くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「思い、思われ、ふり、ふられ」「8日で死んだ怪獣の12日の物語」

思い、思われ、ふり、ふられ

全編キュンキュンと締め付けられるような恋愛模様が描かれていく瑞々しさがたまらない作品で、四人の高校生の何気ない恋愛ドラマなのに、絡んでくる心のベクトルが変化していく様が自分の青春を重ね合わせ、それでいて現代の恋愛を感じさせる切なさに最後まで引き込まれてしまいました。四人の役者のそれぞれも素敵な作品でした。監督は三木孝浩。

 

女子高生の朱里は、積極的な性格だがどこか自分を飾るところがある。そんな彼女と全く正反対の消極的な由奈はそんな彼女といつの間にか友達になっていた。朱里は転校を繰り返していたせいで、それぞれの環境を無難にするようにする性格だった。由奈と朱里は同じマンションに住んでいて、由奈はマンションで知り合った理想の男性に恋い焦がれていると朱里に話す。

 

学校の帰り、朱里の家に誘われた由奈は、そこで理想の男性と思っていた理央と出会う。何と朱里と理央は義理の姉弟だった。朱里の計らいで理央と親しくなっていく由奈だが、実は理央は朱里が好きだった。理央は中学に時転校してきた朱里に一目惚れし告白するために雨の公園へ呼び出した。ところが時を同じくして、朱里は母と母が付き合っている男性と偶然出会い、二人が結婚することを知る。しかもその男性は理央の父だった。このままではまとまらないと感じた朱里は理央からの誘いのメールが残った携帯を水溜りに落として壊し、理央に理央の父の携帯を通じて引き合わせる。

 

朱里のクラスには乾和臣という男性がいて彼もまた朱里とマンションが同じで理央と仲がよかった。彼は朱里のことが好きだった。ある雨の日の学校の帰り、由奈は理央と帰ることになるが雨宿りのトンネルで由奈は理央に告白する。しかし朱里に想いを寄せている理央は丁寧に断る。それでも今まで内気で過ごしてきた由奈は前向きに進むきっかけになる。

 

これもまた雨の日、傘がなくて困っている朱里に理央が傘を持って迎えにきて、車から守って抱き寄せた時にキスをしてしまう。しかし、朱里は怒って走り去ってしまう。そんな出来事を理央から聞いた由奈は朱里に謝るようにアドバイスし、また、理央から聞いていた中学時代のすれ違いの真相を話す。

 

夏祭りの夜、由奈、朱里、理央、和臣四人で夜店に出かけるが、はぐれた朱里を見つけた和臣に、朱里は告白する。しかし、はっきり答えない和臣に朱里は自分から、いまのことはなかったことにと言って逃げてしまう。

 

文化祭の日、朱里は元彼に会う。彼は朱里に、自分が恥ずかしくならないように取り付くろうくせはやめたほうがいいとアドバイスする。一方理央はいつのまにか由奈のことが気にかかるようになっていた。由奈が別の男性に告白されたと朱里に言い、その告白は断ったがこの気持ちのまま理央に再度告白したいと朱里に相談、あかりに背中を押されて理央の元に走る。

 

由奈は理央に自分の気持ちを伝えるが理央は由奈のことが好きだと告白する。そんな頃、朱里と理央の父がアメリカに赴任することになり、ついていくかどうかで離婚するかもしれない危機が訪れる。しかし、朱里は父についていくと言い、それによって母もついていくだろうと考える。理央は日本に残ることにする。

 

引っ越しが迫る頃、映画関係の仕事を目指す和臣の両親は反対をして、和臣のDVDを全て捨ててしまう事件が起こる。落ち込む和臣を朱里は慰めるが、耳に入らない和臣。そんな和臣に理央は朱里が間も無くアメリカに行くと伝える。そして和臣の学校のロッカーに朱里からDVDのプレゼントが入っていた。

 

和臣を慰めることもできず引きこもる朱里のところに由奈が来て玄関口で、朱里の母にもっと朱里と話してほしいと叫んで去る。そんなある夜、朱里が引越しの準備をしていると和臣からメールが入る。二人で見た夜景の見える丘に来て欲しいという。勇んでいく朱里、そこで和臣は、父に自分の希望をはっきりと告げたこと、そして朱里のことが好きだと告白する。朱里も素直に、ふられてからもそれからもずっと好きだったと答える。

 

由奈の携帯に朱里からありがとうの言葉が入る。由奈は理央を誘って、朱里らのいる丘に向かう。夜明け、四人は登る朝陽を見ていた。映画はここで終わる。

 

シンプルなプラトニックラブのベクトルが、理央は朱里から由奈に、朱里は理央から和臣に、変わる流れを中心に、ふられた後の再度の告白からの恋の成就、そしてそれもまた青春時代の時の流れの途上であることを告げるラストが素敵。個人的には大好きな映画になりました。

 

「8日で死んだ怪獣の12日の物語」

監督が岩井俊二なので見に行ったという感じの作品。全編リモートで、コロナを題材にした物語というか会話劇が展開していく。まあ、一風変わった映像作品という感じです。

 

タクミという若者が通販でカプセル怪獣を手に入れる。そして育て始める様子がリモート会議的な映像で展開。相手に真嗣や星人を通販で買ったノン、同じくカプセル怪獣を買ったユーチューバーの女の子が入れ替わり立ち代わり登場する。

 

主にタクミを中心に展開するが、何のことはない毎日変化していく紙粘土のような怪獣の小さな姿をあれこれ推察する。間に自粛で閑散とした街中をカメラが俯瞰で捉えていく。時に怪獣の仮面を被った女性がシュールなダンスを行う。

 

二転三転しながら変化したタクミの怪獣は最後はマスクの形になり、YouTuberの怪獣はどこかへ逃げ、ノンの星人はノンを宇宙留学させるべく誘うがノンの両親の反対で一人旅立つ。最後にお土産を置いていくが何とコロナウイルスのワクチン。

 

こうして映画は終わるという何とも取ってつけた映画だった。

映画感想「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」「ファヒム パリが見た奇跡」「ジェクシー!スマホを変えただけなのに」

「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」

ここまで自由な発想でブッ飛んでしまえる監督の感性に脱帽してしまいます。ネタにこだわってしまうとこの映画の面白さはおそらくわからないだろうと思える一種の傑作かもしれません。面白いというか、この柔軟さに脱帽してしまいました。監督はダニエル・シャイナート

 

ジークとアール、ディックの三人はピンク・フロイド系の一昔前のロックバンドのグループを作っていて、この日も地下室で練習をしている。その場面から映画が始まり、ジークの妻リディア、娘のシンシアも楽しそうに接して、先に家に帰る。

 

そのあと、ジークらはハメを外そうと酒を飲んでふざけ始める。そしてカットが変わると、ジークの車でアールと二人必死で怪我をして血だらけのディックを病院へ連れて行こうとしている。しかし、そのままか担ぎ込めないからと病院の前に下ろし、ディックの免許証などを抜き取って放置する。

 

ディックは身元不明のまま病院へ担ぎ込まれるが、直腸破損の出血もあり死んでしまう。打撲跡もあるということで、殺人事件ではないかということで警察がやってくる。死体の直腸から精液が発見されたので、レイプの末に殺されたのではないかと推測されるが、調べてみると馬のものだと判明する。一方、ジークは早朝家に戻るが妻にシンシアを学校へ送ってくれと言われ、シンシアを車に乗せるが、途中のガソリンスタンドで、シートに染み込んでいたディックの血がシンシアの服についたことに気がつく。一方、たまたまシンシアが、ジークが持っていたディックの財布を、ジークが拾ったと言ったために、ガソリンスタンドに立ち寄った警官に届ける羽目になる。

 

ジークはアールに頼んでアールの車でシンシアを送ってもらい、ジークは自分の車を沼に沈めて盗まれたことにする。リディアはジークに聞いて警察に車の盗難を届けたので、警察がやってくる。しどろもどろになってくるジークの行動がこのあと延々と続く。このどうしようもない不甲斐なさでイライラさせて引っ張っていくが、一方でディックの妻ジェーンがディックが帰ってこないと探している姿も映画を面白くしていく。しかも、死んだディックの名前がリチャード・ロングが本名で、いつまでも警察が被害者の身元が見えないのがうまい。

 

ジークはリディアに詰め寄られ、次第に全てを白状せざるを得なくなったいき、真相を話す。それはディックが死んだのは元はと言えばコメットという馬にレイプされたからだという。しかも、ジークもアールも昔からコメットと関係を持っていたと白状する。リディアは激怒しジークを追い出す。

 

いくところもないジークは街を出る段取りをしているアールと街を出ようとする。最後にコメットに挨拶に行くジークだが、そこでジェーンと会う。ジェーンはディックの行方を探していたが、そんな時、盗難の車のことで警官がやってくる。リディアが迎え入れるが成り行きでジェーンとジークも同席することになる。まさかリチャードがディックと同一人物な上にジェーンの夫であることを知らない警官とリディア、ジークらのぎこちない会話が展開。しかしふとしたことでジェーンがリチャード、つまりディックの妻だとわかり事態は急展開、ジークはコメットを逃してやり、その場を逃げ出し、警官に捕まりそのまま逮捕される。

 

すべてがあきらかになるものの、ジークらを正当に逮捕することの意味がないと判断する警察署長はジークを保釈にしてしまう。ジークはリディアに別れを告げ、アールとバンドを再開するかに流れで映画は終わる。結局、何の罪もなかったのにうろたえてことを複雑にしたジークのコミカルなお話ということで、そのポイントの面白さが絶品の一本。ディックが死んだ原因に妙にこだわると視点がぼやけてしまうと思います。その意味で、吹っ飛んだ傑作だったかもしれない。

 

「ファヒム パリが見た奇跡」

実話なので、これはこれでいいのかと思うけれども、フランスは理解のある国だと言わんばかりのラストはいただけないし、一方で現実は移民に苦しめられているフランス国民を啓蒙するような展開はいかがかとも思う。まあ、そんな余計なことを考えなければ普通の映画だった。監督はピエール=フランソワ・マンタン=ラバール。

 

バングラデッシュ2011年に映画は始まり、路上でチェスをする主人公ファヒムが大人を負かせてしまうところから映画は始まる。父ヌラは消防隊の隊長らしいが、政府に反対をしているために睨まれ、息子ファヒムを拉致されかけたこともあるらしく、息子を守るためパリに行く決意をする。

 

まず難民としてパリに入り、定住権を得たら妻たちを呼ぶつもりで、ファヒムにはチェスマスターシルヴァンに合わせるという名目で二人でパリにやってくる。しかしヌラの仕事は見つからず、強制送還の日が迫る。一方、ファヒムはシルヴァンに認められ、彼のチェス教室で勉強し、フランス大会に出場する運びになっていく。

 

映画はファヒムが教室の友達と仲良くなり、大会に向けて成長していく姿と、ホームレスになりながらも必死で模索するヌラの姿を描く。そしてフランス大会の直前、父とホームレス同様に暮らすファヒムをシルヴァンが連れ戻し大会へ出場するが、ヌラはとうとう逮捕される。

 

ファヒムは決勝に進むものの、不法滞在者の優勝資格はないと思われた頃、シルヴァンの教室に事務員、マチルダが大統領に質問する番組に電話をし、難民に人権を与えることを約束させハッピーエンドとなる。まあ、一見ファヒムのシンデレラストーリーのようだが結局フランス大統領のプロパガンダに見えるのは深読みしすぎだろうか。素直な感動という印象にならなかった。

 

「ジェクシー!スマホを変えただけなのに」

これは面白かった。人間的な嫉妬に狂っていくスマホのジェクシーと主人公フィルの掛け合いの面白さがとにかく最高で、次はどうなるのかワクワクして見ていくのですが、ラストに処理が少し甘かったのは残念。最後は一捻り欲しかったです。監督はジョン・ルーカスとスコット・ムーア。

 

スマホ依存に近い主人公フィルは、たまたま街で自転車店を営むケイトと接触スマホを落とす一方でケイトに一目惚れしてしまう。ところがスマホを拾い上げたものに目の前を走り抜けた男に落とされ壊れてしまう。仕方なく最新機種を手に入れたフィルだが、AIアプリジェクシーがあまりにも人間らしく、ハマってしまう。

 

何かにつけて引っ込み思案だったフィルはジェクシーの勢いにどんどん積極的な生活に変わり、ケイトも手に入れ、友達もでき、最後は行きたい部署にまで出世してしまう。ところが、ケイトとどんどんうまくいくフィルに嫉妬したジェクシーは、ケイトの元彼をうまくケイトに再会させ、ケイトとの仲を取り持つ。さらに会社にもフィルのバカな写真をばらまき首にしてしまう。

 

何もかも失うフィルだが、友達はジェクシーだと仲を取り戻す。しかしケイトを忘れられないフィルはケイトのところに乗り込む。そして元彼の誘いでブラジルに行くケイトを止めようとするが、何とケイトはフィルと一緒に暮らすことを望んでいた。

 

思わぬ展開にジェクシーも落胆する一方で、自分がふられたことを受け入れ、フィルを応援する言葉を残して去っていく。ここのあっさり感がちょっと物足りなくて、ここにもう一工夫あれば最高だった気がします。でも、フィルとジェクシーの別れの場面はちょっとジンときたし、エンドクレジットで、次にジェクシーが届いたのはフィルの上司の元だったとおうオチも笑えて、楽しかった。気楽に笑えるちょっとした佳作という仕上がりの一本でした。

 

 

 

映画感想「もち」「宮本武蔵 一乗寺の決斗」「宮本武蔵 巌流島の決斗」(内田吐夢監督版)

「もち」

可もなく不可もなく普通のローカル映画でしたが、所々に見られる映像感性の良さが垣間見られる一本で、今回の中編ではなくエンドクレジットで使った映像をうまく使って普通の長さのドラマにしても描き切れる監督ではないかと思いました。監督は小松真弓。

 

主人公ユナの祖母の葬儀のシーンから映画は始まる。頑なに杵でつくことを主張する祖父の姿、それに続いて東北のこの地方に伝わるもちに関する様々がドキュメンタリータッチで描かれていく。

 

ユナが通う中学校はユナらの卒業を最後に廃校が決まっている。やがて夏祭り、建前などの情景が描かれ、ユナが密かに想いを寄せるタツ兄は卒業後東京に学校に行くと聞かされる。

 

卒業式の前の晩、もちにデコレーションをしているユナ。卒業式の日にタツ兄に告白とプレゼントとして渡すつもりをしている。もちにLOVEと書いたものの恥ずかしくなり上から隠してしまう。

 

卒業式の後、タツ兄を呼び出したユナは、何も話せずプレゼントだけ渡す。でも、自分にとっては大満足で、駆け抜けていく彼女のシーンで映画は終わる。

 

途中、おじいちゃんがユナの頭を撫でる場面や、紅葉を背景にした陸橋を走るユナの場面など、素敵なシーンも垣間見られる映画で、全くの凡作とは言えない面白さもある作品でした。

 

宮本武蔵 一乗寺の決斗」

これは面白い。ここまでで最高の仕上がりの傑作です。エピソードの配分、原作のメッセージ、そして豪快なクライマックス、時代劇の様式美、全てが兼ね揃った素晴らしい映画でした。監督は内田吐夢

 

吉岡清十郎を倒した武蔵は途上本阿弥光悦に出会う。そこに逗留している中、清十郎の弟伝七郎から果たし状が届く。そして蓮華院裏での果たし合いで伝七郎を倒した武蔵は吉岡一門を敵に回す。

 

吉岡一門は幼い源次郎を旗頭に最後の決戦を申し込んで、有名な一乗寺下り松の決戦がクライマックスとなる。このクライマックスの豪快そのもののカメラワーク、ここに至るまでにお通が武蔵の前に立つときの着物が風に舞うシーンの美しさ、この終盤の畳み掛けに圧倒されます。俯瞰で捉える下り松のショットから、田畑の中を逃げていく武蔵を追うカメラワークの大胆さに引き込まれる。やがて叡山に逃れたもののそこを追い出されて映画は終わります。

 

途中、吉野太夫との琵琶を例えにした、剛と柔の例え話など、原作の味もしっかり描かれ、クライマックスとの対比も見事にリズムを生み出しています。残念なのはまだ駆け出しだった高倉健扮する佐々木小次郎が弱いことでしょうか。いずれにせよ面白かった。

 

宮本武蔵 巌流島の決斗」

いよいよ五部作最終章。正直、前作が抜群に面白いし完成度が高いので、見劣りしてしまいます。高倉健が表に出てくるというのがそもそも弱いのですが、原作は終盤が宗教色が前面に出てくるにで、娯楽時代劇として走ってきた流れでは一番難しいというものです。原作のエピソードを踏襲して、ラストシーンあっさりと締めくくった感じでした。監督は内田吐夢

 

映画は、一乗寺の決闘の後比叡山を追われるところから始まり、原作通りのエピソードを進みながら、クライマックスの巌流島の決戦へと進んでいく。原作にある、無情さ、武蔵の人間的な成長、お杉婆らの心の変化を最後に盛り上げるところが、さすがに弱く、感慨にふけって終わるものの、第四部に見劣りしてしまった。でも五部作は見応え十分でした。

 

映画感想ジョーンの秘密」「ハニーボーイ」

「ジョーンの秘密」

なるほど、こういう切り口もあるのだと感心しました。実在の人物をモチーフにしたフィクションですが、それを基にしたフィクションなので作る側の訴えかけてくるメッセージが強烈な作品でした。あとは好きか嫌いかですね。監督はトレバー・ナン。

 

時は西暦2000年、ウイリアム・ミッチェル卿が亡くなった記事を読んでいた老婦人ジョーンは突然MI5の訪問を受け逮捕される。容疑は秘密保護法違反、つまりスパイ容疑である。

 

時は第二次大戦頃、ケンブリッジ大学の学生時代のジョーンに移る。寮に、突然夜遊びで締め出されたソニアが窓から入ってくる。ソニアに誘われて行ったパーティでジョーンはソニアの弟だというレオと知り合う。まもなくしてジョーンは物理の研究をするマックス教授の元で働くようになるが、何とそこは原爆の開発を進める研究所だった。

 

ジョーンはレオと恋仲になっていくが、共産主義に傾倒するレオはジョーンが携わっている研究に興味を持ちつ。イギリスとソ連は情報を共有するはずだったが政府はソ連に研究情報を流す予定がないようだとわかる。一方アメリカではマンハッタン計画が進み原爆開発が進んでいく。

 

ジョーンとマックスはカナダの研究機関に招待され、五ヶ月の渡航をする。レオに愛想が尽きてきたジョーンはマックスと次第に不倫関係になっていく。カナダから帰ったジョーンらにアメリカが原爆開発に成功した報告が届きまもなくして広島に原爆が投下されたニュースがジョーンに届く。

 

レオからソ連への研究情報提供を求められながら躊躇していたジョーンは決心をしソニアに連絡をする。そして開発情報をソ連に流し始める。ジョーンとマックスの関係は続くが、まもなくしてソ連も原爆開発に成功する。そんな時、MI5はマックスを情報漏洩で逮捕する。ジョーンは口をつぐんでいたが、マックスに会いに行き自分が情報を提供していたとマックスに告白する。

 

ジョーンは政府の公職についているウイリアムに懇願し、マックスとジョーンをオーストラリアに逃すように依頼する。ウイリアムはジョーンに弱みを握られていたこともあり職権を使って二人に偽名のパスポートを渡しオーストラリアへ逃す。

 

時は2000年、ジョーンは取り調べの中次第に過去の自分を明らかにし、弁護士である息子のニックに弁護を依頼するが、国を裏切ったとニックは拒否する。何もかも失ったジョーンはかつてもらっていた毒針のついたペンダントを手にするが行為に及ばず、自宅前でマスコミの前で、自分のしたことは東西の均衡を生んで悲惨な戦争を回避せしめたのだと公言、傍にニックがやってきて、ジョーンを擁護して映画は幕を閉じる。

 

ジョーンのモデルになった人物はKGBのスパイであったことがテロップされる。つまり映画として描かれた主人公は明らかに製作側のメッセージを伝えるための架空の人物だったとわかる。果たして、この行為が平和を生んだのかはかなり偏った考えと思わなくもない物語で、それを客観的に受け入れるかどうかが評価を決めると思いました。

 

「ハニーボーイ」

凡作ではないし、それなりに映画的な描写を見せる面白い映画なのですが、あまりにも今更という内容で、しんどかった。監督はアルマ・ハレル。

 

青年となった主人公オーティスがアクションシーンの撮影をしている場面から映画は幕を開ける。そしてガールフレンドとドライブをしていて事故を起こすが飲酒運転でもあった彼は施設に収監される。子役時代から活躍していたオーティスの子供時代の撮影シーンに場面が移る。

 

不器用で子供に横柄な態度をするひょうきんものの父親ジェームズはオーティスのマネージャー的な役割をしていた。何かにつけて殴るジェームズに振り回されるオーティス。そんなオーティスを心配する保護観察館のトムや寝泊りしているモーテルに住む隣人の少女などが絡み、過去と現代をスイッチングしながら映画は展開していく。

 

息子への愛情表現がぎこちないジェームズだがオーティスを愛する心は負けていない。しかしそんなジェームズに溝を感じるオーティスは時に普通の生活に憧れ涙する。

 

現代のオーティスはそんな過去を振り返りながら、父が本当は寂しかったのかと感じ始める。ある時、鶏の後を追っていくとかつてのモーテルにつき、そこに道化の格好のジェームズがいた。オーティスはジェームズに駆け寄り抱き合う。映画はこの辺りで終わっていく。

 

ヒューマンドラマとしてじんわり感動すべきところだが、何とも分かり易すぎるくらいにシンプルすぎて、映像は面白いのに、どこか未完成感が見え隠れしてしまう。その未完成さが胸に迫る何かを生み出せなかった感じがしました。

映画感想「宮本武蔵」「宮本武蔵 般若坂の決斗」「宮本武蔵 二刀流開眼」(内田吐夢監督版)

宮本武蔵

大胆なカメラワークと構図、光を縦横に使った演出が豪快な作品で、何度か映画化されている中での白眉の一本という傑作です。監督は内田吐夢

 

関ヶ原の戦いに敗れた又八と武蔵の場面から始まり、お甲との出会いから又八が何処かへ逃げ、武蔵が宮本村に戻って沢庵に捕まり、木に吊るされる場面、そしてお通との逃避行から、姫路城に幽閉されるまでを描く。

 

木に吊るされる武蔵を木の上から見下ろすように捉える大胆なカメラの構図、幽閉された姫路城の天守の部屋に血が滲み出てくる場面から光が足元から照らして武蔵を浮かび上がらせるクライマックス、駆け抜ける躍動感あふれる武蔵の動きの演出など、とにかく豪快な場面が続く素晴らしい映画です。

 

娯楽時代劇とはこう作るにだと言わんばかりの大胆そのものの仕上がりに引き込まれる一本でした。

 

宮本武蔵 般若坂の決斗」

ダイナミックな中に仏法の想念が挿入されてくる展開が丁寧に描かれているのはやはり五部作にした余裕を感じる一本、見事でした。監督は内田吐夢

 

物語は姫路城の幽閉から出た武蔵は宮本武蔵となり、お通と再開するも武者修行に出ていく。奈良宝蔵院での槍の対決シーンをメインに日観和尚との出会いで、自らの強さを戒められ、剣の道の真髄を諭されるが、まだまだ受け入れられない若き日の武蔵の叫びで映画は終わる。

 

クライマックスは盤若野での浪人たちとの大立ち回り。クレーンカメラを大胆に使ったダイナミックなカメラワークは変わりないものの、次第に原作の真髄に迫っていく展開が見応え十分。

 

宮本武蔵 二刀流開眼」

丁寧に原作を追っていく展開で、五部作のゆとりでじっくり見せる物語は見応え十分。監督は内田吐夢

 

般若坂の立ち回りの後柳生の里に向かった武蔵が、柳生四高弟との戦いで二刀流を初めて見せる。しかし、念願の石舟斎と出会うことなく、京都へ向かう。そこで吉岡清十郎との一騎討ちで清十郎をかたわにしてシリーズは後半へ移って行きます。佐々木小次郎とも対面し、クライマックスへ怒涛の展開。

 

中村錦之助の迫力ある立ち回りと、夕陽や山河を巧みに取り入れた映像づくりも娯楽時代劇の真骨頂で迫力があります。五本一気に見ても苦にならない面白さで、これぞ映画全盛期の名作という感じでした。

映画感想「アルプススタンドのはしの方」「ぐらんぶる」

「アルプススタンドのはしの方」

兵庫県の高校演劇部の名作戯曲の映画化。と、半信半疑でしたが、めちゃくちゃ良かったです。書き込まれた脚本の見事さ、なぜなぜとどんどん引き込まれていく展開、小さな作品なのに、大作にも引けを取らない人間ドラマ。ラストはもうスクリーンに釘付けなり、登場人物と一緒に応援して感動して熱くなって涙ぐんでいました。よかった!監督は城定秀夫。

 

一人の女子高生安田が何やら肩を叩かれ気を落としている場面からカットが変わる。とある高校の今日は甲子園大会第一戦、相手は甲子園常連高の強豪。学校からの強制で応援にきた安田と田宮は、ろくに野球のルールもわからないまま、暑いアルプススタンドの隅っこで応援している。少し離れたところに元野球部の藤野がやってくる。後ろの方に帰宅部の宮下も応援している。

 

物語は安田と田宮のたわいない会話から始まるが、次第に藤野が加わり、なぜ藤野が野球部を辞めたか、なぜ安田が演劇の公演準備をしていないのかなど語られていく。前回まで学年成績トップだった宮下は、吹奏楽部部長で応援団の楽曲をリードしてトランペットを吹いている久住にトップの座を奪われていた。

 

安田の所属する演劇部は部員にインフルエンザ感染者が出たため、高校大会に出場できなくなった過去があった。最初はそのことを田宮がお茶を買いに行った時に安田は藤野に漏らすが、実はそのインフルエンザになったのが田宮だとわかる。さらに、田宮が買ってきた豆茶が、実は自動販売機で一番安いものだとさりげないセリフに説明されたりする。このあたりの緻密さが素晴らしい。

 

安田らの高校野球部のエースは園田というピッチャーで、藤野の友達でもあるが、実は宮下は園田のことが好きだった。しかし、園田は久住と付き合っていることがわかり涙を流す。藤野には野球部の友達の矢野というのもいて、レギュラーになれない矢野を揶揄したりする。

 

絡み合う人間ドラマがアルプススタンドの隅っこで入れ替わり立ち替わり描かれて、時折スパイスでやたら熱い熱血教師厚木先生が絡んでくる。次第に安田たちのところに藤野が加わり、宮下も加わり、物語は、一方的だった試合が安田たちの高校が一点差まで追いついていく。

 

次第に久住や厚木先生、安田らが一体となって最後の舞台を応援、そこに登場する矢野のアナウンス。結局あと一歩で負けてしまうものに、自然と拍手してしまう安田、そして応援席全員の大歓声に変わる。これが物語の描き方。これが感動。

 

時がたち、矢野のプロデビュー戦の夜、アルプススタンドには社会人になった安田、田宮、宮下、がくる。同じく遅れて藤野も現れる。こうして映画は終わり。もう最高の青春ドラマの秀作でした。とにかく良かったです。

 

ぐらんぶる

勢いだけで突っ走る映画なのですが、緩急が弱く、全体が平坦な仕上がり。でもまあ、勢いで退屈はしなかった。というよりヒロインを演じた乃木坂46与田祐希がとにかく可愛いので終始デレッとしてしまったし、それ以外の女優さん全員がとにかくチャーミングで、それだけで十分な映画だった。これも見せ方かなと思います。ただ、主演の二人が魅せる演技力があればもっと面白かったのだろうが、他の役者に埋もれてしまって、物語を牽引できなかったのは残念です。監督は英勉

 

島の中にキャンパスがある大学に憧れて見事入学した伊織。目が覚めてみると真っ青な空、と思いきや全裸でキャンパスで横たわっている。逃げ回った末に足の爪に書かれたメッセージのところに行くとトランポリンとパンツが釣るされている。なんとか身につけたものの、叔父の営む海のペンションぐらんぶるにやってきて、いとこの美少女千紗に会った途端時間を繰り返すように全裸でキャンパス。今度は同じように全裸の耕平と出会い二人で走り、パンツを見つけて、ぐらんぶるへ行くとまた同じ状態でキャンパスで寝ている。それをなんと十回も繰り返し、校内モニターで自分が何をされたかチェックして、鍵を見つけて部屋に行くとダイビングサークルの面々と出会う。どうやら酒を飲まされ、何度もメンバーにキャンパスに放置されたとわかる。ここまではちょっとしつこいながらも良いとしよう。この後のダンスもいい。

 

あとは、従姉妹の千紗、姉の奈々華、さらにダイビングサークル先輩の梓などと出会う。何とこの三人の美少女がどれもこれも可愛いのだからもうそれだけでいい展開になる。

 

ダイビング用具は自腹で買う必要があり、校内美男子美少女コンテストに出ることになり、一騒動の後、伊織や耕平はライセンスを取ることになり、全員がライセンス合格。伊織と耕平は二人で朝の海へ。実はライセンスを取ってこの島を脱出するのが本当の目的だった。そして潜るが、途中で千紗と会い、巨大なサンゴ礁を見せられて他のメンバーも集まり、元の海岸へ。海で伊織が拾った瓶を開けてみると、ダイビングクラブの合言葉が入っていてエンディング。

 

とにかく、雑な脚本で、伊織は千紗に惚れたはずが、結局島から出る方を目的にしているのだがそのメリハリが全く描けてないし、愛菜のエピソードも適当で、放ったらかし。ダイビングクラブの男臭いノリをもっとコミカルに爆発させれば面白くなるはずが、そこも結局美少女を見せることに力が分散されて中途半端に尻すぼみ。まあ、凡作と言えばそうですが、与田祐希以下の美少女に目の保養をさせてもらった感じで十分な映画でした。

 

映画感想「死亡遊戯」(4Kリマスター版)「君が世界の始まり」

死亡遊戯

ご存知ブルース・リーの遺作にして未完の作品。四十年ぶりくらいの再見。お世辞にも面白い映画とは言えないだらだらしたストーリー展開ですが、クライマックスの黄色のコスチュームのブルース・リー本人のアクションシーンは彼のカンフーアクションの集大成的な美学を感じさせる見せ場で、ここだけで十分な映画です。監督はロバート・クローズ。

 

ビリーというカンフースターが「ドラゴンへの道」のラストシーンのような場面の撮影から映画が幕を開ける。彼にはアンという恋人がいて、この女がとにかくアホで、彼女が出てくるとビリーがピンチになるというおバカぶり。

 

国際的犯罪シンジゲートのボスドクターランドから契約を迫られている。とよくわからない物語で、ドクターが送り込む輩が何度やってもヘマばかり、一方、ビリーの周りの人物、特にアンが何度襲われてもまたヘマを繰り返す。このダラダラが延々ラストまで引っ張っていく。

 

そしてとにかくクライマックス、真っ黄色の服を着たブルース・リー扮するビリーが、次々と敵の悪人を順番に倒していく。まるでゲームのランクアップみたいに二階、三階と強い敵がいて、最後はやたらのっぽな殺し屋と対決して大団円。そのあと、ドクターも倒して映画は終わるが、どちらかというとブルース・リー追悼映画で、至る所に過去の作品の映像が散りばめられてノスタルジックに描かれていきます。まあ、見ておいたらいいかなという映画ですね。

 

「君が世界の終わり」

期待してなかったのですが、意外に良かった。大阪弁のギャグが微妙にずれている状態がいつのまにか心地よくなってきて映画がどんどん良くなっていく。切ない様な青春ドラマでありながらどこか現実を冷たく見据える若者の視点もしっかり描けているし、映画的なシーンもあちこちに見られる面白さも満喫。なんか四角いスクリーンの中に展開する世界が素敵な映画に出会った感じでした。監督はふくだももこ。

 

パトカーのサイレンの音、どうやら高校生が父親を殺害した事件が起こったらしく、犯人と思しき青年がパトカーに乗せられる。カットが変わると、女子高生えんののんびりした顔のアップ。そこへ飛び込んでくるやたら元気な友達の琴子。二人乗りして学校へやってくると、校門で先生が呼び止め、いつもの儀式の如く琴子と追いかけっこをする。使われなくなった半地下の教室に入り込んだえんはそこでタバコを吸っている琴子と合流。物音がしたので行ってみると一人の男子生徒業平が涙を流している。その姿に一目惚れする琴子。

 

ここに父と二人暮らしのジュンがいる。父はせっせと朝食を作っているが無視して学校へ行く。父とは仲が悪く、母を追い出したのは父だと恨んでいる。この日、閉店間近のショッピングセンターへ行き、屋上の駐車場で一人の男子生徒伊尾が女性とカーセックスをしている。この女性は伊尾の継母であることがわかる。ジュンは伊尾とそのまま非常階段に行きSEXする。

 

琴子はなんとか業平と仲良くなりたいため、何かにつけて業平に付き纏い始める。そしてようやくデートにこぎつけるが、業平は琴子のそばにいるえんが気になっていた。ある夜、自動販売機に頭をぶつけて喚いている男をなだめている業平を見つける。業平の父親は精神的にまいっていて、業平が面倒を見ていた。えんは成り行きで業平を家に連れてくる。えんの両親は陽気で、関西的なノリで業平を迎え食事をする。

 

ある日、えんはクラスのイケメン岡田に、和歌でラブレターをもらったので訳してほしいと頼まれ、二人は仲良くなる。えんは成績がいつもトップで、そこを見込まれたのだが、羨望のまとの岡田に近づくえんを女子たちが羨む。

 

琴子は、業平がえんに気があるらしいことにショックを受け、学校でもえんと疎遠になっていく。えんは業平、岡田らと連みながら生活するようになる。そんな時、高校生が父を刺殺した事件がニュースで流れる。ジュンはてっきり伊尾だと思ったが、違っていた。またえんも業平だと思ったが、それも違って、全く知らない高校生が犯人だった。

 

いつものように閉店間近にショッピングセンターで遊んだ業平、えん、岡田が外に出ると土砂降りの雨、センターは閉店、どうしようかと思っていると同じくセンターで遊んでいたジュンと伊尾に会う。伊尾の継母ミナミがセンターで仕事をしていた関係で、従業員入り口のパスワードを知っていたので5人は閉店後のセンターに入り、しこたま遊び始める。

 

そして最後にクリスマスセールの前で擬似演奏をして大暴れし、歌い終わったところで警備員の拍手と共に追い出される。夜明けの町、それぞれが帰路に着く。ジュンと伊尾はバス停で待つ。ジュンがキスして欲しいという。伊尾はジュンの目を見据えてキスをする。ジュンは家に帰ると父が食卓で寝ている。作ってくれたお好み焼きをおもむろに食べ出すジュン。父とようやく打ち解けたシーンが続く。

 

業平とえんは自転車で帰る。業平はえんに出会ったことで、前に進めたという。岡田は、和歌の返事を出していないという。そして学校の授業。ぼんやりしているえんは廊下に琴子を認めて追いかける。琴子は校庭の水たまりまでかけて行きえんもそこで追いつき、共に水たまりの中へ。琴子はえんに、自分に気にせず業平と付き合えという。えんはそんなことどうでもいいかのように琴子に笑いかける。琴子はまるで世界の始まりみたいだと大笑いして映画は終わる。

 

とっても良いです。スクリーンの中で展開する別世界のようでとっても魅了されてしまう映画。良いのを見たなという感じでした。