くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「わたし出すわ」

わたし出すわ

ひさしぶりに森田芳光監督の映像芸術を堪能しました。まだまだ森田監督の才能は枯渇していませんね。近年、商業映画の大作が多かったので、ちょっと危惧していましたが、今回の作品で安心しました。

なんといっても、美しい画面作りはみごと。左右対称に捕らえるカメラと斜めに捕らえるカット、さらに美しい景色を有効に配置を考慮してみせる映像はなんともいえない魅力です。しかも、望遠や広角というカメラレンズの特性を最大限に利用し、時にやや不可思議なくらいの比率で登場人物と背後の景色を見せるあたりは、さすがに森田芳光ならではの才能でしょうね。

物語は宣伝にもうたわれているように、東京から突然北海道に帰ってきた主人公マヤ(小雪)がかつての高校時代の友人たちに高額のお金を無償で渡すというのが中心です。しかし、それはなぜ?そしてそれによって引き起こされる出来事はどうなるのだろうというのがこの作品の見所なのです。そんな展開を「家族ゲーム」でも見せた、背後につぶやくような日常の効果音やニュースの声を交えながらなんとも非日常的に見せていきます。

フェードインフェードアウトを繰り返して田園の向こうに見える街を捉え、背後にゴールデンバーが投げ込まれるというニュース報道が流れていきます。これがラストシーンでしっかりと生きてくるから、計算されつくされた脚本にうなってしまう。

そのシーンにつづいてマヤが友人たちを呼び出し、さまざまな目的をかなえさせるためにお金を与えていくさまをつづっていくのですが、それが引き金となって人間の本来の欲望が表に出る人もいれば、淡々とその出来事を有効に利用し、何の変化も生じない人もいる。そんな有様が作り出された画面作りと独特の音の効果で何かを訴えてきます。

そうそう、小池栄子とのからみのシーンで、スーパーの中をまわる場面で森田監督お得意の遊びのようなシーンを作り出しているのも久しぶりの森田芸術ですね。

やがて、マヤがなぜそんな大金を所有し、なぜ北海道に戻ってきたのかが明らかになっていくのですが、それがさりげなく挿入されるシーンの中でこの映画のひとつの目的に向かっていく手段の一つになるところが又見事です。そして、ほんのわずかしか出てこない仲村トオルの存在も非常にスパイスになってこの映画のテーマをかたらせるところがうまい。

細部にわたる美しい小道具、そして計算しつくされたロケ地、ロケ現場のうまさ。さすが森田芳光監督。今となってはここまでの作品を作れる監督は日本にはいないでしょうね。素晴らしい映画でした。そしてラストも最高でした