くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「死刑台のエレベーター」

kurawan2010-10-12

いまさら言うまでもなくオリジナルは1957年巨匠ルイ・マル監督のデビュー作にして映画史に殿堂入りしている傑作である。したがって、当然、マイナスイメージから観客の視線を受けることになるだけでも不利といえる。しかし、凡人監督ならまだしも、才能ある緒方明監督、それなりの作品になっているという期待も十分あった。そして、このリメイク版、それなりに見事に緒方明の映画になって完成されていました。

オリジナル版はルイ・マル監督の即興演出とマイルス・デイビスの即興演奏がなしえたいわばひとつの独創作品である。したがってまねをする必要も無い上に、かえって、リメイクとして自分の映画にしやすいとも言えたのではないでしょうか。物語のプロットはほとんどオリジナル版を踏襲し、そのサスペンスの面白さというストーリーだけを採用して緒方監督流に作り変えたといえる。

映画が始まると吉瀬美智子ふんする芽衣子と阿部寛ふんする時籐の会話が写される。これから、会長を殺す段取りになる旨、そしてそこへ銃を届ける黒人の大佐、その箱を受け取って中の手紙をライターで火をつける、車から投げる手紙、それはゆっくりとエレベーターの中へ、そしてタイトル。ワクワクするような出だしである。

時籐は銃を持って会社へ、その入り口でいきつけの美容院の従業員美加代と出会い、時籐は名刺を渡す。このシーンも最後まで生きてくるからなかなかの脚本である。

オリジナル版の舞台になる会社と似た外形の構造の建物を利用し、主人公はロープで窓から上の階へ、そして会長の部屋へ行こうとするが、会長(津川雅彦)のところへは暴力団の組長で友人の神健(平泉洋)がやってきている。そして神健が出て行った後へ時籐がはいり、会長に銃を突きつける。そして銃殺、このくだりはオリジナル版よりやや込み入った設定で会話が展開するが、あえて、オリジナルと比べる必要も無いだろう。

一方外ではアメリカの国防長官がやってくるということでこのビルの周囲が15分だけ人通りが無くなる。その瞬間を狙っての犯行。
しかし、犯行のあと、ロープを回収しようとするもうまく取り外せずひとまず外へ、すぐに裏口から引き返してビルに入りロープをとって降りようとするとエレベーターの電源が落とされ閉じ込められる。オリジナル版はあわてて出た主人公がロープの取り忘れに気づき、あわてて取りに戻ってエレベーターの中で閉じこめられる。つまりロープは手に入れていないですね。ただ、その夜、たまたま地面に落ちたロープを少女が拾うショットがある。リメイク版はこの少女は傘をきて芽衣子に声をかけるシーンで出てきます。

一方、警備に来ていた巡査がチンピラに絡まれ銃を盗まれる。この巡査の恋人が美加代、銃を盗んだチンピラはボスである神健に銃を渡す、神健の車を追いかけるべく巡査はキーをつけたままおいてある時籐の車を見つけてその車で追いかける。基本的な導入部を日本という国柄による説明(銃の所持など)的なシーンをはさみながらも、端的に本編へ引き込む演出はなかなかのものであるが、正直くどいと言えなくもない。オリジナルはただ何となく車を盗むシーンになるところは若者の無鉄砲さと背伸びを見事に演出していました。

この後、待てど暮らせど、待ち合わせ場所に来ない時籐を待ちくたびれて町をさまよう芽衣子の姿、一方で盗んだ車で神健を追いかける巡査と恋人。並行する物語は次第にそれぞれの狂い始めた人生をさらに増幅していく。このあたりはオリジナル版をひいきする人にとっては最大の見所である。それを芽衣子が見かけた時籐の車に乗る若い女の姿などを絡ませ、デジタル映像によって幻のように現れる時籐の姿との幻想的なシーンでカバーしていく。もちろん、入れすぎず少なすぎずのショットでつないだのはよかったのではないでしょうか。

やがて、巡査と美加代は神健ととあるコテージへ、そこで、時籐の車にライカで写真を撮るくだり、そして神健を殺し逃げる。嫌疑がエレベーターの中の時籐にかかる。一方巡査と美加代はアパートで自殺未遂。翌朝、エレベーターから出た時籐が逮捕、しかし神健殺害容疑、一方、ライカのフィルムはコテージそばの写真館へ。証拠を隠滅すべく巡査がバイクで走る。その姿を芽衣子が追う。一方一人の刑事(柄本明)が写真館で真犯人を見つける。そこへ芽衣子がやってくる。写真に写っていたのは芽衣子と時籐の仲むつまじい写真。自殺とされそうになっていた会長の事件が他殺へと変わるシーンである。

ラスト、すべてが明るみになった芽衣子のアップ。このラストショットはオリジナルと完全に同じです。
「一人格子の中で老いていく・・・・・」

オリジナル版のサスペンスの面白さは十分に再現されているし、クライマックスのたたみかけも半端なできばえになっていない。物語の背景を説明しすぎるショット(拳銃を持参する大佐、エレベーターの警備員など)あるいは、やや不必要と思われる登場人物(芽衣子をゆする会社の総務担当、神健の存在など)もあり、間延びしそうになるものの、それなりのレベルの映画に仕上がっていたと思います。それに吉瀬美智子がなかなか熱演で見事。時に愛人に出会えず、計画がうまくいかなくなっていらだっていく姿を感情豊かに演じきった姿は必見です。
いずれにせよ、50年余り誰もチャレンジしようとしないこの映画のリメイクに果敢に望んだ緒方明監督に拍手を送りたいと思うのです