くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ノルウェイの森」

ノルウェイの森

期待もしていなかったし、見た方の感想を聞くと誰もが原作の方がよかったなどというので、見ないつもりだったのですが、どうも気になって見に行きました。

トライ・アン・ユンという監督の作品は見たことがありませんが、この作品についてはいわれているほどひどい作品ではなかったと思います。とにかく美しいショットを描くことを徹底しているのです。

うらぶれた大学の寮でさえも高級マンションのようにとらえる。学生運動のシーンまでもがまるでカーニバルの如しである。そういう徹底さが全編を覆い、その上、優等生のようにこれといって目に付くような悪い場面も見あたらないので、ある意味非常に個性的な映画に仕上がったのだと思う。

つまり、「冬のソナタ」などで見せる感覚のラブストーリーのスタイルを徹底しているのである。原作は読んだことはないけれども、原作の持つどこか殺伐としたそして恋愛やSEX、男女の感情などを客観的に冷たくとらえたイメージを映像美という形に凝縮させたように思える。
薄い色の花を画面の中に配置したり、うす黄色のランプや光で美しい効果を出したり、透き通るような水面、流れるような草原などの景色を実に美しくとらえたりする。マーク・リー・ピンピンらしいカメラが最大の効果を発揮している

主人公であるワタナベ、そして精神に病のあるナオコ、18歳で自ら命を絶ったミズキ、そしてワタナベに思いを寄せていくようになるミドリ、それぞれの人物に血がながれた暖かさは全く感じさせない。フィクションの中の虚構のオブジェのごとくひとときの人生を生きているようである。

その、どこか冷たいイメージがステディカムやレール敷設による流れる移動カメラのシーンの多用、長回しで延々と登場人物に語らせるテクニカルな演出、さらにスパッと短いショットで展開させる時の流れ、それぞれが本当にピクチャーである。
この冷たさはスタンリー・キューブリックの映像によく見られるが、この「ノルウェイの森」については抑揚が全くないためにその効果は光っていないのが最大の違いであろう。

いったい、それぞれの若者たちの今いる場所はどこなのか?それを模索しながら、過去にこだわり、現代をその日暮らしにいきるむなしさ。そんな雰囲気がラストまで漂う一本でした。