くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「農奴」「ニエ・アル」

農奴

農奴
シネヌーヴォーでの中国映画特集でみました。
完全な共産党万歳、毛沢東賛歌の映画である。チベットの高地で農奴として生まれた主人公チャンパたちがやがてやってきた解放軍によって平等に扱われ幸せになるという話だ。

しかし、物語のドラマティックな展開といい、画面の計算された美しい構図とカメラアングル、さらにシーンからシーンへのカット編集のうまさといい、映画として非常に優れた作品になっていることも確かである。

もちろん、ほとんどプロパガンダ映画なので、執拗なくらいに解放軍をほめたたえる歌やせりふがでてくる。そして、解放軍が善でチベットの旧態然とした人々が悪であるようにステロタイプ化された描き方はかなり偏ってはいるが、時間と金をしっかりとそそぎ込んだ映像の美しさはなかなか見応えがあるし、スタンダードな画面にも関わらず広がりを見せる演出は見所十分。

ラストで、チャンパの友人が死に、感情に訴えながら、主人公は最後の最後に封印していた声を発することでハッピーエンドに終わらせる。あざといラストシーンながらなかなかの佳作だった気がします。


「ニエ・アル」
中国の国歌のもとになった「義勇軍進行曲」を作曲した実在の人物の青春物語であるが、こちらも明らかに共産党万歳映画である。しかし、この作品も非常にしっかりとした映像で描かれ、決してぶれないメッセージを描写しているのは評価してしかるべきだと思う。ただ、中国革命についてはどこか偏見が存在し、フランス革命を描いた作品とは異質なとらえ方がなされるのはある意味もったいないのかもしれない。

もちろん、随所に登場する帝国主義への批判と毛沢東への賛歌は少々鼻につくところもなきにしもあらずであるし、朗々と歌いあげる歌の数々には画面いっぱいに歌詞が多い被さるのはさすがに参ってしまう。

しかし、ニエ・アルという人物の半生をその激動の時代に生きた姿として描いた画面は本当にしっかりしているし、時に大きく俯瞰でとらえる人々の暴動シーンなどは映画としての迫力がある。確かに、英雄そのもので描いている偏った視点が見えなくもないのですが、それを脇においてもいそれなりのレベルの映画だった気がします。

結局、ナチス賛歌といわれたレニ・リーフェンシュタールの作品も一方で映画としての価値を無視するわけにいかないのと同様に、客観的な視点を持って鑑賞してもいいのではないかと思います。

とはいえ、こうしてプロパガンダ映画を見るのは一日二本が限界ですね。胸焼けしそうです。