くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「レディ・ジョーカー」

いま、日本でこの人と思われる名優が一同にぶつかり合った骨太の秀作、それがこの「レディ・ジョーカー」でした。

高村薫の小説はこの作品に限らず、非常にこと細かく緻密な描写があちこちにちりばめられて物語が展開していきます。彼女の小説をちょっとぱらぱらとめくってみても判るように活字がびっしりなのです。
この「レディ・ジョーカー」もしかり、上下巻に分けられ、それぞれが約500ページびっしりと事細かな描写が積み重ねられています。そこに奥の深い人間の情念が描かれるのですが、映像化に当たって約二時間の中にその要素を集約して行くのは並大抵のことではなかったでしょう。

私はすでに原作を読んで、その見事な描写と展開に感激して本を閉じました。従って、この映画作品もかなりの期待をしていたのです。
結果としてはなかなかの見事なできばえでほっとしました。
細やかな人物設定をくどくなく巧みにショートカットの積み重ねで紹介していく冒頭部はまさに脚本の腕の見せ所と監督中田秀幸の力量のたまものでしょう。

さらに、この複雑なテーマを表現するには、渡哲也以下の名優人の見事なコラボレーションがあってこそなしえる物語であったと思います。
緻密に組まれた原作の持ち味をほとんど崩すことなく二時間にまとめたスタッフの意気込みとそれを見事に演じた名優たちの演技。完成した作品は原作の味を残しつつ、映像の中でしか表現し得ないテーマを全面に出してラストを締めくくります。

原作は50年近く前の事件から端を発し、現代に生きる主人公たちの運命にいかに関わっていくかを時間設定を前後させながら展開していきます。
そこには一人一人の人間が、生きてきた中で行き着いた結果のむなしさのようなものを誘拐事件を計画することでその証を求めるように、そしてその結果から生まれる晩年の生き甲斐のようなものを表現しています。
推理ドラマでもサスペンスでもないのにどこかわくわくしながら、ラストシーンでじわりとしみわたる感動を原作は呼んでくれますが、その見事なラストシーンを映画では別の演出で見せてくれました。

非常に充実感のある内容の分厚い作品でした。おみごと・・


レディ・ジョーカー〈上〉
高村 薫

照柿 マークスの山 レディ・ジョーカー〈下〉 わが手に拳銃を 黄金を抱いて翔べ