阪本順次監督のデビュー作で、公開当時、テント上映などで特殊な上映をしたために見逃していた一本である。
圧倒的な荒っぽい演出でぐいぐいとストーリーを引っ張っていく演出はまさに阪本順次ならではの男臭さ満載。しかも、微妙な男の心理を絶妙の間の取り方で演出する手腕は絶品といえる。
浪速のロッキーとして、あのアメリカ映画「ロッキー」を引き合いにされるが、起承転結をきっちりと踏襲していく「ロッキー」とは全く違う、こてこての人情ドラマに仕上がっているところは全く異質の作品である。
世界チャンピオン戦を間近に控えた英志はその直前の試合で惨敗した上に頭に致命的なけがをおってしまい引退するところから映画が始まる。荒削りで芝居のうまさなど全く見受けられない素人っぽい演技で徹底的に英志を演じる赤井英和がなんとも無骨でおもしろい。
唯一、しっかりと演技をする原田芳雄がスパイスになって物語はただ、自分の焦りと目標を失って自暴自棄にがむしゃらになる主人公のぎらぎらした姿が画面にと殺せましと展開していく。どこか裏寂しいといいたいところだが主人公に何の情けを掛ける気にもならないほどに暴れ回る姿がある意味哀愁を生み出しているところがみごと。
結局、自分で開いたジムも閉めて、自ら再度リングにたとうとする。そこには卓越したコーチがつくわけでもなく、こてこてにそして要領と大阪らしいノリで再びリングを目指す。
相手を挑発し、自分は宣伝ばかり考えて打算ばかりの主人公の徹底ぶりがすがすがしいほどである。
そして、まるで一夜漬けのようにぎりぎりでウェイトをクリアし、いよいよ試合。
相手はかつての自分のジムの後輩で、英志のけがのことも知る気弱な男清田。当然、頭を殴れなくてやられるばかり。
そんな彼を挑発し、ふつうのボクシングをさせようと必死になる英志。そして、相手のストレートでダウン、必死の思いで戦い続ける英志をみるに見かね、隠していたタオルを投げる英志のジムの幼なじみの貴子(相楽晴子)。その瞬間、英志のパンチが相手にヒットして・・ストップモーションで映画は終わる。
はたして、この後どうなったのか、英志は勝ったのか、それとも彼の負けになるのか、すべてを未来に託したエンディングが実に意味ありげで阪本順次らしい。
決して好みの監督ではないが、やはりデビュー作は監督の個性が爆発的にでてくるから良いですね。このエンディングも近年の傑作「闇の子供たち」に通じるものがあります。
細かいことにこだわらずに、どんどん場面を作り上げていくバイタリティこそが本来の阪本順次らしさであり、それが彼の個性であり、そこが魅力なのです。これぞ本当の男のドラマかもしれない。そして、そこには「ロッキー」のような、アメリカ映画的な感動などは存在しないのです。