くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グッモーエビアン!」「マリーアントワネットに別れをつげ

グッモーエビアン!

グッモーエビアン!
麻生久美子が大好きで、ただ彼女だけを目当てに見に行ったのですが、なんとなんと楽しい映画だった。お世辞にも映画作品としての出来映えはほめるほどのものではないが、とにかく楽しい。第一、娘ハツキをしていた三吉彩花と友人のトモちゃんを演じた能年玲奈が抜群にいいのです。この映画彼女たちがいわゆる主役なのだろうと思う。能年玲奈は「カラスの親指」でも石原さとみを食ってたとっても演技達者な女の子。今注目してます。

物語はハツキの独り言ナレーションで進んでいく。ちょっと陽気な、いや陽気すぎる母アキと二人暮らしの彼女たちのところへアキのバンド仲間で半分恋人?半分ハツキの育ての父?みたいな脳天気なヤグが海外放浪から帰ってくる。

そもそも、アキは娘に「もうちょっとスカート短い方がかわいいよ」なんて言う元ロッカーのはじけた女性だし、そんな彼女と子供の頃遊んでもらったヤグの間でふつうが一番なんて友達のトモちゃんに話すハツキ。でもどこか憎めないヤグとアキに振り回されながらもふつうに生きる?ハツキの姿がなんともかわいい。

室内シーンは時に斜めの構図でさりげなくカットをつなぐ。このさりげなさが、日常が非日常に、型にはまることと自由の本当の意味を画面全体で語っていく。

とにかくばたばた走り回っているヤグ。そんなヤグに調子を合わせていながらしっかり仕事をするアキ。振り回されながらもしっかり家庭的なハツキ、そしていつもにこにこかわいいトモちゃん。この構図が実にいいのです。

ふざけた物語に見えて、その芯になるところでみんながしっかりとやるべきことをやっている。そんな毎日にほんのわずかな歪み。トモちゃんの両親の離婚、ハツキの進学問題。彼らに世間の常識を持ち込んでくる担任の先生。でも、ふつうって何だろうと思う。常識が普通?その常識はなに?いつの間にか、心の奥底に一番大切にしていかないといけないことが見えてくる。そしてなぜか涙がでるのです。

ヤグがハツキを殴るシーン?いや、その前に進路のことは自分でするというハツキをじっと見つめるアキのカットで胸が熱くなる。こんな暖かい映画あるのだろうか?なんてまじめに感じてしまう。

ラストはハツキが卒業し、ヤグやアキもバンドを再結成してのありきたりのエンディングかもしれないけど、いや普通の映画だったのかもしれないけど、とってもいいのです。こう言うのが映画なんだなぁと思える。なんか幸せになれる一本でした。


非常によくできたサスペンス映画の秀作。映画が始まってからラストシーンまでドキドキハラハラしながら緊張感が途切れませんでした。題名から予想できない内容に驚くとともにすごい満足感をもって劇場をでることができました。

スリリングな音楽に乗せてハイテンポでタイトルが終わるとカメラはベルサイユ宮殿の門をくぐります。主人公シドニーがみすぼらしい部屋でベッドで目を覚ます。かたわらに不相応な時計がおかれているが、後にそれはマリー・アントワネットから借りたものだとわかる。

時は1789年7月15日。この日もあわてて王妃の傍らへ駆けつけ朗読係としてその日のつとめを果たすシドニー。思いつくままに周囲の夫人に命令をするマリー・アントワネットの気まぐれぶりが短時間に描写されますが、シドニーにひとかたならぬ信頼を置いている姿もちらりと見せる。シドニーマリー・アントワネットを慕っている。
お話はここから三日間を描く。

さて、その夜、パリバスチーユ監獄が襲撃されフランス革命が勃発。一気に宮殿の中に緊張が走る。次々と人々が右往左往し、なにが起こったかを噂し疑念が飛び交う。カメラはワンシーンワンカットで人々の会話を見つめるが、まるで観客がその場で人々の会話を盗み聞きしているように右に左にパンするのである。

王妃を心配するシドニーの姿にかぶって、今まで従順に仕えていた風な王妃の周りの婦人たちが私利私欲に走り始めるのをかいま見ていく。細かいカットとハイスピードなカメラワーク、薄暗い廊下のショットなど歴史の表舞台の裏側をなめるような描写が続きます。この緊張感がすばらしい。

シドニーの周りの同僚の侍女たちも噂に翻弄され、情報を集めようとする。歴史の表舞台ではルイ16世がパリに旅立ち、市民からは斬首すべきという名前のリストがばらまかれて、どんどん史実がこの映画の物語へ入り込んでくる。この脚本の見事さは秀逸である。

王妃には愛人であるボロニャック夫人という女性がいる。王妃はこの最愛の恋人を逃がすべくなんとシドニーに変装を迫るのである。王妃の前で全裸になりボロニャック夫人のドレスを着るシドニーの何とも不思議な表情が絶品。そして最後の別れの時王妃はそっとシドニーに口づけをする。それはボロニャック夫人を思ってか、それともシドニーの王妃への思いにかすかにも答えたのか、このキスシーンの艶やかな上に切ないこと。

馬車に乗り、夫人本人は侍女となりシドニーは走る。途中兵隊に止められるが何とかくぐり抜け無事スイスへの夜道を走り去っていく馬車のショットでエンディング。
「そして、わたしは誰でもなくなった・・・」というシドニーのナレーションが入る。

このシドニー、途中で同僚にシドニーの素性をきかれるが、それには答えない。はたして彼女は何者なのか?なぜあれほど王妃を慕うのか?すべて謎のままに映画が終わる。このさりげないエピソードもこの映画を上質のサスペンスに仕上げている。全体に無駄がなく、徹底して歴史の裏舞台をサスペンスフルに描く。いい映画でした。