いずれはスクリーンで見たかった作品の一本、やはり、その迫力は尋常ではなかった。監督は山本薩夫である。
山崎豊子の膨大な原作を、3時間あまりの時間で描ききった脚本のすばらしさもであるが、細かいシーン展開と、じっくりととらえるカメラ、さらに、名優たちによる鬼気迫るリアリティあふれる演技があってこその完成度であるとうならされてしまう。
これが、大作、これが名作と呼ばれる一本の貫禄でした。
物語は、今更いうまでもなく、阪神銀行と大同銀行という架空の二行の合併の物語を、政財界を巻き込んでのちょうちょうはっしのサスペンスとして描いていく。その背後にある、家族のあり方、親子のあり方、友情のあり方、恋、等々が入り乱れての群像劇である。
現実の中小都市銀行の合併をモデルに描かれた原作であるので、当然、あれは?という現実が被さるのだが、それはさておいても、様々なシーンの、何気ない演出が、ストーリーに深みと迫力を生み出しているのがわかる。
特筆するのが、大介が愛人である相子に別れを切り出すクライマックスで、それまで、愛人との同居に甘んじていた、いかにも世間知らずだった万俵大介の妻寧子が、ぼそりと、「あなたに子供がいればね」とつぶやく一言が、寒気がする。
何度も響いていた鼓を打つ音が、このクライマックスで、冷酷なほどに室内に響くのも寒気がします。
佐分利信の圧倒的な存在感と迫力が、この作品に圧倒的なリアリティを生み出しているが、共演者たちそれぞれの、すばらしい演技力は、とても現代では再現できない。昨今のテレビドラマ版など足元にも及ばない。これが本物の迫力である。脱帽。すばらしかった。