くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハンガー・ゲーム」「現代人」「下町ダウンタウン」

ハンガーゲーム

ハンガー・ゲーム
スティーブン・キングの「バトル・ランナー」をはじめ、富裕者が貧困者や反逆者を使って殺人ゲームをする設定はSF映画ではよくあるパターンである。従って、今回の映画も薄っぺらなSF大作だろうくらいで見に行ったのだが、何の、結構しっかりと作られた作品だったのにどろかされた。

ジェニファー・ローレンスくらいしか知っている俳優はでてこない(まぁ、ドナルド・サザーランドは別格として)。手持ちカメラとクローズアップを多用したカメラワークで導入部から緊迫した社会ドラマのような様相で物語が展開していく。

シリアスなドラマティックな演出で後半のゲームシーンまで引っ張ってくるのは最初はしんどいかなと思われたが、後半のゲームシーンもただの娯楽指向の映像に終始させずきっちりとした狩りの物語にして描いていく脚本はなかなかの物で、CGグラフィックは最小限にとどめ、あくまで自然の中のサバイバルゲームにする。そして、バトルの末に物語はパート2へ引き継げ展開でエンディング。

こういう世界になったことの説明はかなり無理があるが、そのあたりの矛盾や、なぜ主人公カットニスを応援するヘイミッチがなぜにあれほど力があるのか、仲良くなる黒人の少女シナだけがなぜに人々の共感を呼ぶのか、などの説明も無視したのはちょっと雑な気がしなくもないが、めまぐるしいほどの手持ちカメラの迫真の演出が作品を個性的な物に仕上げていったのは成功だったと思う。パート2でパート1の雑な部分を説明して大団円に持っていけたらそれなりの秀作として完成するかもしれない。見応えは十分ある一本でした。


「現代人」
なかなかの傑作。導入部俯瞰でとらえた東京をバックに当時の日本の汚職に染まっていく姿をナレーションして映画が始まる。そして建設局の中で入り乱れ横行する汚職と業者からの口入れで動く不正人事などを描き、主要な登場人物を畳みかけるように紹介して本編へ。全く気を抜けない導入部にうならせられる。

あれよあれよと物語が先へ先へ進み、主人公小田切愛する人泉のためにその父荻野を救うべく必死になりながら自らもささやかな汚職に染まる。

闘病する母がいて、しがないサラリーマンの課長荻野がいて、その娘泉が不正に対し嫌悪感をしめす。バーのマダム品子が絡んで、物語は建設業者岩光の死、役所の放火、汚職の暴露へと進んでクライマックスは一気に法廷劇へ。そして、すべてをかぶった小田切はそのまま暗やみに消える。

全編細かいカットと舞台劇を思わせるようなセットの中で繰り広げられる映像は一種独特の緊張感がゆるむことがない。クライマックス、少々くどいようにみえなくもないけれども、これもまた当時の日本の姿を鋭く映像に仕上げた渋谷実監督のメッセージとしてはまだまだ不十分なのかもしれません。

フランス語字幕版しか存在しないのか、クレジットまでもフランス語になっているのはちょっと寂しいですが必見の一本だった気がします

「下町 ダウンタウン
これはもうめちゃくちゃよかった。まだまだすばらしい映画をたくさん見逃しているなと実感してしまった傑作でした。

1時間足らずの作品ですが、人間の情、温かい心、人と人のふれあい、男と女の感情、それらすべてが胸に直接迫ってきて熱くしてくれます。もう画面から片時も目を離せずに物語に引き込まれてしまうというのはこのことですね。すばらしかった。

映画が始まると主人公りよが静岡の茶を行商して回っている。しかし、どこの家もなかなか買ってくれない。時は戦後数年、まだまだ世の中は経済的に完全に立ち直っていない。

たまたま、立ち寄ったほったて小屋で三船敏郎ふんする鶴石にであう。そのあけすけな人の良さに引かれるりよ。りよにはシベリアで抑留されたままの夫がいる。揺れ動く女心。一方りよの息子留吉も鶴石に引かれる。

りよが間借りする家には売春をする女性、成金風の男と懇ろな女主人がいる。

カメラの動きや構図が実に情感あふれるタッチで、夜、ゆっくりと窓明かりをとらえながら引いていくショットやラストでりよの脇を走り抜けていくトラックのショットなど目を見張る物があります。

ほんの一晩、床をともにしたりよと鶴一。10日に浅草に行く約束をしたにも関わらず、りよの同居人の母が急死し、その付き添いでりよがいけず、たまたま鶴一も待っていた物の頼まれ仕事を聞いて外出し、入れ違ってしまう。っして、りよがやってきた時には鶴一は不慮の事故で他界している。

人情味あふれる物語なのに、劇的な展開も含有し、人物の心の変化が手に取るように伝わる映像にすっかり心が虜になってしまう。まさに傑作とはこういう映画をいうのだろうね。良かった。