久しぶりにうなるほどすごい映画を見ました。
「エディット・ピアフ 愛の讃歌」
ご存じ、名曲「バラ色の人生」「愛の讃歌」で有名なフランスのシャンソン歌手エディット・ピアフの半生を描いた映画です。
監督はオリヴィエ・ダアン、フランス、イギリス、チェコの合作映画です。
なんといってもすごいのが、カメラワークとカメラアングル。
当初、エディット・ピアフが子供時代から売り出し始めるまでの間はカメラはほとんど、バストショットまでで、主人公を遠くから見据えているようにとらえていきます。他の俳優さんもあまり近づいたアングルではとらえません。
しかし、やがて、彼女が、キャバレー歌手から、音楽ホールの歌手へ上り詰めていくにつれ、カメラは一気にバストショットからアップ、そしてクローズアップ、さらに唇の超クローズアップへと寄っていきます。
そのあたりから、他の共演者に向けられるカメラもクローズアップが多用されはじめ、彼女本人のみならず彼女を取り巻いている人たちの顔の表情を細かくスクリーンに出すことで、心の動きを観客に訴えかけてくるのです。
そして圧巻は、クライマックス、最愛の恋人マルセルが飛行機事故で亡くなる日の朝、エディット・ピアフがベッドで目覚めると、傍らにマルセルの姿、彼女はキスをし抱きしめた後、台所にコーヒーを取りに行きます。しかし、途中、廊下で出会う人は一様に彼女を不安気に見つめます。
コーヒーを入れ、ベッドルームに戻ろうとする彼女に、一人が、マルセルが飛行機事故でなくなったことを知らせます。最初は信じない彼女はそのままベッドルームへコーヒーを運ぶとそこには誰もいない。泣き崩れるピアフ、泣きじゃくりながら廊下に出て進むと、その向こうには舞台の入口が、そして彼女はステージの中央にたち観客の前で「愛の讃歌」を・・・・
この、延々としたシーンをワンシーンワンカットで一気に見せます。思わずうなってしまう見事なシーン、そしてそれを演じた俳優たちのすばらしい演技に思わず拍手。
物語の構成は子供時代からの成長を描く過去と、舞台で倒れる死の当日を交互に重ね合わせながら描いていくのですが、これも、前半部分はゆっくりと交互にくみながら進みますが、後半からクライマックスは細かく交差させ、一気にラストに持っていきます。
脚本の見事さ、カメラ演出のすばらしさ、俳優たちの演技のすばらしさ、何もかもがそろったまさに傑作中の傑作の登場でした。
さて、主人公のエディット・ピアフの映画ですが、調べたところ、過去に二本あります。いずれも「愛の讃歌」という題名ですが、今となってはこの名曲すら知る人ぞすくなしでしょうね。
主演のマリオン・コテイヤールという俳優さん、何ともすばらしいです。私はエディット・ピアフ本人は知りませんが、目の前に本人が現れているのではないかと疑うほどの見事な演技でした。
見終わって、拍手したくなるほどの映画に久しぶりに出会いました。