くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「残菊物語」

残菊物語

溝口健二監督が、彼のスタイルであるワンシーン・ワンカットを完成させたとされる傑作。1939年作品故にかなりフィルムの痛みも激しいものの、溝口健二ならではの舞台の外から縫うように、延々ととらえていくカメラワークが最高の効果を発揮するすばらしい作品でした。

物語は歌舞伎界の名門尾上菊五郎の息子菊之助の物語り。映画が始まると。一つの歌舞伎の舞台が終わり主人公菊之助が降りてくる。カメラは楽屋の外からワンカットでずーっと役者たちの姿、菊之助の演技に対するひそひそ話などとらえていく。まさに後に「元禄忠臣蔵」でも見せたセットをそのままに中の役者たちをとらえる溝口監督ならではのショットです。

父が名役者、そして名門であるが故に、世間は菊之助の演技をただほめそやすばかり。
誰も本当のことを語ってくれない菊之助に、一人の奉公人お徳が辛辣に彼の演技を評したため、それがきっかけで二人は急速に親密になる。しかし、身分の違いで父に大反対され、二人は大阪へ逃亡する。

こうして二人の苦労話が物語の中心になって展開していきます。繰り返される長回しによるカメラワークは、クライマックスの返り咲くきっかけになる菊之助の舞台では通常のカット割りがなされ、作品全体の計算されたリズム感が見事にバランスを完成させるあたりは見事です。

そして、菊之助は父の元に戻りますが、その条件としてお徳は彼から離れることに。
そして、演技も安定し、父の信頼も得た後大阪へ凱旋興業へ、そこで船乗りでひいきの人たちにお礼の口上をすることに。そんな折り、お徳が病で寝込んでいるのを知り駆けつけます。いまや父にも許された二人の仲、父からお徳への礼の言葉をもって菊之助が駆けつけ、再会の後、船に乗り、舳先でひいき衆へ挨拶をする菊の助、しかし、菊之助のけりを待たずお徳は息を引き取る。ラストは挨拶をする菊之助の姿で映画は終わります。

どーんとラストシーンの菊之助のアップがすばらしい感動を呼びます。二時間半近くあるにもかかわらず、巧みに組み立てられたカメラワークとプロットの構成が見事に観客を引き込んでラストシーンまではなさない迫力があります。これぞ溝口健二と呼べる一本でした。