くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ベル・エポックでもう一度」「スーパーノヴァ」

ベル・エポックでもう一度」

ファンタジックな物語で、先は大体読めるのですが、役者たちの味のある演技が最後まで映画を引っ張ってくれました。少々オープニングあたりのカット割が細か過ぎて騒々しく見えてしまいましたが、ラストはほんのり感動させてくれました。いい映画でした。監督はニコラ・ブドス。

 

かつてイラストレーターだったが、今時のデジタルの世界に馴染めず、この日も友人との食事の場で今時の会話に退屈して出てしまう。そんな夫ヴィクトルに愛想をつかし始めた妻のマリアンヌは、ある時思い切り悪女を演じてヴィクトルを追い出してしまう。そんな頃、ヴィクトルの後を継いでデザインの会社をしている息子は、父にもう一度人生を取り戻してもらいたく友人のアントワーヌがしている、過去の思い出を再現する時の旅人社に父の願いを叶えるべくプレゼントする。

 

映画の冒頭、アントワーヌが運営する時の旅人社の事業で、この日、マリー・アントワネットの時代を再現する場面が描かれ、細かいカット割で描写して行くオープニングにまず翻弄される。アントワーヌは早速、ヴィクトルの希望の時間を聴取するが、それは1974年5月、ヴィクトルが、若き日のマリアンヌと出会ったベル・エポックの店だった。

 

当時を再現する中で、マリアンヌ役のマルゴが現れる。ヴィクトルは、役者であると知りつつ、次第に惹かれて行くのだが、一方でマルゴにはアントワーヌという恋人がいる。舞台裏で指示しながらも嫉妬してしまうアントワーヌの姿と、懐かしい妻への想いに自分を取り戻して行くヴィクトル。ヴィクトルは、自分で当時のイラストを描き、それをアントワーヌに渡して再編してもらっていた。しかし、契約の一日はあっという間に終わる。ヴィクトルは息子に頼んでさらに二日追加するが、ヴィクトルとマルゴは演技以上の気持ちが昂って行く。

 

この後映画は、架空の世界か、現実の世界かわからないように、時の旅人社のセットの中も行き来するように展開、マルゴの部屋にやってくるヴィクトルの場面になって行く。一方マリアンヌは、ヴィクトルの友人でもあるフランソワという恋人とベッドにいた。マルゴを愛するアントワーヌは、ヴィクトルに嫉妬し、役者を変えてしまうが、ヴィクトルは、マルゴの家を探し当てる。そこには夫と子供のいる家庭があったが、それもまたアントワーヌが作り上げた架空の世界だった。

 

一方、マリアンヌは、次第にヴィクトルへの思いを再確認し始め、時の旅人社にあの日の思い出を再現してもらう。ベル・エポックで待っているヴィクトルのところへ、今度は本物のマリアンヌが現れ、あの日と同じ会話をし、店を出て行く。こうして、ヴィクトルとマリアンヌもまた恋人同士に戻り映画は終わって行く。エピローグで、マルゴとアントワーヌの結婚式の場面で映画は終わっていきます。

 

非常にカット割が細かくて、フランス語の応酬に最初は戸惑ってしまうほど騒々しかったのですが、次第に流れが掴めてくると、ほんのりファンタジックな雰囲気に呑まれていきました。傑作というものではないけれど素敵な映画だったと思います。

 

スーパーノヴァ

淡々と流れて行く二人のカップルのドラマ。別れという悲しみに突き進んでいくだけの物悲しい映画ですが、コリン・ファーススタンリー・トゥッチの見事な演技力でぐいぐいと引き込まれていきました。これがゲイの映画でなかったらもっと素直に楽しめたかもしれませんが、なかなかの秀作でした。監督はハリー・マックィーン。

 

ベッドで裸の男性、サムとタスカーのカットから映画は幕を開けます。明らかにゲイカップルの二人は、キャンピングカーに乗ってどこかへ向かっている。作家でもあるタスカーは、不治の病らしく、有名なピアニストのサムのために、タスカーは演奏会を勝手に企画して会場へ向かっているらしいことがわかる。

 

美しいイングランドの風景を背景に、二人の最後の旅の物語が淡々と描かれていきます。サムの姉夫婦の家に立ち寄り、集まってくれた友人たちとパーティを開く。ふと一人サムがキャンピングカーに戻り、タスカーがいつも手元に置いている箱の中を見る。そこには、小説の下書きなどを書いたノートがあり、次第に文字がおぼつかなくなって、しまいには白紙になっているのを発見し涙する。その箱の中に、何やら薬らしいものを発見、さらに小さなカセットテープも見つける。

 

後日、サムはタスカーに、車の中で見つけたテープについて問いつめる。それは、まともな間に自殺をするというのを録音したタスカーの遺言の言葉だった。サムは、最後まで一緒にいたいと懇願する。二人のあまりにも切ない会話の応酬が延々と続き、イングランドの景色を窓の外に写した背景の前で立つ二人のカットで暗転、サムがピアノを弾く場面になって映画は終わっていきます。

 

別れへ向かうだけの切ない映画ですが、広がる緑の景色や、暖かい姉夫婦や友人の会話に救われながらラストまで見入ってしまいます。凝ったテクニックもなく、丁寧なカメラワークと演出で描いて行く二人のカップルの物語に、いつに間にか熱いものを感じてしまいます。良質の作品というイメージに素敵な映画でした。