くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ウィンターズ・ボーン」「ラルジャン」

ウィンターズ・ボーン

ウィンターズ・ボーン
数々の賞にノミネートされ、アカデミー賞作品賞ノミネート作品として今年最後の話題作である一本を見てきました。

非常に内容が暗い上に、これといった劇的な展開や出来事も起こらない。ただひたすらジェニファー・ローレンス扮する17歳の少女リーが保釈で出所したものの裁判の日になっても現れず行方不明になっている父ジェサップを探す物語が展開する。

保釈金の担保に自宅と所有する森林が入っていて、このままでてこないと没収されるためである。幼い弟アシュリーと妹ソニーさらに病気の母を抱えたリーにとって、いまでもその日の暮らしに困る日々なのに、生活の場所がなくなればそれこそどうにもならない。

寒々とした人里離れて暮らすリーたちのドリー家のファミリーはどうやら一族で大麻を製造しているらしく、当然警察に目を付けられている。そして、逮捕されたジェサップその内容を警察に告白してしまったらしいのがことの真相であることが次第に見えてくる。

父の兄であるティアドロップを皮切りに周辺にすむファミリー一人一人に当たっていくリーだが、誰一人として、深入りするなと素っ気ない返事ばかりで、さらに危険なムードも漂う。その様子が淡々と語られていき、裏寂しい景色と相まって非常に地味な展開で、しんどいシーンが続く。もちろん、最初はことの真相やファミリーの全体が見えないのでミステリアスでもあるのだが、それ以上に、展開が平坦で苦しいのだ。

そして、最後の最後、一族のボスのような男に声をかけたことでリーはリンチに会う。このあたりから物語は終盤へ。

ジェサップが死んでいるらしいことまで突き止めたものの、証拠がいる。ある時、一族の女たちがリーを訪ね、その証拠であるジェサップの骨(ウィンターズボーン)を渡すといって、リーに目隠しをしてとある湖へボートを浮かべる。そして、そこに沈んでいるジェサップの死体をリーに引っ張り上げさせ、両手首をチェーンソーで切り取って持ち帰らせる。

こうして、出頭できない証拠を警察に届け、リーたちは無事暮らせるようになる。何か煮つけ力になってくれたティドロップがやってきて、帰り際「ジェサップを殺した人間を知ってる」と意味深な言葉を残して去る。

完全な心理ドラマでもあり、殺伐とした風景とやり場のない厳しい生活の様子を語る物語は非常にきびしい。果たしてティアドロップがファミリーを裏切った弟を自らの手で殺したのか、その真相は分からないものの、余韻の残るエンディングであった。

全く全体が見えないところから次第次第に物語が見えてくるという手法は見事に成功しているが、地味な作品であり、体調が悪ければ寝ているだろうと思う。ひたすらリーを演じたジェニファー・ローレンスの演技力にかかっていた一本だったと思います。

ラルジャン
一枚の偽札を手にした主人公が、それを使用したことがきっかけで犯罪の奈落の底へと落ちていく姿を映像美の神髄を駆使して描きあげたロベール・ブレッソン監督の遺作である。

父親に金の無心にいき、友人に返す借金の金までせびって断られ、別の友人に相談しにいって、一枚の偽札を使ってみることを進められる。その偽札を使った写真店から次々と若者を犯罪に巻き込んでいき、銀行強盗にまで発展。警察に逮捕されるも巧みに出所し、やがて、泊まっホテルの主人を殺害して金を奪う上に、たまたま知り合い、泊めてもらった老夫婦も斧で殺害していく。

シャープで淡々と展開していく物語は、その映像のリズムが一定で、冷淡なほどの映像表現が実に個性的ですが、スリリングなおもしろさは微塵も感じられないほどに当たり前のように繰り返していく犯罪の物語が、ある意味見ている私たちの感情の起伏を生み出すことがないために次第にしんどさが表にでてきてしまいます。

しかし、前半部分、執拗に見せる手に握られた札のショット、血で汚れた手を洗った水が、赤から透明に変わるショットの繊細さやクライマックス、血に染まった斧で次々と殴り殺しショッキングなシーンに見せるこだわりの映像美学は必見の作品であり、芸術作品といえばそれまでながら、なかなかの一品だったと思います。