くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「白夜行」

白夜行

映画が始まると、何ともいえないゾクゾク感、不気味なほどの寒気が画面から伝わってくる。この感覚はなんなんだろう。刑事役の船越英一郎の研ぎすまされた中に光る執念の光を宿した視線、あるいはミステリーながらあまりにも落ち着いた画面の構図なのか、そんな不気味さを感じながらこの「白夜行」が幕を開ける。

原作は私が大ファンでもある東野圭吾さんのこれまた大好きな小説「白夜行」を元にしている。かなり以前に綾瀬はるか山田孝之主演でテレビドラマになったが、なかなかのできばえだったとはいえ、やはり原作の味を十分に出し切れていなかったといえる。

東野圭吾のミステリーというと、その謎解きのおもしろさももちろんだが、犯人たち、さらにその周辺の人々の心の奥の奥の人間ドラマ、そして人生の生き方があまりにも見事すぎる感情の波として描かれる点にある。ラストに生み出されるこの言葉にしづらいほどのドラマ性は他のミステリー小説では味わえないのである。そして、そんな見事さ故に映像にするためにはかなりの力量のある監督なり俳優なりスタッフなりが必要なのである。

今回の映画作品、主要な人物こそ名の通った俳優を用いているものの、ほとんどのわき役を日頃目にしない、しかし、芸達者な俳優陣を配置した。そして、メインキャストである堀北真希高良健吾に静かな、そして抑揚のない演技演出を施し、さらに色調を押さえた落ち着いた撮影で全体に殺伐とした画面を作り出す。

そこへテレビのサスペンスではおなじみであるが演技力については一級品である船越英一郎をあえて、テレビでおなじみのような刑事役に配置。そしてこのベテランのそしてサラブレッドである俳優の血筋のある名優の力量が物語を引っ張っていくという構図を組み立てた。そしてそれが見事に結実して成功したのである。

深川栄洋監督は「60歳のラブレター」でその人間ドラマの演出力については注目していたので不安はなかった。ただ、自分でも大好きな原作であり、あの何ともいえない奥の深いミステリードラマをいかに大画面に再現するかが最大の見所だったのである。

2時間半あまりの長尺作品ながら、始まったら画面に引きつけられ、一瞬も目をそらせない迫力は、明らかにあの原作を監督自ら完全に自分のものとして消化し映像として見事に再構成した結果によるものである。

原作を知り、謎も犯人も、そして訴えたいテーマさえ熟知していたにもかかわらず、ぜんぜん退屈しなかった。それどころか、映画としての「白夜行」に魅了されてしまいました。

あえて、むりやりに難をいえば、ラストシーンを若干変えたためにさらりと終わってしまったこと。雪穂の名セリフ「私は知らない」が今一つ原作ほど迫力が感じられなかったのは残念だったかもしれない。しかし、これは全体の出来映えのすばらしさの中ではさりげなく流してもこれhこれでよかったのかもしれませんね。

見事な日本映画でした。