くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「馬鹿と鋏」「男対男」「乱菊物語」

馬鹿と鋏

「馬鹿と鋏」
三人の詐欺師が繰り広げるたわいのないコメディ映画です。政治家の利権問題、新空港建設に伴う土地取引などなど、当時の日本の世相がところ狭しと登場するあたりはまさに高度経済成長期の日本そのもの。

話の展開は特に抜きんでるほどのものはないものの、こだわりのない淡々した会話のおもしろさと笑いで引っ張る谷口千吉の演出はまさに職人技というほかない。

三人の詐欺師に大森の娘の登場や、冒頭からそれぞれの詐欺師が絡むきっかけになる銀行での佐賀の演じるとっかかりの詐欺などなど、出だしできっちりと観客を引き込み見せ場を作っていく脚本は本当に分かりやすくて楽しい。

うまくいくはずがないとわかっていてもラストのアパートで、四人が大金で遊ぶ姿は無邪気すぎてほほえましいし憎めないところがまたいい。

そこへ登場する野崎親分らの登場も妙に重苦しくなく、逮捕されて護送される三人の横につける真っ赤な車に乗った政治家大松原のひょうひょうとした姿にニンマリと終わらせるエンディングも楽しい一言につきます。あの土地の詐欺にあった農家のおじさんはどうなったのだろうなんて振り返ってみると手抜きのシーンがないわけでもないけれど、これもまた、さっぱりと流してしまえる気楽さがあっていいのかもしれません

娯楽に徹した典型的なエンターテインメント映画ですが、映画が娯楽の王様だった時代の息吹を感じさせる陽気な一本でした。

「男対男」
名作でも傑作でもない、典型的なプログラムピクチャーでした。男臭いドラマではありますが、展開は半ば即興かと思えるほどに次々と流れが変わっていく。しかも、それぞれがそれぞれにネタバレしながら楽しませてくれる。これが当時の娯楽映画の典型ともいえますね。

戦場で射撃種の名手だった梶と菊森。二人は復員後、一方は荷役船で班長として働き、一方はやくざ家業にいそしむ。口の利けない夏江という女性も配置し、神戸から大物やくざが乗り込んでくる。荷役夫たちの男の物語があり、梶と菊森の友情の話があり、夏江の淡い恋心もある。例によって平田昭彦いけ好かないスナイパー鳥海で登場し、夏江を襲うという非道な男を演じるのもまた大笑い。

ボートに乗った菊森と鳥海が一騎打ちで撃ち合うという展開も笑えてしまうし、クライマックスは火薬を積み込む荷役場での銃撃戦という、なんか意味不明なスリリングな展開で、親友の菊森が死んでしまい、梶が抱きかかえて去っていく姿でエンディング。これまた、男泣きのシーン?かと思えるものの、そのたわいなさになぜか当時の映画館のムードが漂ってくるような懐かしさもあって、なんかうれしくなるラストシーン。

こういう企画でこそ見ることができる一本になったある意味貴重な一本だった気がします。加山雄三のデビュー作で、ギターを鳴らすシーンなど見え透いた演出もまたほほえましい。

乱菊物語」
これはある意味傑作である。ある意味というのは、もし溝口健二がこの題材を映画にすれば「雨月物語」のような格調高い名作になるし、黒澤明がつくれば完成された痛快娯楽時代劇の傑作になる。しかし谷口千吉が作るとそのどちらでもない肩の凝らない一歩引いたエンターテインメントに仕上げた。これが谷口千吉の真骨頂であると思う。

原作は谷崎潤一郎
瀬戸内海、室の津というところは堺とおなじく町民が自治を行っている。人々は遊女ながらも知性と教養がある絶世の美女陽炎をあがめ非違を暮らしているが、土地の領主赤松が陽炎を我がものにしようとしている。まさに歴史ファンタジーの世界である。

実はこの陽炎は赤松に滅ぼされた一族の末裔で家来を伴ってこの地でお家再興を伺っているという設定。そして陽炎の幼なじみで初恋の男海龍王が物語に入り込んでくる。忍術を使う坊主が海龍王の右腕となって様々な術を披露するという活劇のおもしろさと神々しいほどに美しい八千草薫扮する陽炎の容貌が独特の絵巻物の様相を呈していく。

そこに天竺から手に入れた世にも不思議な蚊帳が登場したりと見せ場がふんだんに盛り込まれているあたりはまさにエンターテインメントである。

クライマックスは力ずくで陽炎と室の津を手に入れようとする赤松と陽炎や海龍王、町の人々との決戦シーンとなる。活劇の醍醐味を堪能した後はまるで冒険活劇のごとく陽炎と海龍王は船にのって、家来とともに大海原へと旅立っていく。めでたしめでたし。

時代絵巻のごとく始まるファーストシーンから、次第に自活劇時代劇へと展開し、歴史ファンタジーのような終焉を迎える。てんこ盛りの見せ場の連続とどこにも気負いのない作風が大衆の心を鷲掴みにする魅力があります。とってもたのしい冒険映画だったという感覚で見終わりました。