くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ミクロの決死圏」「行きずりの街」

ミクロの決死圏

ミクロの決死圏
テレビでしか見ていなかった作品なので、是非スクリーンで見たかった一本である。

原題の「Fantastic Voyage」がぴったりの美しい映像が展開する。物語はSFであり、人間の体内に入っていくというアドベンチャードラマである。しかし、サルバドール・ダリがデザインしたという体内の美術は実際はダリが関わった事実はない。しかし、この美術はそういう芸術家の関与さえ噂されるほどに見事なもので、さすがに大スクリーンだとそのすばらしさに目を奪われます。

赤血球などがまるでクラゲのように流れていく血管の中を小型の潜行艇が進んでいく。次々と色が変わる景色と微妙なカーブで描かれる周りの隔壁、肺の中の造形、心臓弁のリアリティ。当時の最先端の医学知識を元にデザインされた独創性あふれる美術は、サスペンスフルに展開する物語をさらにエンターテインメントの頂上へと導いてくれます。

いきなり、物語の本編へ突入する導入部から、よけいな説明もなく一気に最先端の研究施設のショットへ進むスピード感、その後のリアリティとファンタジー性あふれるミクロ化のシーンのたのしさ。SFの醍醐味をしっかりと味わわせてくれる展開が本当にうれしい。

だいたいのストーリーもそれぞれのシーンもほとんど覚えていたけれど、破壊工作をする犯人がドナルド・プレザンス扮するマイケル博士であるというのがテレビ放映の時ははっきり語られたように思いますが、字幕ではそこまで語れていないのはちょっと疑問が残りました。

60分というタイムリミットを有効に利用したスリリングな展開と、人体の中で繰り広げられるサスペンスフルでエンターテインメントに富んだ卓越した娯楽性、まさに映画の楽しさを存分に味わえる傑作SF映画だと思います。
これこそスクリーンで見るべき映画だったと思います。

後に、この作品の脚本を元にSFの巨匠アイザック・アシモフが小説化しています。


「行きずりの街」
阪本順治監督作品であり小西真奈美さんが出演しているということだけで見に行ったのですが、ミステリーでもあるというふれこみなので、見応えもあるのかという期待もありました。

作品としては本当に惜しいです。それなりのレベルに仕上がっているにもかかわらず前半部分がもう少しシャープに演出されていれば、物語の転換点である波多野(仲村トオル)と雅子(小西真奈美)のベッドシーンから後の後半からラストへ向かう物語がもっと厚みを見せていたかもしれない。

波多野の心の葛藤が今一つ深淵まで描き切れていないことが、結局なぜ東京まででてきたのかという理由付けも希薄にならざるを得ず、それに伴って周りの登場人物に厚みがでなかった。

物語の全体像を最初で順番に見せずに、所々に聞かせるせりふやシーンで次第に具体化していくという丸山昇一の脚本の組立はなかなかのものなのだが後一歩の切れのなさが惜しいところです。

高校の教師をしていた時代に教え子と恋愛関係になり結婚するもその後離婚。そのきっかけもあって教師を辞めて今は塾の講師をしている波多野の姿から映画は始まります。

塾の教え子ゆかりの祖母が体が悪く、死ぬ前に孫に会わせるべく東京へ行ったゆかりを捜しに出かける。そこで、かつての妻雅子と出会う。

かつての踏ん切れなかった愛のけじめのために今回の人探しにきた波多野の姿、かつてつとめていた学校の不正などが絡んで、様々な人との関わりの中で、ようやく見つけだしたゆかりを助け出し、雅子ともよりを戻してハッピーエンドになるという展開である。

ラストシーンがすべて丸く収まって心地よく映画館をでることができたが、どうも全体には歯切れの悪い作品であった。もう一歩、もう一工夫あれば見応えのある作品に仕上がっていたろうにと思いました。