くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カムイ外伝」

カムイ外伝

私のような世代にとって「カムイ外伝」はリアルタイムでアニメを見た世代である。そして原作者白土三平の世界観に酔った世代でもある。
白土三平の忍術漫画というのは、一言でアクションのある単調なストーリーではなく、奥底にある人間同士の業、差別、悲哀、孤独などなどがしっかりと埋め込まれている。当然、まだ小学生であった私にとってはあまりにも大人の世界過ぎた。

そんな、深みのある原作をとうとう実写かされるというのはかなりの不安と期待があった。しかし、監督の崔洋一と宮籐官九郎は見事にその世界観を作り出してくれた。一歩間違うと単調なアクション時代劇になりあるいは物悲しさだけの単調なドラマになるところを絶妙のバランスと、天性の才能で融合させた手腕は見事である。

映画が始まって、いきなりカムイが森の中でワイヤーアークとCGを使ったアクションシーンが次々と展開する。その背後に流れるナレーションで、カムイの人となりが紹介され、まったく前知識のない人にもこの主人公の姿が植え込まれる。
やや、しつこいくらいに展開するこの冒頭のアクションシーンは非常に丁寧かつ緻密ではあるが、若干物語のつかみにしては長すぎるきらいもありますね。

しかしながら、馬の足を切り落として逃げる半兵衛(小林薫)のエピソードに入ってくると、いよいよ白土三平の「カムイ外伝」の世界観へと映画は進んでいきます。カメラを大きく移動させて、クレーンを多用した画面作りは、スケール感を作り出すとともに、シーンに躍動感を与え、ともするとじめっとした物悲しい抜け忍のドラマになるところを微妙にカバーしてくれます。

そもそも原作は短編の物語のつなぎあわせであり、さまざまなエピソードの集合体です。にもかかわらず、毎回勧善懲悪のアクションがあるとは限らないところが大人の世界観でもあるのですが、そんな独特のムードをこの作品は二つの話をくっつけてひとつの話につむぐことでカムイの物語を見事に再現します。

前半部分のスガルの島の物語、そして、中盤で半兵衛を助け出して幸島に渡ったあとの不動(伊藤英明)とのエピソードがまったくかけはなした物語にして、逃げ続けざるを得ないカムイの悲しい運命の物語を表現しようとした宮籐官九郎の構成は素晴らしいといわざるを得ませんね。この攻勢の作り方がラストシーンの海に消えていくカムイとそれにかぶるナレーションを生かすことにつながったのだと思います。

海のシーンにもCGを使用して極端な群青色を演出したり、やや動きはぎこちないとはいえ、それは忍者の動き、忍術映画としてわざと作り出したぎこちなさの工夫も交え、全体のできばえは十分であったと思います。私はこの映画に悪評はつけたくないですね。見事でした