トムにできるだけ遠くに行きたいと呟く場面から映画は幕を開ける。すべての意味がこの後明らかになっていくと言う展開なのですが、その明らかになる様がちょっとタイミングが悪いのもこの映画の欠点です。

 

一人の老人トムが今住んでいるスコットランド最北端の街から、イングランド最南端の街を目指して地図を見てバスに乗る。その目的が次第に明らかになる流れの中で、若き日のトムとメアリーが交錯する。

 

マナーの悪い若い乗客に立ち向かったり、エンストして道を塞いでいる車を手伝ったり、さまざまな善行をする老人のトムを携帯で写真に撮る人たち。というより、助けてやれよと思うのだが、この辺りの脚本が実に甘い。

 

様々な人たちと出会い、その度にトムの姿は動画に収められアップされていく流れなのだが、本筋のドラマとのチグハグ感が最後まで付き纏う。実はトムは全身が癌に犯され余命数ヶ月と診断されたようである。妻と一緒にその宣告を聞いているのだが、妻のメアリーが庭で先に亡くなってしまったようである。二人の間には赤ん坊が生まれたが、おそらく亡くなったようで、その悲しみを癒すためにメアリーは少しでも遠くに行きたいと呟いたらしいとわかる。

 

途中、イングランドに入ったので無料パスを拒否されたり、ウクライナ人の家族に助けられたりと、ちょっと鼻につくエピソードが気になるものの、ネットで話題になったトムは終盤は順調に目的地に着く。トムは幼い頃亡くなった娘の墓にトムとメアリーと一緒に写った写真を置き、メアリーに妊娠を告白された桟橋に行き、メアリーの遺骨を散骨して、若きメアリーが懐かしいバスで老人のトムを迎えにきて映画は終わる。

 

トムの目的が意外に普通すぎたり、メアリーが先に亡くなったことの描写のタイミングが悪いのは勿体無い。演出力の弱さと脚本の練り足りなさで、本当に残念な仕上がりですが、映画としては真面目な作品だったと思います。