くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アパートの鍵貸します」

アパートの鍵貸します

午前10時の映画祭でみてきました。20数年前にみたきりですが、かなり覚えてましたね。
I・A・L・ダイアモンドとビリー・ワイルダーの脚本が見事なもので、軽妙なせりふの応酬はもちろんですが、それとなく登場する小道具がちゃんと物語に生きてきて、ストーリーを牽引していく下りがすばらしい。

導入部の会社のシーン、そしてアパートを借りに来る上司たちのアイロニーあふれるユーモアが何とも愛らしい。主人公があたふたと困りながらも段取りをしていく展開のコミカルなこと。ここだけで物語に引き込まれた私たちはもうこの傑作コメディの世界から抜けられません。
次々と人を変え、手段を変え見せてくる下りが一段落すると、今度はさらに上司の部長登場。そして物語は佳境に入っていきます。

一方で語られる、主人公バクスターが想いを寄せるフラン(シャーリー・マクレーン)の物語が微妙なニュアンスで挿入され、さりげなく登場する小道具としての鏡の割れたコンパクトが絶妙のタイミングでバクスターに真相を告げる。このあたりのストーリーテリングのうまさはまさにビリー・ワイルダーならではの天才的な映像のリズム感でしょうか。

そうした山場があって、物語が後半へ移っても、決して脚本に手抜きがみられない。しっかりとしたストーリー構成がさらに次の事件へと私たちを誘っていきます。
離れずくっつかずフランとバクスター、フランと部長、やがて、一つの結末を迎えたかになったところで、フランの自殺未遂と物語は一気に終盤へ。と、思うやまだもう一波乱あるからこれはもううならざるを得ない脚本の妙味です。

最後の最後で一気に大逆転してハッピーエンド。それまで奥の深いカメラアングルで描写されていた画面は一気にフランとバクスターが画面の左右で平行に並んで座る真正面の構図で幕を閉じる。まさにこれが名作といわんばかりである。すばらしかった。