くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「少年期」

少年期

とにかく絵の美しさに目を奪われる。遠くに山々をいただいた近景に小さく点景のように配置する人々のショットや登場人物が歩きながらはなしているバックに農作業をする人々が配置される構図、さらに見上げるようなショットの背後に大きく膨らんで見える入道雲のショット、さらに東京でのシーンでも人混みの中を馬に乗った軍人は横切るシーンなどなど芸術的ともいえるカメラの構図に魅了されてしまうのである。

物語は昭和19年から終戦までのいわゆる第二次大戦の激動の時代。大学教授の家庭の長男一郎とその母の物語である。その根底には木下恵介ならではの反戦テーマが脈々と伺われ、さらに木下恵介ならではの強い母のイメージが根底に流れる。理想論を持ちながら一見ふがいない存在に見える父の姿も木下映画の定番かもしれない。

最初は疎開せずに一人東京に残った一郎だが、いたたまれなくなって疎開先へ移る。しかしそこでも戦争に対する人々の盲目的な献身精神が広がり肩身の狭い思いをする。まさに木下恵介ならではの世界である。

父の姿に反抗し、予科練志願をしようとする一郎だが父にも母にも反対される。結局そうこうしているうちに終戦となり、軍国精神に染まっていた友人たちも一郎の周りに寄り添ってきてハッピーエンドとなる。

丁寧に演出されたドラマはまさに人間賛歌であり命の大切さである。戦争を愚行と大上段に割り切らずやむを得ない歴史の一ページに生きた人々を正当なものとしてとらえ、一人の少年を通じてもっと大きな時代の中でその正当性を問いかけてくる。その一回り大きなメッセージの描き方こそ木下恵介の大きさであり、それが叙情的ともいえる美しい景色をあえて選んだ懐の大きさだと思う。この余裕が本当のメッセージを心に訴えかけてくるのではないかと思います。いい映画でした。