くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「愛してる、愛してない」「ダークホース 〜リア獣エイブの

愛してる愛してない

「愛してる愛してない」
本来、韓国映画はよほどでないと見ないのですが、どこか引かれる物があって見に来ました。

韓国映画のラブストーリーは以前はかなり稚拙な物が多かったのですが、それでも純粋な恋物語を描いていた点ではあれはあれで一つのジャンルであったのかと思っていましたが、今回の作品は明らかに作品の質の進化を感じました。

といっても、まだまだ途上段階という感じで描きたいこと、その方法もはっきり見えてくるのですがいかんせんテンポがよくないためにひたすらしんどくなってくる。映画祭向け?とさえ思ってしまう映画でした。

映画が始まると一組の男女が車に乗っていてそれをボンネットの上から延々ととらえる。彼らは夫婦ですがぎくしゃくしていて妻は別れると言い出す。

そして、長すぎるほどの車のシーンが終わってタイトル。そして物語は妻がでていく日になる。外は雨。荷造りをする妻を手伝う夫。長いカメラでほとんどワンシーンワンカットを延々と続ける。静かなせりふが応酬され、ほとんど動きがないためにやたら長く感じる。

二人の会話にどことなく動きが見えてくと、カメラは徐々にクローズアップが多用されてきて二人の心の部分を描写し始める。そんなときに猫を探しに同じマンションの夫婦がやってくる。かなり無神経に上がり込んでテレビをつけて居座る。そこへ妻に男性から電話。どうやら妻には愛人がいるようである。やがて猫を探しにきた夫婦が帰り、次第に夕方になってくる時間の流れから夕食を作る夫。夫がタマネギで涙がでるのを洗面所へ行くと、妻が料理を仕上げている。夫は洗面所で顔を洗っているが果たして妻が去ることによる涙なのか不明。妻が皿を並べていると迷子の猫が餌を求めてでてくる。じっと見つめる妻のショットがロングでゆっくりと引いてエンディング。

お互いに言うに言われない心の言葉を延々としたカメラワークで描いていく。妻は出ていくと言ったものの雨で橋が通行止めでいけなくなったことにほっとしている部分もあるし、対する夫も去っていく妻にたいする愛情は薄れていないためにどうしようもない寂しさを必死でこらえているように見える。そして、雨で出ていけなくなった妻のために夕食を作る。

お互いに分かれるという結論を下したにも関わらずどこかに揺れ動く迷いが見え隠れする世界を長回しの多様で描くイ・ユンギ監督の意図は分かるがいかんせん、延々と同じリズムで流れる映像テンポはしんどい。もう少し短くまとめる部分もあれば作品全体にリズムが生まれて優れた映画に仕上がった気がします。凡作とは言いませんがもう一歩ほしい作品でした。


「ダークホース〜リア獣エイブの恋〜」
これはおもしろかった。一見、オタク青年のドタバタ劇かと思ってみ始めたのですが、なんのなんの徹底的なこだわり映像の非現実な世界にどんどん引き込まれていく。そして、ラストは思い切りブラックでにんまり終わらせるのだから心憎い映画でした。

ディスコサウンドから映画が始まる。とある結婚式の披露宴で招待客たちが踊っている。カメラがパンすると小太りの青年の席へ。となりにどこか暗いムードの女性が座っている。この映画の主人公エイブと彼がこれから交際することになるミランダである。

不動産会社を経営するエイブの父とはことあるごとに諍いを起こし、父の会社で雇われているものの全く仕事に熱意はない。母が唯一見方のようであるが、いずれダークホースとして大物になると豪語するエイブにあきれるばかり。

このエイブがミランダにいきなりの交際申し込みからプロポーズ。ところがミランダはB型肝炎で、すでにエイブにうつしたかもとうちあける。しかもミランダの元彼に引き合わされてとどんどん話がブラックなコメディ展開へ。

落ち込んだエイブに会社の同僚の女性が語りかけるが実は彼女は金持ちのセレブで、それがまたエイブにはなんとも気に入らない。だんだんエイブのまわりには妄想のように医者の弟なども出現してきて、映画はどんどん現実か妄想かわからない世界へと引き込んでくる。この展開が本当におもしろく、トッド・ソロンズ監督の手練手管に操られたかのごとくなのです。

業を煮やしたエイブの父がエイブを首に。その帰り交通事故で二ヶ月昏睡状態。目覚めてみると両足がなくて、見舞いにきたミランダはB型肝炎が直り妊娠。しかしエイブの子供ではないようで、しかも目覚めたエイブはB型肝炎を発症。見舞いにきたセレブの女子社員に濃厚なキスをしてうつしたあと自分は死んでしまう。となんとも最後までブラックを突き通す。

死んだエイブは自宅へもどっで柱の傷を感傷的に見つめるショットから墓場のシーン。墓石に死んだ日時を間違えて刻ませた父親のおとぼけをつっこむ弟。なんとも最後まで突っ走る遊び満載のエンディングに拍手したくなるのです。

エイブが徹底的な自己中のオタク青年で、クリストファー・ウォーケン扮する父の無表情な演技とミア・ファロー扮する母親のとぼけた子煩悩ぶり、さらに一見いい人っぽいミランダが実は腹黒い存在感と彼女の両親の無表情な存在感とでてくるキャラクターも魅力満載でとっても楽しい。見逃したくない一本に出会った気がします。おもしろかった。