デヴィッド・クローネンバーグという監督さんは時として徹底的なB級映画を作るかと思うと、超一級品の芸術作品を完成させる。
そんなシリアスなサスペンスドラマがこの「イースタン・プロミス」
イギリスの裏社会に潜むロシアンマフィアの姿を無国籍化と思わせるような映像タッチと演出で描いていく手腕はさすが奇才といわざるをえません。
なんせ、冒頭の辺りはいったいこの映画の舞台はどこなのだろう、登場人物はいったいどこの人なのだろうとわけのわからない展開でした。ただ、主演のニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)の存在感のすごさがなんとも圧倒的だったのです。
やがて、人間関係がわかってきて、それぞれの性格、立場などが明らかになってくるにつけて、今まで、知らなかったフィルムノワールの世界がじりじりと表に見えてきます。
助産婦のナオミ・ワッツの存在、もとKGBと自称するおじさんの存在、マフィアのボスのどことなく不気味なしぐさの一つ一つが、この映画のテーマ性をしっかりと刻んでいきます。
導入シーン、いきなりの床屋での殺戮シーンから、薬局での少女の出血シーンへとそのつかみのうまさはさすが。さらに、デヴィッド・クローネンバーグお得意の残酷な殺戮描写はひとつ間違えばスプラッターにもなりかねないきわどさ。名作「ゴッドファーザー」のような世界を描きながら、どこか強烈にリアルな世界が、スクリーンにあふれてくるのです。
<ここからネタバレ>
ラスト、主演のヴィゴ・モーテンセンが実は潜入捜査官であったという真実、その伏線であった冒頭に殺されたチェチェン人の川に流すシーン。それぞれがひとつになって、マフィアのボスの店で一人座っているヴィゴ・モーテンセンのシーンで終わるあたり、何もかもを観客に任せたラストはお見事といわざるを得ません。
はたして、ニコライは組織を継いだのか?ボスの息子はどうなったのか?何もかもはこのラストシーンにゆだねられています。
高品質の秀作でした