くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「レボリューショナリー・ロード燃え尽きるまで」

レボリューショナリー・ロード燃え尽き

全く大人の映画である。
もちろん作品としては一級品であるから、映画として評価するのであれば学生時代でも屁理屈をこねて評価できると思いますが、この作品の真価は大人になってからでないと理解し得ないでしょう。
さらに、この作品の背景である1950年代、そして原作が書かれた1960年代をある程度知識として知らないとこの作品の良さはわからないと思います。

物語は高度経済成長時代のアメリカの理想的な若夫婦の物語です。
レオナルド・ディカプリオケイト・ウィンスレットの見事な演技力によって、そしてサム・メンデス監督の秀逸した人間ドラマの描き方によって一級品のできばえに仕上がっています。

さらに特筆すべきは脚本の見事さ。
かつて、女優を目指した妻が市民劇団で観客の非難の的にされ、失意のどん底に夫の必死の慰め、そして、自らの夢を脇に置いてきた夫自身の叱責も含めて、夫婦の間にできはじめた溝を描いて作品が始まります。

そのわだかまりが徐々に広がる中で、本筋であるフランスへの移住の計画が登場、当時、まだまだアメリカ人にとっての理想郷であったフランスへの渡航で何らかの解決策になるのではと提案する妻のむなしいほど、平凡な生活を守ろうとする気持ちがひしひし伝わってきます。

そして、その渡航計画に手放しで賛成できない夫の何ともどっちつかずの行動をディカプリオが見事に演じています。
夫婦の生活の中に自分たちの子供がワンシーンしかでてこないというこだわりにも作品づくりの懲りようが見えます。

お互い本心を見せず悶々と計画を進めていく中に、かつてこの家を紹介したキャシー・ベイツ夫妻の息子で精神病院に入院している青年の登場が入ってきます。
この青年だけが、欺瞞に満ちた人々の本心を的確に当て、周りが静止するのもきかず、明らかにしていくという劇的な場面が挿入されます。

そのアップダウンにつづいて、向かいの夫婦の行動、さらに、ちらりと挿入される主人公達の浮気、そして妊娠から何ともいえないむずかゆさでしめるラストシーンまで、非の打ち所がないほどに引きつけられる展開を見せますね。

妊娠したにもかかわらず煙草を吸い、酒を飲み、ダンスをする妻、夢の実現に嬉々としながらも、出世の声が聞こえてくると揺らいでしまう夫の弱さ。まさに現代の夫婦にも当てはまる男と女の物語が高度経済成長を背景に描かれていくのです。

正直、妻に反感を持ってみる人、夫に反感を持ってみる人は映画の途中ではたくさんあるしそれぞれに偏るでしょう。でも見終わって、キャシー・ベイツ演じる世話焼きの女の夫が、補聴器のボリュームを切るというラストにこの映画が集約されていると思います。