くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「大盗賊」「危険を買う男」

「大盗賊」

普通の活劇で、今や廃れてしまったジャンルの一本。実在の義賊カルトゥーシュの自伝的な映画。監督はフィリップ・ドゥ・ブロカ。

 

カルトゥーシュが、次々とスリを繰り返していく鮮やかなシーンから映画が始まる。そして盗んだものを元締めのマリショに持っていくがマリショがあまりに冷たいので反抗して飛び出していく。この街の警察長官がやってくる。連れてきた妻のイザベルにカルトゥーシュは一目惚れしてしまう。

 

カルトゥーシュはマリショの追っ手から逃れるため軍隊に入るが、そこで軍の金を奪って逃走、途中ヴェニュスと知り合う。そして間も無くカルトゥーシュは彼女と結婚するがイザベルへの想いは消えていなかった。

 

マリショに復讐し、次々と金持ちから金を盗んで貧乏人に分けていく。そしてこの街のヒーローになっていく。そんなカルトゥーシュを憎む警察庁長官は、カルトゥーシュ逮捕のため全力をかけてくる。

 

カルトゥーシュはイザベルに最後のアプローチをし、町外れで待っているという。そして一人で待っているところへ憲兵隊が突入してきて逮捕される。カルトゥーシュを助けるためにヴェニュスら仲間が駆けつけるが逃げる途中ヴェニュスは撃たれて死んでしまう。

 

カルトゥーシュは警察長官らのパーティにヴェニュスの死骸を持ち込み、宝石を奪い、葬儀をしてやって、仲間と共に警察長官の部隊へ乗り込んでいき映画はは終わる。まあ、普通の活劇で、なんの秀でたものもない娯楽映画でした。

 

「危険を買う男」

なんとも雑で適当な脚本で、面白いはずがどれもこれもぶち壊していく流れに混乱してしまうアクション作品でした。でもまあこれもこの時代の映画という感じです。監督はフィリップ・ラブロ。

 

主人公のハンターは賞金稼ぎで、警察の上層部と関係があり、警察が直接入り込めない事件を扱っている。この日も麻薬の取引の段取りをし、見事逮捕する。犯罪者組織はなんとかハンターの素性を見つけようとしていた。

 

そんな時、一人の男が、ゲームセンターで金を盗もうとしている青年コスタにある仕事を持ちかける。そして、コスタに宝石店を襲わせ、自分は遅れて警官の格好で乗り込み、店主を打ち殺し、コスタも撃つがそれははずれ、そこへ警官が踏み込んでくる。この男はタカと呼ばれ素性のわからない強盗だった。

 

唯一顔を知るコスタは捕まるが黙秘を続けているので、口を割らせるためハンターを刑務所に送り込む。そして情報を引き出すが、コスタも出所させて欲しいとハンターは上層部に頼む。刑務所では脱獄ビジネスというのが横行していて金で肩がつくという。

 

そしてまんまと脱獄するが、犯罪組織もハンターを発見することになり、ハンターとコスタは追われるようになる。一方で、警察上層部もハンターを確保しようとするが連絡が途切れてしまう。

 

ハンターは彼を追ってくる組織のアジトに向かいそこで対決するが、ハンターが死んだと思ったコスタは一人でタカに復讐するために向かう。一方ハンターは形勢を逆転させ、犯罪者組織を倒し、コスタを追う。

 

コスタはタカのアジトに行き金を数えている時タカがやってきて撃たれてしまう。ようやくハンターがやってくるが既にコスタの息はなかった。ハンターはタカを倒すために、タカの本当の仕事であるパーサーとして勤務する飛行機に乗り込み、コスタの恨みを晴らしてやって映画は終わっていく。

 

物語が途中から二本立てになるのだが、そのどちらが主か分からなくなり、余計な枝葉が展開していく上にコスタが何度もヘマをするダラダラ感が目立ってきてキレがなくなってきたのが残念。まあ普通のアクション映画という一本でした。

映画感想「十二単衣を着た悪魔」「ジオラマボーイ・パノラマガール」

十二単衣を着た悪魔」

低予算のどうしようもない映画かと思って見ていたのですが、弘徽殿の女御を演じた三吉彩花が中心になるにつれて映画の足元がしっかりして、最後まで物語を引っ張ってくれました。ラストは、それなりにじんわりと胸が熱くなりました。監督は黒木瞳

 

源氏物語のイベントのバイトにきた雷は、優秀な弟水に劣等感を抱き、彼女にも逃げられ、就職もできず沈んでいた。そんな彼は、ある夜、雷に撃たれたようになって気がついたら源氏物語の世界にタイムスリップしてしまう。歴史を知っている雷は陰陽師となって、弘徽殿の女御に仕えて歴史の中に生き始める。

 

物語に描かれている弘徽殿の女御とはどこか違うしっかりした女性を目の当たりにし、さらに自分と境遇の似ている春宮に惹かれた雷は、人間としての成長を遂げていく。

 

結婚し、妻が妊娠したものの、早産で死んでしまう。様々な人の流れ人生の機微を経験した雷は弘徽殿の女御の、前向きな生き様に心打たれていく。しかし、雷は突然現代に戻る。自分の生きる場所は源氏物語の世界だと、もう一度タイムスリップしようとするも叶わず、そんな彼を水を含め家族が暖かく受け入れる。

 

雷は弘徽殿の女御の生き方に倣い、一般に信じられている弘徽殿の女御の本当の姿を小説にしようとする。そんな彼の前に、源氏物語の世界で添い遂げた倫子にそっくりな女性と会って映画は終わっていく。

 

映画の作りは普通ではあるけれど、三吉彩花の熱演が映画を映画として形作るし、雷の存在も浮き上がらせた。期待はしていなかったが、思いの外、いい映画だった気がします。

 

ジオラマボーイ・パノラマガール」

こんな純愛があってもいい。リアルなようでリアルじゃなくて、平凡なようで平凡じゃない。ラブストーリーのようで青春映画のような、さりげない高校生たちの物語。もう少し、構成を研ぎ澄ましていたら傑作になりそうな予感のなんか素敵な映画でした。監督は瀬田なつき

 

高校生のハルコが、妹に起こされて学校へ飛び出していく。一方、ケンイチはいつものように自転車で学校へ。ある陸橋で二人はすれ違っているが、出会っているわけではない。ハルコは同級生のカエデたちと女子トーク。一方ケンイチは試験の途中で突然学校を辞めると教室を出ていく。帰ってみれば、看護師で気の強い姉のサカエがいる。

 

学校を辞めたケンイチは暇を持て余し、スケボーを持って渋谷でナンパし、一人の女性マユミと出会い喫茶店へ。そこでマユミの彼氏が来てコテンパンに殴られる。

 

ハルコは夕食の使いでコンビニの帰り、怪我をして倒れているケンイチと出会う。そして、お菓子などをあげて別れるが、ハルコはケンイチに一目惚れする。ケンイチが学生証を忘れていたので、それを届けに行って、ケンイチの姉サカエに誤って水をかけられ、服を乾かしているところへケンイチが帰ってくる。そして送ってもらって帰るが、サカエが渋谷でのイベントのチケットをハルコに渡し、ハルコはカエデと出かけることにする。

 

ハルコはおしゃれしてイベントへ。ケンイチとの再会を楽しみにしていたが、ケンイチはマユミを誘っていて、マユミはハルコの前でケンイチにキスをする。失恋したハルコは自暴自棄にお酒を飲み、たまたま出会った若者とはしゃいでいるうちにキスをされる。慌てて逃げるハルコ。

 

ハルコは、イベントの夜の夜更かしで母と口を聞いていないので、母の機嫌を直すために、有名なシュークリームを買いに行くが、それはすでになく、そこに来た妹とその友達と建設中のビルへ。

 

一方ケンイチはマユミと一夜を過ごし、すっかりマユミにのめり込むが、ある時訪ねていくとマユミはグアテマラに行ってしまったという。

 

ハルコの誕生日が近づいていて、カエデたちは、先日のビルでハルコの誕生会をしようとする。そしてサプライズでケンイチを連れてくるが、ケンイチはハルコを忘れていた。ショックのハルコだが、起死回生で飛び込んだケンイチ。二人を残しカエデたちは帰る。ハルコとケンイチは一夜を過ごし始発の電車へ。いつもと反対方向に乗ろうと言う。カエデたちも夜明けの街を見下ろしていた。こうして映画は終わる。

 

どうということもない不思議なセンスの作品で、透明感はあるけどリアリティはない。青春映画で純愛映画みたいですが、その方向へ突っ走るわけでもない。でも、いい感じの作品でした。

映画感想「大頭脳」「プロフェッショナル」

「大頭脳」

これは面白かった。馬鹿馬鹿しいコメディなのだが、やることのスケールがでかくて、呆れているうちにどんどん引き込まれていく。傑作でした。監督はジェラール・ウーリー。

 

伝説の怪盗ブレインが街を歩いている。あまりに頭がいいので顔が少し傾いているというニュースからのドタバタ劇で映画は幕を開ける。ここに脱獄を目論むアルトゥールがいる。彼を助けるためにアナトールが穴を掘り、独房からもアルトゥールが穴を掘る。そして無事脱獄。

 

さて、ブレインはマフィアのボススキャナピエコと協力して、NATOがパリから持ち出す大金を盗む計画を立てている。列車で運ぶ12000ドルの大金を盗む計画だったが、アルトゥールらもその金を盗む計画だった。

 

二組の泥棒が走る列車で、上と下で大金の車両に入り込む下りがまず痛快に面白い。さらに、アルトゥールらが盗んだと思った金はブレインらの部下がたまたま盗んで脱出、それを追うアルトゥールら。一方、ブラインらは逃げる途中で検問に引っかかるがその検問はスキャナピエコらの偽警官で、ブレインを裏切ったのだ。

 

二転三転しながら進む物語は、フランスからアメリカに自由の女神を運ぶパレードと遭遇。スキャナピエコはその銅像の中に金を隠している。それを見つけたアルトゥールはその銅像の中に入り込む。追いかけていくブレインやスキャナピエコだが、釣り上げられた銅像の底が開いて金がばらまかれるクライマックスへ。

 

そして、ブレインとアルトゥールらが船でニューヨークまでやってきて、次のターゲットを見つけて映画は終わる。まるでルパン三世だ。半分になった車で追いかけたり、派手な花火で銃撃戦をしたり、どれもこれもがはちゃめちゃでスケールがでかい上に馬鹿馬鹿しい。全く、こんな傑作見逃していたのかと思う。楽しかった。

 

「プロフェッショナル」

少々テンポが緩く、淡々と抑揚なく進むので、激しいシーンに慣れた今の世代には間延びして見えてしまう。しかし古き良きフランス映画の空気が満載された作品で、かつて映画はこういう風にロマンがあったと言わんばかりの懐かしさと完成度の高さにうっとりしてしまいました。監督はジョルジュ・ロートネル。カメラはアンリ・ドカエ

 

主人公ボーモントがマラガウィ共和国の法廷に立っているシーンから映画は始まる。なぜ彼がここにいるかは説明がないのだが、どうやら何かに貶められて捕まったようで、薬で自白させられ強制労働に駆り出される。しかし、そこを脱獄し、パリに戻ったボーモントは、自分を陥れた上層部への復讐と、当初の目的だったマラカヴィ共和国のンジャラ大統領がパリに来ているので彼をを殺しにいく。

 

まず、彼を雇っている機関の秘書アリスに花束を送り、自分がこれからすることを知らせ、ホームレスに変装して、見張りの警官を騙して妻に会い、次第に上層部に近づいていく。展開が非常に緩いのだが、エンニオ・モリコーネの名曲が繰り返し流され、パリに来ていたンジャラ大統領も田舎の邸宅に避難する。

 

ボーモントは巧みに情報を仕入れ、彼の宿敵の警視正を撃ち殺し、そして大統領の部屋へ乗り込む。しかし、自分は撃とうとせず、自分のピストルを大統領に渡す。建物の反対側では、ボーモントの銃を目印に狙撃手が待っていた。そして、大統領を誤って狙撃してしまう。

 

全てが終わり、堂々と出てきたボーモントは、脱出するためにヘリに向かう。しかし、大臣は電話で彼を止めるように命令、ボーモントはヘリに乗る寸前で機関銃で撃たれて死んでしまう。こうして映画は終わる。

 

少々テンポが悪いので、最後まで見るにはしんどいのですが、どこか懐かしい雰囲気が漂う作品で、かつてはこういうロマンのある映画がいっぱいあったなあと感慨に耽ってしまいました。

映画感想「愛しの母国」「星くず兄弟の伝説」「星くず兄弟の新たな伝説」

「愛しの母国」

中国建国七十年を記念してチェン・カイコーが総監督をし他に六人の監督を起用して製作されたオムニバス作品。国威高揚、プロパガンダ的な作品なのですが、歴史的な七つのエピソードにまつわる物語を、庶民のエピソードの中に捉え、なかなか面白い出来栄えになっていました。

 

もちろん、いかにもな国旗のシーンなども登場しますが、それを傍においても、七本の話を楽しめました。たしかに中国という国は世界から見ると色々問題もあるのかもしれませんが、現実に短期間で世界第二位になっていることは事実であり、そこを攻撃するばかりではいけないと思うのです。学ぶべきは学び受け入れるべきは受け入れていくのがこれからの私たちだと思います。

 

「星くず兄弟の伝説」

荒削りで投げやりに展開していく賑やかなロックミュージカル。ナンバーが楽しい。監督は手塚真

 

主人公のカンとシンゴがステージで歌っている。客席はモノクロ映像というシーンから映画は始まる。いつものようにステージが終わり楽屋に戻ると、大手芸能会社プロデューサーアトミック南の目に止まり、プロデビューすることになる。そしてわずか一週間で大スターに上りつめた二人だが、シンゴは酒に溺れるようになる。そしてステージに穴を空けるが埋めたのは、彼らのファンクラブのリーダー役だったマリモだった。

 

一躍マリモはスターとなり、さらに政治家の陰謀が渦巻く中、新しいスターも登場、シンゴ達はすっかり落ち目に。そして、その後のドタバタが展開されて、画面は冒頭のライブハウスのステージシーンへ。こうして映画は終わっていく。

ミュージカル風で勢いよく展開していくのが楽しい。まさにデビュー作らしい一本でした。

 

星くず兄弟の新たな伝説

ダラダラと即興のように展開するストーリーにため息が出てしまった。まとまりとか展開とかは無視し尽くした作り方もありといえばありですかね。監督は手塚真

 

かつての栄光は何処へやらという今や老人となりバーを経営するシンゴは、DJで活躍するカンを誘ってもう一度ロックを始めようと思いつく。時は近未来、地球ではダメだと月を目指し、若返りの装置に入って若くなり月へ向かう。そこで訳の分からないプロダクションに入り、ロックの魂を探しに行き、ドタバタがあって、なんかエンディング。どうにも長く感じる終わりのないラストには参った。二度と見たくない。ような作品でした。

映画感想「ザ・ハント」「罪の声」「きみの瞳が問いかけている」

「ザ・ハント」

少々グロいけれどかなり面白い。テンポのいい演出と抜群の脚本の組み立ての妙味、そしてこの手のB級ホラーアクションらしいいかにもな知的なセンス。この融合にすっかり引き込まれた。面白かった。監督はクレイグ・ゾベル。

 

一人の女性が背中向きに座り、テッドと呼ぶ男からのメールのやりとりが行われる。カットが変わるとプライベートジェットのような飛行機の中、一人の男がキャビンアテンダントから軽食を聞かれている。何十万ドルもするシャンパンを頼まれて、置いてないと答え、キャビはいかがとキャビンアテンダントに聞かれて、きみは食べたことがあるのかと問い返される。そこへ大男が現れる。そして大男が暴れるので、テッドという医師がやってきてキャビンアテンダントからペンを受け取り、それで突き刺して殺す。

 

大男は片付けられ、その部屋にもう一人の女が寝ていてジャンプカットしたらその女は鍵のついた猿轡をはめられてどこかの森の中へ。やがて、草原中央に置いてある箱を誰かが開けると豚が出てきて、武器がたくさん置いてある。蓋の裏の鍵で猿轡を外すが、一人が突然撃たれるので、皆武器を持って構える。こいつが主人公かと思ったら撃たれたり爆死したりする。そして最初の女を含めて三人が柵の外へ脱出する。どうやらマナーゲートという都市伝説のハントゲームに放り込まれたらしいという。

 

三人は道端のドラッグストアへ。気の良さそうな老夫婦が迎えるが、店のものを食べた女が突然死に、気がつくと老夫婦はガスマスクをつけていて、ガスが撒かれ、さらにショットガンで残り二人も殺される。そして死体を片付けているところへ無線が入る。スノーボールという女が向かったという。そこに現れたのがクリステルという女、ハント側からスノーボールと呼ばれている女である。クリステルは、店に入り、老夫婦を敵と見破ってショットガンで殺す。

 

外に出ると一人の男がやってくる。ドンと名乗るその男は味方らしく二人で逃げる。そしてやってきた列車に乗るが、軍に止められる。列車の中には難民がいる。軍の難民キャンプに連れて行かれたクリステルとドンは、難民の一人も敵側だった。そこへ大使館員が迎えにくる。二人は乗るが、この大使館員も敵で、クリステルが見破って、車を奪って脱出。当初箱が置いてあったところへ。

 

その地下にはハンター達が集まりクリステルらを殺そうとしている。そこへ、クリステルとドンが突入し、全員倒すが、そこに無線が入り、ドンへの指示。ドンも敵かと思わせる内容で、クロステルはドンを撃つ。そして息も絶え絶えな軍事指導の男から、首謀者アシーナの館への道を聞いて、クリステルは一人で突入。

 

あとは女同士の肉弾戦。ひたすら暴れて、同士討ちのようになって倒れ、アシーナは息を引き取る前に、クリステルは人違いだったことを知り死んでしまう。クリステルはアシーナのドレスを着て、庭のプライベートジェットのなかへ。そして、何十万ドルもするシャンパンを飲み、キャビアを食べて離陸して映画は終わる。

 

とにかくテンポが抜群で、ジョージオーウェル動物農場や、ウサギと亀の寓話なども挿入された凝った脚本がうまい。ラストでクリステルが倒れた先にウサギがいたりする演出も楽しめました。

 

「罪の声」

いい話だし、もっと胸に迫ってきても良さそうなのですが、ぐっと来るものがないのはどこが原因だろう。いい役者を揃えて、それなりにできる監督を起用しているが、もう一歩弱い。物語はグリコ・森永事件を元にした原作による映画化ですが、人間ドラマの描写に力がなかった。まあ、それでもラストは、じんわりとは来たからいいとしましょう。監督は土井裕泰

 

一人のテーラーがスーツを作っているシーンそして時はこの男性の息子曽根俊也の場面へ。クリスマスの飾りが壊れたからと、押し入れを探していて、父の懐かしい箱を発見、その中にあった手帳とカセットテープを発見する。その手帳に書かれていたのは約30年以上前の事件の内容らしきことが書かれていたこと、さらにその時に犯人が使った子供の声のテープだった。しかもその声は俊也の声だった。俊也はその手帳が、父の兄達雄のものだと突き止め、達雄が事件に関わっていたこと、自分の声がなぜ使われ、誰が録音したのかを調べ始める。

 

一方、新聞社で文化部の仕事をしている阿久津英士は、昭和最大の未解決事件を再調査する仕事を受けていた。乗り気ではなかった阿久津だが、次第にその真相に迫っていく。そして、堺の料亭での聞き込みを続けるうち、その料亭に聞きにきたもう一人の人物、曽根俊也の存在を知る。

 

阿久津は曽根俊也の店を訪れ、取材を進めようと迫るが、今更犯罪に関わった過去に触れたくない俊也は最初は断る。しかし自分以外に二人の子供が声のテープに関わっていたことを知り、その人達の今を探すことを条件に、自分が見つけたテープと手帳を阿久津に託す。

 

映画は、次第に事件の真相に迫っていく阿久津の姿とそれに伴って、事件の時の三人の子供のその後の数奇な人生を柱にしていく。曽根俊也だけが普通に幸せな人生を歩んでいたが他の二人の人生は波乱と不幸の日々だった。そういう真実を目の当たりにする阿久津は自分のこれからの仕事の目的を改めて知る。

 

こうして映画は終わっていくが、おそらく物語の骨子は阿久津の物語なのだろうという展開になっている。本来、曽根俊也の人生の何かも原作ではしっかり描いているのだろうが、そこが薄くなってしまったために映画全体に強さが出なかったのかもしれない。

 

非常に奥の深い中身のあるお話だと思うが、今更、学生運動を全面に出した脚本や原作があるのでどうしようも無いがイギリスに達雄がいるという無理矢理海外展開はやや厳しいものもある。もう少し映像とするにあたっての推敲が必要だったのではないかと思う。でも映画としては人生を考えることができるいい映画でした。

 

「きみの瞳が問いかけている」

前半が素晴らしくいいのに、後半に進んでいくに従って、雑になっていく上に、くどいほどの引っ張りが映画をどんどんダメにしてエンドロールを迎えた感じです。ラストはもっと鮮やかに決めるべきでしたね。チャップリンの名作「街の灯」を元にした韓国映画のリメイク作品です。監督は三木孝浩。

 

酒の配達のバイトをする主人公累のシーンから、新たなバイトで駐車場の管理を始める場面に移り映画は始まる。累が管理室でぼんやりしていると、突然目の見えない女性が累にお弁当やらなんやらを持ってきて一緒にテレビを見ようという。実は累の前にいたおじさんの管理人と親しかった彼女はいつもここへ遊びにきていたのだ。彼女の名前は明香里、事故でほとんど視力を失っていた。

 

明香里は、累のところに入り浸るようになるが、累は中年に近いおじさんだと勘違いしていた。累は、かつてキックボクサーで、闇リングの試合で活躍していたが、あることがきっかけで留置所に三年ほど入っていて出てきたのだ。

 

累と明香里は、次第に親しくなり、お互いの年齢も分かり愛し合うようになる。累も、かつてのジムに戻り普通にボクシングを再開していた。明香里は。会社の上司のセクハラから会社を辞めて、兼ねてからの陶芸を始めながらマッサージ師の勉強を始めていた。

 

そんな時、累のところにかつての闇リングの元締めのヤクザが近づいてくる。さらに明香里の目が悪くなり網膜剥離を引き起こし始めていた。手術を進める累に明香里はかつての事故の原因を語り出す。

 

免許取り立てで両親を乗せて運転していた明香里は、窓から燃える人が落ちてくるのを見て事故を起こした。かつてヤクザ紛いの仕事をしていた累は、裏切った仲間をリンチにし、その際そのリンチされた男は灯油を被って火をつけて窓から飛び降り、その直後警察に逮捕された。なんと、累は明香里の事故の原因を作っていた。

 

罪悪感に苛まれる累は、闇リングの元締めの頼みを聞く代わりに明香里に近づくのを辞めさせるのと明香里の手術代のためにリングに立つ。そしてなんとか勝つのだが、逆恨みしたヤクザは累を殺す。一方手術に成功した明香里は、マッサージの資格を取り、ボランティアで病院を回る。二年が経っていた。

 

ある時、ある病室に累が担ぎ込まれてくる。累は命が助かっていたが口が聞けず、入院していた。累は明香里に気がつくが明香里はそのままマッサージして去る。明香里は陶芸の店を開いていて、累はそこを訪ねてきて、かつて明香里が駐車場の管理室にきた時に話していた金木犀を買う。さらに、累が姿を消す前に明香里に送るべきオルゴールを店で見つけて涙ぐむ。

 

外出から帰った明香里は、松葉杖をついていた累が、あの累だと知り追いかけるが見失う。累は罪悪感から、かつて母が無理心中しようとしていた海岸にいた。明香里が駆けつけ、帰るべきところはここじゃないと抱き合ってエンディング。

 

とにかく、ラストが相当にくどいのと、中盤あたりの上司のセクハラやなど無駄なシーンも盛り込みすぎで、「街の灯」が原案の映画のリメイクならもっと鮮やかに閉めるべきだと思う。でも、吉高由里子の演技が抜群で、前半はすっかり彼女に引き込まれました。それだけでも見た甲斐があったと思います。

映画感想「レディ・マクベス」「ウルフウォーカー」

「レディ・マクベス

映画にキレがない。脇役が弱いために主役が浮かび上がってこない仕上がり。面白いはずなのだが今ひとつになるのが残念な映画でした。監督はウィリアム・オルドロイド。

 

主人公キャサリンと夫との結婚式から初夜のシーンになって映画は始まる。しかし夫となった男はキャサリンの裸は見るが抱こうとしない。さらに義父もキャサリンは跡取りを生むための道具のようにしか見ていなかった。ある時、義父も仕事で出かけ、夫も出かけた時、たまたま新しい使用人のセバスチャンらがメイドのアナを辱めている現場に出くわす。

 

キャサリンは粗暴なセバスチャンに興味を持ち、ある時部屋に無理やりやってきたセバスチャンに身を任せる。そして二人は不倫を重ねていく。まもなくして義父が帰ってきて、キャサリンを責めるがキャサリンは義父に毒キノコを食べさせて、部屋に閉じ込めて殺してしまう。それを目撃したアナはその日から口が聞けなくなる。

 

キャサリンはセバスチャンと逢瀬を繰り返していくが、ある明け方、夫が帰ってくる。街で噂を聞いてキャサリンを責めるためだったが、そこへセバスチャンが現れ、キャサリンと一緒に夫を殺してしまう。しかし、セバスチャンは人を殺したことに苛まれるようになる。

 

そんな時、テディという男の子を連れた女がやってくる。テディはキャサリンの夫が他の女に産ませた子供で、この家の被後見人なのだという。再び仕える身になったキャサリンは、たまたまテディが川へ遊びに行って溺れかけてセバスチャンが連れ帰った時に、テディの付き人が席を外した隙に殺す。

 

周りが、殺しであると推理し始め、セバスチャンは自分とキャサリンが殺したと白状するが、キャサリンはセバスチャンがアナと共謀して殺したと訴え、二人は逮捕されていく。一人残ったキャサリンがソファに座り、この家の主人となったことを見せるシーンで映画は終わる。

 

夫を殺してからいきなりセバスチャンがチキンな臆病者になってしまうのが何とも弱く、キャラクターが矛盾しているのがおかしいし、さらにアナのキャラクターの描き方も今ひとつキレがない。キャサリンが頑張っているが周りの弱さにそのまま引きづられた感じになってしまった。作り方で面白くなりそうなのに残念な作品でした。

 

「ウルフウォーカー」

これは良かった。美しい絵と躍動感あふれるアニメシーンが抜群。もう少しストーリーを整理して脇役もしっかり描けていたら傑作だった。でも良いアニメです。引き込まれました。監督はトム・ムーア、ロス・スチュアート。

 

森で木を切る人たち。突然狼に襲われるが何やら遠吠えが聞こえると一斉に去っていく。そして現れたウルフウォーカーに傷をなおしてもらう木こりのシーンで映画は始まる。

 

一人の少女ロビンはイングランドからアイルランドのキルケニーという街に引っ越してきた。父は狼ハンターで、ロビンも父に負けじと森にやってきた。しかしいつも父に叱られていた。というのもこの地を統治するために派遣された護国卿が大人以外が街から出るのを禁じていたからだ。母を亡くし、父は一人でロビンを守るために護国卿の命令を必死で遵守していた。しかしなんとか森に入りたいロビンは狼狩りに行った父を追って森に行く。そこで狼に襲われそうになり、そこを邪魔されたロビンはいつも連れている鳥のマーリンを撃ってしまう。マーリンは傷つくが突然現れた少女メーヴに連れ去られる。

 

しかし、その後マーリンはロビンの元に戻ってくる。そして再度森の入ると狼の姿のメーヴと出会う。彼女はウルフウォーカーだった。ウルフウォーカーは眠っている時は狼の姿に変身するのだ。ロビンも、罠に捕まって暴れている時にメーヴに噛まれ、眠ると狼に変身するようになっていた。

 

メーヴの母は行方不明だったが、どうやら護国卿の館に捕まっていることをロビンが見つける。メーヴは母を取り戻して森を去るつもりで母を待っていたのだ。しかしロビンの父の狼狩りも進まない中、護国卿は森を焼き払う命令を下す。一方で、生け捕ったメーヴの母を村人の見せしめにしようとするがロビンらの活躍で脱出、しかしメーヴの母は重傷を負ってしまう。

 

護国卿の軍隊が森に迫ってくる。メーヴ以下狼達が迎え撃つ一方、メーヴはヒーラーの力で母の傷を治そうと必死になる。また、ロビンの父もメーヴらと戦った時、噛まれてしまう。

 

護国卿と狼達はロビンの先導で戦い、ロビンがピンチになった時狼に変身したロビンの父は護国卿を倒す。そして狼全員の力を合わせてヒーラーを行いメーヴの母は蘇る。

 

ロビン、ロビンの父、メーヴ、メーヴの母はめでたく家族になって一緒に森で暮らし始めて映画は終わる。とにかく絵が抜群に美しい。それにスピーディに動き回るアニメーションが見事で、画面に引き込まれるのですが、残念ながら、ロビンと仲良くなる村人のおっさんやマーリン、その他脇役がもうちょっとストーリーを引き立てていたらもっと面白かったのにと思うと残念。でもとってもクオリティの高いアニメでした。

映画感想「カサノバ」「サテリコン」

カサノバ

40年ぶりの再見、豪華絢爛たるSEX絵巻だが、これほどすごい映画だったかと改めて、感嘆してしまいました。セットの物凄さもですが、次はどんなシーンが出てくるのかとワクワクするほどの絵巻物の世界に引き込まれる。ただ、若干長いですね。監督はフェデリコ・フェリーニ

 

ヴェネチアでのカーニバルのシーンから映画は幕を開ける。壮大なセットに圧倒されるが、これが序の口であることにこの後気付かされる。主人公カサノバは、尼僧の求めに応じて、指定された館へ海を越えて向かう。舞台セットのような海のシーン、その後に繰り広げられる退廃的なSEXシーン、色彩美にまず息を呑む。そして帰り道、カサノバは魔術に魅入られたと牢屋に放り込まれ、そこで、彼は過去を思い出す。

 

まもなくして、カサノバは牢屋を脱出し、やがてヨーロッパ中を股にかけての女遍歴が描かれていく。シュールな演出と、目眩くような映像、色彩の数々、現れるシーンそれぞれが独創的で幻想的、次々と女達と関わっていくカサノバは、やがて、人形にさえも交わることになる。そして母との出会いから、彼の晩年へと物語は進んでいく。

 

そして、かつての栄光も薄れてきた老年のカサノバは、若き日の思い出を回想しながら彼を迎えてくれたのは人形だった。こうして人形同士になって踊る二人の姿で映画は暗転し幕を閉じる。みごとです。素晴らしい映像絵巻、これぞフェリーニの世界。素晴らしかった。

 

サテリコン

30年ぶりの再見。壮大でシュールなローマ時代の歴史絵巻、めくるめく展開に何の脈絡もなく、二人の青年エンクリトゥスとアシロトスを通じて現代とローマ時代を重ねて描く風刺劇。その目を見張る映像はさすがに圧倒されるが、シュールすぎる映像展開には凡人の自分の非力を目の当たりにさせられる。監督はフェデリコ・フェリーニ

 

二人の青年、エンクリトゥスとアシリトスが一人の美少年を取り合う場面から映画は始まる。舞台は巨大な建物の内部で、それが突然地震のように崩れると現代の美術館に放り込まれる。そして時に暴君ネロの非道を行う中に放り込まれたかと思うと寵臣ペトロニウスが現れたりする。そして、広大な荒野や、幻想的な景色、そしてギリシャの奴隷船と、時と空間が縦横無尽にジャンプし、そこで繰り広げられるグロテスクとエロティシズムの世界に翻弄されていく。

 

映像が独創的というより創造性の限界を超えた構図に圧倒されるかと思えば、目を背けるようなグロテスクな展開が挿入されていく。まさに天才フェデリコ・フェリーニと我々凡人との感性の開きを突きつけられるような作品でした。圧倒!