くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「彼女のいない部屋」「デリシュ!」

「彼女のいない部屋」

映像のリズムだけで物語を語る、なかなかの逸品。一人の女性の絶望から再生までの一時を細かいシーンを紡ぎ合わせて、次第に一つの時間に集約していく展開が秀逸。少々テクニックに頼りすぎたきらいもあるものの、タイトルからタイトルまで一貫した映像センスが素晴らしい作品でした。監督はマチュー・アマルリック

 

一人の女性クラリスがポラロイド写真で神経衰弱をしているが、うまくいかず切れてしまってタイトル、クラリスは荷物をまとめ家を出ていく。被るように、息子ポール、娘リュシ、夫マルクらが金曜日の何やら出発の段取りをしている。母クラリスは仕事らしいか別にいくようである。というより、クラリスは家を出て行っていないかのように見えるシーンも続く。

 

ハイウェイを走るクラリスはガソリンスタンドによる。リュシはピアニストを目指しているようで、ピアノの練習をしている。音階を弾くだけねとクラリスの声がかぶる。次第に上手くなっていくリュシの姿、ポールは父と一緒にクライミングの練習に出かけたりしている。クラリスはマルクと出会った日々の場面が描かれる。こうして過去、現代、そして、今のクラリスの心の中が細かいシーンの連続と前後する編集で語られていきます。

 

雪深い山小屋に着いたクラリス。地元の捜索隊が、湖に大きな雪崩れがあったと報告している。湖に一人の大人と二人の子供の足跡があったという連絡、立ち入り禁止の道を突き進むクラリス。雪が深いのでこれ以上の捜索は雪解けの春まで待とうと告げられる。

 

リュシはピアニストを目指し、パリの音楽院の試験を受けられるようになる。一人の少女が試験会場に入るが、クラリスがそこへ入ってくる。少女はピアノを弾くのをやめる。クラリスは、リュシの夢を現実と錯覚し、別人の娘を付け回すほど精神的に壊れかけていた。ポールとリュシの喧嘩、マルクとの愛の日々が前後して挿入され、山小屋の周りはいつの間にか雪が溶けて緑が見える。かなたから捜索隊の犬が戻る。慌てて飛び出すクラリス。三つの遺体が戻ってくる。泣きじゃくるクラリス

 

自宅、不動産屋だろうか、クラリスの後から男性が家に入る。クラリスはポラロイド写真で神経衰弱を始める。冒頭のシーン。不動産屋がさり、車に乗ってクラリスは家を出ていく。こうして映画は終わる。

 

家を出て行ったのは母ではないというセリフが何度も出てくる。出て行ったのはクラリスではなくてマルクらであること、孤独の底に放り込まれた一人の女性クラリスの悲哀と絶望からの再生を見事に描いていく素晴らしい映画です。少々凝りすぎていると言えなくもないですが、ストーリー全体を把握した感性に拍手してしまいます。久しぶりに見事な作品に出会いました。

 

「デリシュ!」

オーソドックスなストーリーですが、中世絵画を基調にした構図と色彩、光の演出が実に美しい作品。エピソード配分も心地よくて、歴史背景をさりげなく織り込んだ脚本も上手い。良質の一本でした。監督はエリック・べナール。

 

じゃがいもとトリュフを使ったデザートを作るシャンフォール公爵家の料理人マンスロンの姿から映画は幕を開けます。そして、来客に囲まれたシャンフォール公爵が自慢げに料理を食べ、客人たちと談笑している。講評をするからとマンスロンは呼ばれたが、最初は美辞麗句で誉めそやす客たちだが、これといって料理もわからない客人は、一つの言葉をきっかけに料理を馬鹿にし、マンスロンも蔑む。詫びを求めるシャンフォール公爵に、無言で答えて息子と屋敷を追い出されるマンスロン。

 

家に戻り、悶々んとする日々を送るマンスロンの元にルイーズという女が弟子入りしたいとやってくる。最初は断ったもののそのしつこさに、下働きとして住まわせる。ひたむきに使えるルイーズに、マンスロンの心は変わり始める。しかし、マンスロンは、ルイーズが、その仕草から高級娼婦だろうと推測する。

 

マンスロンが去ったあと、シャンフォール公爵は料理に飢えていた。雇い入れた料理人はことごとく首にし、耐え切れなくなって、執政をマンスロンの元に送る。そしてパリへ行った帰り立ち寄りたいから料理を作るように伝えてくる。もう一度シャンフォール公爵に料理を作れることになり嬉々とするマンスロンだが、一週間後というのが突然明日来訪となり、必死で料理を作り始める。じゃがいもとトリュフのデザートはルイーズが担当するが、ルイーズはその料理に何故か密かに毒を入れる。

 

来訪の当日、l待ち構えていたマンスロンの前を公爵らは通り過ぎてしまう。我慢できず、途中の旅籠で食事をしてしまい、マンスロンの家で食事する必要がなくなったのだという。そこで、ルイーズは、菓子に毒を入れたことを白状する。実はルイーズは公爵に騙され殺された貴族の妻だった。ルイーズはマンスロンの元をさり修道院に行く決心をするが、ワインを買いに馬に乗ったマンスロンは落馬して大怪我をしてしまう。

 

三日三晩ルイーズはマンスロンを看病、快復したマンスロンが階下に降りてみると、大勢の兵士が食事をしていた。息子が考えた、誰でも食事を食べてもらえる場を作ってみたのだという。一瞬戸惑うもののマンスロンも乗り気になり、ここに世界で最初のレストランが生まれる。

 

マンスロンのレストランの評判は広がり、いずれ、シャンフォール公爵が再訪することを予見したルイーズは、修道院へ戻る決心をして去ってしまう。人手が減り、レストランは徐々にさびれ始めるが、マンスロンはシャンフォール公爵の屋敷に行き、レストランに食べに来てほしいと懇願する。今の料理に辟易していたシャンフォール公爵はその申し出を受ける。

 

一方マンスロンは修道院へ行き、シャンフォール公爵を呼んだので、思いを遂げてほしいとルイーズを呼び戻す。やがて、シャンフォール公爵がマンスロンにレストランにやってくるが、そこにかつて騙した貴族の妻ルイーズがいる事を知る。しかも、客はシャンフォール侯爵だけでなく他の大勢の客が集まってきた。罵倒するシャンフォール公爵に、マンスロンは、ルイーズに謝罪するようにと迫る。すっかりプライドを挫かれ、他の客らの冷たい視線を受けたシャンフォール公爵は方法の丁でレストランを後にする。カメラはゆっくりと宙に上がり、俯瞰で、にぎやかなマンスロンのレストランを映して映画は終わる。その数日後バスチーユが陥落したとテロップが出る。エピローグで、ルイーズとマンスロンが微笑ましくじゃがいもとトリュフのお菓子、デリシュ、を作る場面で暗転。

 

決して大傑作ではないかもしれないが、ストーリーも映像も実に丁寧に作られていて、作品全体からとっても真摯な空気感が漂ってくる秀作。いい映画でした。