戦後股旅映画の最高傑作といわれるこの作品。出だしからエンディングまで整ったストーリー展開と丁寧な演出が際立つ加藤泰監督らしい名編であった。
いきなり、沓掛時次郎(中村錦之助)と相棒朝吉(渥美清)との掛け合いから物語は始まりますが、いきなり時次郎を追ってきたやくざ物と斬りあいになります。加藤監督お得意の足元から見上げる独特のカメラアングルが光ります。
続いて、たまたま世話になった一家で義理を重んじた朝吉が切り殺され、それを皮切りに時次郎の人となりが丁寧に演出されるくだりは時代劇とは思えないほどドラマ性が感じられます。
そして一人になった時次郎はとある一家で世話になるがそこの義理で仕方なく斬った男が、道中で知り合った女房と男の子の父親であったことから、人情ドラマへと物語りは深みを帯びてきます。
単純に斬りあいだけの展開にとどまらず、しっかりと義理と人情のやくざ世界を描きながらも、一方でほのかな恋物語にもエピソードを絡めていくストーリーはなかなか見ごたえがあります。
病が癒えて、姿をくらました母と子供、そして一年がたったところから物語りはいよいよクライマックスへ進みます。
井川徳道の美術監督特集であるもそれほど秀でたシーンは見当たらないが、股旅物としてのお決まりのショットがそれぞれ見事で、解説にある全編名シーンといわれるゆえんであろう。
ラストは、子供の母が死に、子供一人を連れて旅を続ける時次郎の後姿でエンディングとなる。
やたら強い主人公の剣戟の面白さ。義理ゆえに斬らざるをえなかった男と男の物語、さらには斬った男の妻を守る浪花節的な展開、そんな妻にひそかに思いを寄せる男の純情など盛りたくさんな見所を詰め込み、しかもしっかりとした演出で一本の作品に仕上げた加藤泰監督の力量に感服する映画でした。
とはいえ、どうも東映時代劇は自分に合わないのか中村錦之助がいまひとつ好みではないのか、いい映画と思いながらも市川雷蔵の大映時代劇を見ていたときほどの感動は味わえないというのが正直な気持ちです。