くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブラック・サンデー」「ミスター・ノーバディ」

ブラックサンデー

ブラック・サンデー
公開直前に上映中止になり、長らく映画ファンの間では幻とされていたジョン・フランケンハイマー監督のサスペンス映画、とうとう見ることができました。しかも大スクリーン。いやぁ、おもしろかった。娯楽映画というのはこうやって作るもんだといわんばかりの傑作でした。

物語は単純で、「黒い九月」というテロ組織に所属する一人の女性ダーリア(マルト・ケラー)が恨みを持つアメリカに対し報復をするために大量殺戮を企てる物語。その相棒に同じくベトナム戦争の英雄で、アメリカ国家に対しうらみを抱くランダー(ブルース・ダーン)と共同し、飛行船に仕掛けた一度に何万発も発射する兵器をスーパーボールのスタジアムの上空で発砲するというスリリングな物語。

彼らを追うイスラエル特殊部隊のカバコフ(ローバート・ショー)らが一つまた一つと謎を追っていきながら、刻々と迫るクライマックスへ引き込んでくれます。

とにかく、いかにして爆弾をアメリカに持ち込むのか、いかにして大量殺人を実行するのか、その追っかけ合いのサスペンスフルな展開もおもしろいですが、冒頭で、カバコフがダーリアとシャワールームで対峙した時思わず撃つのを躊躇したショットがラストでヘリコプターからのカバコフとダーリアの対峙のショットの繰り返しでダーリアが躊躇したために今度はカバコフが躊躇なく撃ち殺す展開なども見事な伏線です。

兵器を飛行船に仕掛ける、正規の操縦士が殺されたのを知る、飛び立つ、そしてヘリコプターで飛行船を追うというクライマックスへの畳みかける展開のうまさ。さらに迫ってくるスタジアム、なんとかランダーとダーリアを撃ち殺すも止まらずに進む飛行船、それをフックにひっかけて引き戻すヘリコプター、導火線に引火した兵器、細かいカットを何度も繰り返して最後のサスペンスを盛り上げるジョン・フランケンハイマーの演出の真骨頂ですね。

かつて、映画はアイデアとスタッフたちの努力でおもしろい作品を作ろうとしました。今はただCGや3Dなどのテクニカルだけでおもしろさを競っている。どこか映画作りの基本が間違っていると思います。是非、こういった職人監督が作ったエンターテインメントを勉強してほしい。本当にこれが映画なのだと思いました。

ミスター・ノーバディ
何とも不思議なSF映画である。ある意味、作家の観念の世界でつづられるファンタジーと呼べるかもしれない。物語があるように思えるが果たして自分が把握したストーリーが正しいのかどうか結局不安なまま、どれが本当かわわらずに映画が終わってしまった。

タイトルバック、一羽の鳩が箱の中で天井にある餌をとろうとうろうろしている。横に赤い台があって、最後にはその台の上にのって餌をとる。

映画が始まると、鳩がボタンを押すと餌がでてくる実験が語られる。ボタンを押さなくても餌を出すと、鳩は戸惑ってしまう。そして自分がボタンを押したのだという架空の行動を生み出すというナレーション。

画面が変わると、「2001年宇宙の旅」のラストシーンのような老人ニモが登場、目の前に顔中に模様を書いたフェルダム医師なる人物が語りかけている。この老人ニモは118歳で、いままさに寿命のある最後の人間であるという宣伝が流れている。おそらく時は近未来、人類は不老不死になったということらしい。

老人のところへ一人のジャーナリストが潜り込んできて話をききはじめる。
老人が語るのは若き日、いや幼き日、父と母の離婚の際ニモがどちらについて行くかの選択から人生の三様の物語が始まる。3人の愛する女性との出会いと愛の日々。3人の女性との三様の人生が語られていくが、時に時間が逆転し、時に次々と空間と時間、人物が入れ替わっていくというシュールな映像がつぎつぎと展開していく。

遠い火星へ巨大な宇宙船で旅をする主人公ニモのすがたも映される。このシーンはいったいこの老人ニモにとってのいつ頃なのか、果たして、3人の女性とのラブストーリーは夢なのか。さらに、車の事故で湖に沈んだり、バイク事故で転倒したり、人違いで風呂場で撃ち殺されたりと様々なシーンが挿入される。

大金持ちになる展開、浮浪者のようになる展開、平凡なサラリーマンになる展開と人生もまた様々に描かれる。
そしてそれぞれの人生の終盤までもが時間を前後させながら語られる

ラストシーン、命が尽きようとするとき、これらはすべて少年時代のニモが生み出した架空の世界だと老人は語る。しかし、次の瞬間、宇宙のビッグバンが逆転を始め、時間が逆回転、死んだはずのニモは再び生き返り町を逆回転に歩いていく。あたかももういちど人生をやり直していくかのように。

シュールでファンタジックで、どこか甘酸っぱいラブストーリーさえ感じられる一人の主人公の人生。デジタル映像のテクニックのすべてを投入し、演出家の頭の中で生み出された映像芸術をそのままスクリーンに投影していったような映像詩の世界がここにあった。見終わって、こうしてストーリーを整理してみると実にファンタジックで独創的な映像で語られるオリジナリティあふれる映像芸術であったと思います。
不思議な映画でした。よくもまぁ眠ってしまわなかったことである。