くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「天使のはらわた 赤い淫画」「ゲンスブールと女たち」

天使のはらわた赤い淫画

「天使のはらわた 赤い淫画」
池田敏春監督作品、日活ロマンポルノ後年の作品である。もちろん原作は石井隆、主人公の名前は名美である。

赤い色が非常に淫美なムードを醸しだし、雨やネオンをスタイリッシュに演出し、池田敏春独特の女の物語を描いた秀作でした。先日見た名作「天使のはらわた 赤い教室」よりも個人的にはこちらの方が好きですね。

物語は単純、友人に頼まれて出かけたバイト先でビニール本(今や死語ですね)のモデルをさせられた主人公名美。ところがその本がベストセラーとなり、勤め先のデパートを首になるまでに話題になる。

都会で一人暮らしをする名美、村木、さらに村木の向かいの女子高生などがひとときの寂しさをオナニーで過ごすというシーンが淫美である一方でどこか寂しさを醸し出す映像がすばらしい。土砂降りの中、ジャングルジムで名美にデートを申し込む村木のシーンで、雨の滴を真上からとらえるショットも実に美しいです。

名美が掲載された本に魅せられた青年村木はふとした偶然で名美を知り、まじめに彼女に交際を申し込むが、一方で強姦魔のぬれぎぬを着せられ、その被害者の父親に猟銃で瀕死のけがをさせられる。というのが全体の流れ。

約束の場所で待つ名美、血だらけになりながら必死で約束のところへ向かう村木。エロスがきっかけになって出会いを生み出し、そこでの約束が何らかの出来事で危うくなるという設定は前作と同様ですが、今回は出会うことができるのが違います。

あわや、ドタキャンされたかと帰りかける名美の前に血だらけの村木が現れ、二人は・・というところで映画が終わる。優れた青春ドラマ、男と女のピュアなラブストーリーともとれるエンディングが非常に秀逸で、まさに秀作と呼ぶにふさわしい一本でした。

ゲンスブールと女たち」
ちょっとおもしろい映像表現にのめり込んでしまう一品でした。
物語はフランスの天才的な歌手にして作曲家セルジュ・ゲンスブールの半生である。醜男であるにも関わらず、ブリジッド・バルドーやジュリエット・グレコなど名だたる美女と関係を持った話題の人物の物語です。

映画が始まると海岸で二人の子供がいる。女の子が男の子に「醜い男は嫌い」という意味のことをいって走り去る。男の子はたばこを吸いながら(って小学生やろ)海を見ている。変わって、美しいイラストのタイトルバックでメインタイトルが始まる。この導入部でちょっと引き込まれてしまう。

本編が始まると少年時代のゲンスブール。常にたばこを吸い、ピアノを習わされているがいっこうにうまくならず父親にどやされている。絵もたしなむため美術学校へも行っている。描いている水彩の絵が動き出したり、街角に張ってあるポスターに書かれている風刺画のでかい顔に手足がついただけのキャラクターが動き出して着ぐるみになってゲンスブールについていったりとなんともファンタジックな、というか幻想的な映像が次々と描かれていきます。

そして、ある日、まるでカラスのくちばしのような鼻をしたゲンスブールの分身が登場、ことあるごとに引っ込み思案の彼を追い立てるようになる。見事なピアノ演奏を即興で見せたり、美術学校で知り合った女性と仲良くなったり、どんどん才能を発揮し始めるゲンスブールの姿がなんとも不思議な映像の繰り返しで描かれるのです。もちろん、彼の周辺の調度品や美術セットも実に凝ったかたちをとっており、この監督は映像派であることがうかがいしれます。

こうして、ブリジッド・バルドーやジェーン・パーキン、ジュリエット・グレコなど大物女優たちと次々と関係を持っていく様子はもう迫力と言うほかない。常に煙たいくらいにたばこを吸う姿がアンチヒーロー的で魅力十分で、美女たちと奏でる即興のピアノ曲などの数々が実に魅了されるほどに素晴らしい。

彼の半生をこれでもかという映像表現で幻覚を見ているかのような感覚に陥らせながら見せてくる物語は最後まで決して飽きさせることもなく、時に絵本の一ページのように見えるシーンさえもある。
そして、浜辺で髭もじゃでたばこをくゆらす彼の姿で映画は終わります。

このジョアン・スファールという監督はジャン=ピエール・ジュネを思わせるような感覚の持ち主であって、またちょっと感性が違うところが本当に魅力的な作風です。これからが楽しみな監督さんですね。

本当に楽しませてくれました。