くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「100歳の少年と12通の手紙」「わたしの可愛い人シェリ

100歳の少年と12通の手紙

「100歳の少年と12通の手紙」
難病物の物語をこれほどファンタジックな映像で包み込んだ映画は今までなかったと思います。CGアニメを始め、極端なクローズアップ、ロングショット、長回しなどテクニックの限りを駆使して語られる主人公オスカーの物語はいつの間にか彼の最後の人生を語っているはずが、私たちの現実の人生を再現しているかのような錯覚にさえ陥ります。

しかも、まるで夢物語のような映像の数々、遊び心にあふれたプロットの積み重ねが不思議な感動へと誘ってくれる。作品としては完成度は高くないもののそのオリジナリティあふれる映像にこの映画の最高の魅力があると思います。

映画が始まるとクローズアップでなにやらいたずらを画策している子供の手の様子。そしてそのいたずらに引っかかった教師。しかし、ここは難病の子供だけが生活する病院。どこかレトロな建物はまるでおとぎ話のような世界。
いたずらをくり返すオスカーには誰もとがめる物がいない。それは彼が余命わずかであることを誰もが、そして両親さえも知っているからです。でもそんな態度が彼に孤独感を生み、会話を拒むようになって院長たちも思案に暮れていた。

そんなとき、オスカーは病院の廊下でピンクのスーツに身を包んだピザの宅配おばさんとぶつかる。汚い言葉で言いたい放題にののしられたオスカーはこのおばさんにすっかり惹かれてしまう。彼女の名前はローズ。元プロレスラーだが今は自宅で宅配ピザを開業、この日も病院へ営業にきたが不調に断られたところだった。それを知った院長は彼女に毎日の宅配の代わりにオスカーと話をしてほしいと頼む。

こうしてローズとオスカーの交流が始まる。約束は12日間。それを聞いたオスカーは自分の寿命を知ることになる。

ローズは想像力豊かに彼と接し、毎日を10年とたとえて彼ののこりの人生を人の一生分以上を生きるように導いていく。毎日の気持ちは手紙にし、ローズが風船につけて神様へ届ける。それを呼んで院長は彼の心を知る。

ローズが最初の日にガラスの中にプロレスのリングが仕込まれた置物をプレゼントし、空想の中でそのリングで若きローズと対するプロレスラーの試合がコミカルに描かれていく様は何とも楽しい。

一方で、10年、20年と年を重ねるオスカーは病院内の片思いの少女に告白し、結婚し、別れを経験する。そのなかで、実際の人生に起こりうる夫婦の諍いまでも映し出していくストーリー展開のすばらしさは単なる難病映画で終わらない深みがあります。

やがて、12月31日、つまり12日目が訪れオスカーは死んでしまいますが、ただの涙のラストシーンではないなんとも充実したエンディングに胸が熱くなるのです。

このあと、葬儀の場面と院長とローズがはなす場面で映画は終わりますが、不思議なほどにいろいろなことを考えさせてくれる見事な作品だったと思います。


「わたしの可愛い人シェリ
流麗な音楽のリズムに合わせて映像が展開するリズム感あふれる心地よいテンポの映像。わたしの好きな演出パターンで幕を開けるのが今回の物語。

時代は20世紀初頭フランス。高級娼婦がセレブとして時代に認められていたベルエポックと呼ばれていた時代。高級娼婦たちは御殿のような屋敷に住んで召使いを雇って豪華な生活をしている。

かつて高級娼婦として名を馳せていたレアは最近まで交際していた顧客とのつきあいを最後に引退を考えている。そんな彼女はある日かつてのライバルマダム・プルーの屋敷に招かれ、そこでシャルロットの息子シェリと出会う。

お互いに一目で惹かれ合い、まさかと思うまもなく二人は6年間を過ごします。ここまでの冒頭シーンが実にスピーディで、音楽の盛り上がりにあわせて展開するタイトルと続くシーンが実に軽妙。

物語はこのレアとシェリのラブストーリーなのですが、前述のように曲にあわせてリズム感よく展開する映像が心地よい。
6年の生活の後シェリに結婚の話が持ち上がり、レアの元から離れる。しかしお互いに惹かれあったままの二人は行き場のないままに、シェリに真剣な愛を感じているレアは耐えきれず一人旅立つ。
レアが去ったのを知ったシェリも時を移して別居してホテル生活を始める。

しかし、シェリが妻と別居していると知ったレアはかすかな希望を持って帰ってくる。それを聞いたシェリもレアの屋敷を訪れるが、一夜の後お互い素直な心を打ち明けられないままにシェリは去っていく。
やがてベルエポックも戦争とともに終演し、シェリもまたピストル自殺した旨のナレーションが流れ映画は終わります。

出会うのが遅すぎたと嘆くレア、すでに年齢を重ね、一方若さの絶頂期であるシェリとの愛に燃えるものの、お互いの隙間は微妙に広がっていく様がベルエポックという一時代を背景に描かれる物語は、絶妙の音楽効果を利用したモダンな演出でなかなかの秀作として完成されていました。