くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「インビクタス負けざる者たち」

インビクタス負けざる者たち

この映画は、何のこだわりも理屈もなく素直にみて、そして伝わってくるものそのままに感動してほしい。ストレートに訴えかけてくる人間の生き方のドラマ、人を愛することの大切さのドラマ、そして、「ドラマ」というジャンルの作品とはこうした映画をいうのだと迫ってくる迫力のある作品である。本当にすばらしかった。

久しぶりに掛け値なしに画面に引き込まれ、2時間あまりの長尺も一気に終わり、そして、ラストシーンでは思わず拍手したくなった。いつの間にか、目頭が熱くなっている。この感動はなんだろう。何が私に訴えかけてきたのだろう。エンディングに流れるホルストの「惑星」をアレンジしたテーマが、なぜか、「人間はもっと大きな一つのものではないか?なにを小さな空間で争い、いがみ合い、敵味方になって対立しているのか」そんな言葉にならないメッセージが迫ってきたように思う。

この映画は歴史の真実を描いたいわゆる歴史ドラマである。ネルソン・マンデラという南アフリカの黒人大統領のことはちょっと知識のある人なら誰もが知る人物だと思う。しかし、南アフリカ共和国で行われたラグビーのワールドカップのドラマを知る人はほとんど皆無なのではないでしょうか?

冒頭、カメラは南アフリカ共和国ラグビーチームが練習している姿を映します。そして大きくクレーンカメラが空中へ引いて道の向こう側で同じくサッカーの練習している黒人の少年たちの姿を映します。当然少年たちは明らかにみすぼらしい格好をし、この国の現状をそのまま私たちに見せてきます。そしてその間を走る道路に数台の車が。中には30年の刑を終え出所してきたネルソン・マンデラが乗っています。その車を歓迎するように道ばたに集まる黒人たち、そしてその姿をやや蔑視して見るラグビー選手たち。

続いて、ネルソン・マンデラが黒人大統領になった様子を手短に描いた後、大統領となったマンデラモーガン・フリーマン)の姿、そしていかにして人々の心をとらえ、いかにして南アフリカを救わんとする彼の人となりが無駄なく語られ始めます。
次は何をするのだろう。どうやって人々の心をつかむのだろう?そのあたりの見所が無駄なく語られますが、そこに英雄賛辞も必要以上の誇張もありません。この辺をモーガン・フリーマンがさりげなく、それでも力強く演じていきます。

やがて、南アフリカラグビーチームの主将であるフランソワ・ピナール(マット・デイモン)の家庭の様子、そして連敗を続けるラグビーチームの姿が表に出始め、やがて迎える南アフリカ共和国でのラグビーのワールドカップの物語へとストーリー展開していくのです。

南アフリカ共和国が長年抱えてきた白人と黒人の確執が、大統領を囲む官僚たち、さらにはSPたち、そしてこの国にすむ白人や黒人の姿をそこかしこに丁寧に挿入しながら、一つ一つを解決すべく起こしている大統領の行動が、いつの間にか、それぞれの人たちの確執さえ溶け始めていく展開は、まさに、脚本の妙味とかよりもクリント・イーストウッドが見つめる生の人間の目による演出ならではから生み出されたものではないでしょうか。

クライマックスは当然、ラグビー試合の決勝戦、私のようなスポーツ音痴でもオールブラックスというニュージーランドラグビーチームがずば抜けて強いことは知っています。そしてこのチームと対戦するピナール率いる南アフリカラグビーチーム。
大胆なクレーン撮影、空撮を使いながら、時として地面すれすれからタックルのぶつかり合いなどをとらえるイーストウッドのカメラ演出はものすごい迫力で、グランドを走り回るかのような重厚感ある撮影シーンの迫力が、いつの間にか選手たちと一緒になって右に左に体を穿貸している自分に気がつくほど迫真のシーンである。

史実であるから、試合の結果はわかっているとはいえ、延長戦が終わり、選手たちの歓喜の姿が映され、モーガン・フリーマンの立ち上がる姿がスクリーンに映ると思わず拍手し、立ち上がろうとする自分にも気づくのです。そしてこのシーンに続くエピローグ、喜びに沸く沿道をくるまで抜けていく大統領・・・
「私は我が運命の支配者、我が魂の指揮官なのだ」というせりふがかぶってきます。

感動のドラマと一言でいってしまえばそれまでかもしれません。そして、近年、それなりの大作を手がけるクリント・イーストウッドゆえに必要以上に軽い作品のごとくみられることもあるかもしれない。しかしこの映画は見事である。
エンドタイトルで観客がほとんど立たない。画面では黒人の子供らがラグビーの練習をしているが、タイトルが進むにつれ成長し、最後は青年になっているのに気がつく。このあたりの最後までこだわるクリント・イーストウッドの精神にも拍手したい。

思い返せば、クリント・イーストウッドは男の生き方のドラマを作り続けているように思います。今、男としてこう生きるべき、人間としてこうしていくべきという熱い思いを映画という媒体で訴えかけてきているように思える。
本当にいい映画でした