くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「トウキョウソナタ」

トウキョウソナタ

果たして、こんな家庭が存在するものか?そこにあるのはあまりにも非現実的に見えるはずの崩壊寸前の一家族。

かつて森田芳光監督が描いた「家族ゲーム」にはありそうであり得ないような不思議な家族が描かれていた。あれはあれで、ありきたりの当時の家族をややシュールな世界として描いた作品だった。

しかし、今回の「トウキョウソナタ」の家庭は、あまりにも現実的に見える。それはあまりにも信じられない人間関係、犯罪などが、現実として私たちの目の前に起こっている現代を見ているためである。そこが、映画に時代背景が伴う点である。

台風の風でしょうか、まるでこれからこの家族に吹き荒れる暴風雨を暗示するように冒頭、閉め忘れた窓から雨風が吹き込んでいるシーンから始まる。
しかし、その雨風をその家の奥さん、つまり小泉今日子がしめるところから物語が本編に入っていくのです。

ちょうど、同時に、主人は会社でリストラされ、長男はアメリカの軍隊に入るといいだし、次男はピアノを習いたいと、平穏そのままだった家族の中に波風がたちはじめます。物語はそんな家族の姿を、淡々とこなそうとする妻を通して描いているように見えます。

必死で、平穏を保ち、冷静に判断していこうとする小泉今日子の静かな演技が非常に光ります。
しかし、そんな冷静な彼女に、役所広司の登場で暴風雨が襲いかかろうとしてくるクライマックス。これで、流れに任せていけば本当に平凡な作品で終わるのですが、その前後の長男の一時帰国のエピソード、夫の思わぬ拾い物のエピソード、などを挿入することで非常に深みのある場面設定を作り出して、役所広司のエピソードを機会に一気にこの家族を救うところは見事。

淡々と進む暗いストーリー展開ですが、どうしようもないやるせなさは見られないのは、ラストに用意したこのかすかな希望故かもしれませんね。
誰もがゼロにもどって、まるで、元々この家族はここからスタートだったのだといわんばかりに画面が暗転します。

そう、今がスタート、毎日がスタートなのですね。そう考えることこそが、現代の不可思議な暗い世相を生き抜くすべなのかもしれません。