くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「曉の脱走」「独立機関銃隊未だ射撃中」「やま猫作戦」

暁の脱走

「曉の脱走」
黒澤明谷口千吉が脚本を書いた反戦映画の名作、という解説であるが、何のことはない非常に丁寧にに描かれたアクション映画である。

日本軍の描き方中国軍の描き方それぞれが何のこだわりもなく平等に描かれている。三上の上官でさえ、春美に手を出してくるとはいえ、戦時下においての人間の行動ととらえればそれほど非道とも思えず、この程度までの描写なら許せるレベルの人物描写だといえます。

ラストで機関銃で三上を撃ち殺すが、これも軍の規律を守る上で、当時としてそれほど珍しいことではないと思う。捕虜になった三上と春美が中国軍から親切に解放されるなど、中国人にせよ、日本人にせよも分けへだてなく描かれている。

そんな背景で、三上と春美の恋物語がつづられるが、どう見ても三上という軍人がふがいないし、見ているこちらがいらいらするほどにくそまじめである。一方の山口淑子扮する春美は気丈で凛とした存在感を見せる。これが黒澤明が描く女性像である。

何度も占領軍から改訂を命じられたというだけあって、前半部分がややぎくしゃくしているところが見えなくもないが、クライマックス、営倉にいれられた三上が春美と脱走する下りはさすがに黒澤明らしいアクション場面になっています。

見張り番たちが三上たちに同情し、逃げた報告を遅らせる。城門を通過する中国人に混じって三上たちが外へでる。はらはらドキドキする場面である。

そして間一髪脱出するが、追いかけてきた上官によって機関銃で撃ち殺される。「戦死した」という報告書がかぶってエンドタイトルである。このラストシーンだけをとらえれば反戦映画といえるが、全体は明らかに一人の女春美を中心にした人間ドラマであり、終盤にきてアクション映画となる。

やや、バランスが悪いところがあるのですが、おそらく検閲指導を受ける中、譲らないところは譲らずに書き直しを繰り返したためだと思うし、戦後5年目にしてここまでの作品を作り上げたスタッフたちの力量に拍手したい一本でした。さすが、名作。

「独立機関銃隊未だ射撃中」
ソ連国境の日本軍のトーチカを舞台に描かれる戦争ドラマの秀作。時は8月11日というからまさに終戦間近。広島に原爆が落とされたという会話まで飛び交う中で、一人の志願兵がやってくるところから映画が始まる。

まもなく敗戦なのにという観客の心境と狭いトーチカからほとんどカメラが外に出ないという閉塞感で極度の緊張感あふれる物語が展開する。

咲き乱れる花々のショットに始まるタイトルバック。そしてラストシーンで一人残ったインテリ兵がトーチカの外に出て一輪の花を見つけ、そこに爆弾が落ちて死んでしまうエンディングまで、戦争に対する痛烈な美的批判が描写される映像展開は見事である。まぁ、「西部戦線異常なし」のラストシーンとかぶるのですが。

トーチカに出入りする兵隊たちと時折司令部からの無電の会話のみで外部との立地関係を表現し、後はのぞき穴から見える広大な大地を迫ってくるソ連運の戦車や兵隊たちのシーンで逆にトーチカの狭さを対照的に映し出す。そして、そんな空間で繰り広げられる様々な境遇の兵隊たちの価値観、戦争への考え方、心理的な抑圧感が見事に描写されていく。

全く隙のないドラマ展開に肩が凝るほどの迫力があるのですが、それが単なる戦争ドラマという範疇を越えた物語性となって作品を非常に奥の深いものに仕上げている。解説によれば隠れた名作だということですが、全くその通り。一概に反戦を訴えるだけにとどまらない谷口千吉の視点と井手雅人の脚本の見事さが光る一本でした。

「やま猫作戦」
単純な娯楽活劇です。
舞台こそ戦場ですが、日本軍と中国ゲリラとのバトル戦という感じで純粋なプログラムピクチャーのエンターテインメントでした。

広大な中国の大地が舞台という設定ですが、どこか吹っ切れたようなものがないのは岡本喜八監督のそれとはちょっと異質なものがあるようです。

恋があり、陰謀があり、銃撃戦がありと見せ場の連続ですが、たわいのない物語とあまりこだわりのないエピソードや登場人物の表現で非常に薄っぺらい作品に終始していて肩が凝らないのが魅力でした。

痛快娯楽戦争活劇。こういう言葉がぴったりの映画でした