くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「青い凧」

青い凧

東京国際映画祭グランプリ受賞の近代中国映画の傑作という解説につられ見に行きました。

文化大革命前後の中国を舞台に母と子の激動の物語が描かれていきます。父と母が結婚する直前に物語が始まり、主人公の鉄頭が生まれ、やがて革命のもとに人々が平穏になるかと思えば、政府や人々の偏った思想はかえって庶民を束縛していく様を描いていく。

カメラは直接は政府批判、革命批判は行いませんが、窮屈な状況に追い込まれ、意味もなく投獄され行方不明になっていく父や隣人の姿を切々と描くことで痛烈なメッセージを織り込んでいきます。

カメラはゆっくりと主人公たちの家族やその周辺の人々をとらえ、時に左右にパンしながら、時にゆっくりとズームインを繰り返して観客の視点を彼らのどこか沈んだ中で必死でいきる強さを見せようとする。

青い凧というのは主人公の少年が幼いときに父と一緒に遊んだ凧で、ラストシーンでも母が連れていかれた後、リンチされた主人公が気がついて空を見上げるとぼろぼろになって木に引っかかっている凧のショットでエンディングになる。

最初に空にあがるシーンでは勢いよく舞い上がりどこまでも大空を進んでいくかに見えるのは、新しい国家になり前途揚々に進まんとする国の姿を象徴するかのごとくですが、ラストシーン、なにかが方向がずれて木に引っかかりぼろぼろになった姿をそのときの国の姿に重ねているように思える。

もちろん現代の中国はこの映画のラストに描かれた1970年代から40年近くたち、近代国家として完成の途上にある。しかし、わずか40年あまりであることも確かで、未だ未完成であることも確かなのです。映画が製作されたのが1993年ですから、すでに現代中国の姿がほぼ見えていた時代に作られている。そこにこの映画の痛烈なメッセージが見える気がするのです。

映像としてのレベルは非常に高くて、それぞれの人物の描写もしっかりしているし、カメラワークもしっかりとしたスタイルを貫いている。冒頭では赤と青の鮮やかなシーンで始まるがだんだんとモノトーンの演出に変わる。時に赤の提灯などによりささやかな希望を見せるが、結局ラストでは真っ青なはずの凧さえも汚れて干からびているのである。

二時間あまりをしっかりと見せるなかなかの秀作でした。