くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「その木戸を通って」「永遠のこどもたち」

その木戸を通って

市川崑 監督唯一の未公開作品「その木戸を通って」を見てきました。
ハイビジョンドラマとしてBSで放映されたことがあるらしいですが、その後35ミリフィルムに焼き付けられ世界の映画祭で公開されました。

映像派監督市川崑 監督のあの目を見張る映像美の世界に久しぶりに出会いました。

冒頭の竹やぶのざわめきがその緑だけをスクリーンに映し出す導入部から次第に主人公の姿が浮かび出てくるあたり。
緑の葉にしたたる露のしずくがぽたりと落ちる場面、室内を俯瞰で捉えたかと思えば、畳よりもさらに下から見上げるショット。欄間を通して写すフランキー堺の姿などなど、随所にかつての市川美学がふんだん出でてきます。

物語は山本周五郎の武士物ですが、まるで夢の世界を見せてくれるようなファンタジーです。
パンフレットにも書かれていますが、あの名作マーヴィン・ルロイ監督の「心の旅路」を思わせる記憶喪失を扱った物語です。
主人公平松正四郎(中井貴一)の娘の婚礼の日、「17年経ったか」というせりふと共に、滴り落ちるしずくをきっかけに物語りはフラッシュバックします。

かつて、記憶喪失でたまたま家に訪れた一人の女性、やがて正四郎と結婚し、一女をもうけ、そして再び消えていった切ない過去を思い出しながら、娘の婚礼の日をラストに、目くるめくファンタジックな映像美の世界が見ている私たちを引き込んでくれます。美しいのひとこと、これこそ市川崑 の世界ですね。本当にすばらしい作品でした。


さてもう一本「永遠のこどもたち
奇才ギレルモ・デル・トモが製作を努めたホラーサスペンスですが、題名だけを見たら、ミニシアター系の秀作を思わせますよね。しかししかし、見ているうちにこの作品、明らかにホラーであることがわかってきます。

古いかつての孤児院に夫婦と7歳の子供と移り住んだ家族に、やがて、恐ろしい体験が待っている。
これだけを書くと、ありきたりのホラー映画だろうと思ってしまいます。しかしながら、そんな単純なB級映画ではありません。
最初は、どこか不思議なホラー映画を思わせ、子供がいなくなった辺りからは、スピーディなカットつなぎと、リズミカルな演出で一気にホラー映画の世界へ。しかし、どこか違うと思わせながら、衝撃的なラストは胸が熱くなって涙を誘われます。そして、続くエピローグで、なんともいえない感動が残る。

アメリカンホラーとはちがって、非常に質の高い映像展開で、ヒッチコックのようなサスペンスのうまさではなく、ドラマ的なみごとさに思わずうなってしまいます。
ミニシアター系の芸術作品と呼んでもいいくらいのすばらしいホラーサスペンスの秀作でした