くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「鏡は嘘をつかない」「二重生活」

kurawan2016-06-29

「鏡は嘘をつかない」
特筆するのは、その映像の美しさである。デジタル映像ではあるが、水面の細かいさざめきや、彼方に広がる雲、空、夕陽など息をのむほどに美しい。これほどまでに解像度が出るカメラが存在するのかとさえ思えるのである。さらに、色彩を意識した、人々の服や、水上の家に干してある布、ランプなどの配置と色合いも目がさめるほどに鮮やかである。ここまでくるとこれだけで芸術になる。監督はカミラ・アンディニという人である。

インドネシアのワカトビという海域に住むパジョ族というのは、水上に家を構え、船に乗り移動し、海の産物で暮らしている独特の民族である。そこに暮らす一人の少女パキスが鏡を使って、行方不明の父を待っているところから映画が始まる。

水面すれすれに構えたカメラから捉える、素朴な船に乗る人々やパキスとその友人を捉えるショットにまず目をみはる。

パキスの母は、夫が死んでいるとわかっていても受け入れられず、顔を白く塗って生活をしている。いずれ戻ってくると信じる一方で、戻ってこないという不安にとらわれる日々。ある日、イルカの生態を研究するトゥードがやってきて、二人の生活にさりげない変化を生まれ始める。

物語に派手な展開はない。ただ、父を待つだけの日々だった母とパキスの前に現れた好青年のトゥードの存在が、次第に、生きることを思い出させていく流れとなる。

何度も書くが、とにかく映像が美しすぎて、ともすると、そちらにばかり目がいってしまい、語るべきドラマが隠れてしまうというのがこの映画の難点かもしれない。

やがて、パキスの友達の父も漁で亡くなり、その時、パキスの父の乗っていた船の残骸も見つかり、パキスの父の死が決定的になる。大事にしていた鏡を母に壊され、パキスは、村中の鏡を集め、砂州にある木にぶら下げ、父の姿を探そうとするが、船の残骸を持って友達がやってくる。現実を受け止めるパキス、そして母とともに眠るシーンでエンディングとなる。

何度も書くが、映像が美しすぎて、目がそちらに集中してしまい、かえって物語がぼやけた感じである。素晴らしい映画ではあるが、贅沢を言うと、それが残念という作品だった気がします。


「二重生活」
小池真理子原作であるのもあり、自分好みではないかなという不安で見始めたが、終盤でどんどん胸が熱くなり、ラストでたまらなく感動に包まれてしまった。素晴らしい傑作、とってもいい映画に会いました。監督は岸義幸である。

主人公の珠が同棲する彼氏と朝を迎えるシーンから映画が始まる。恋人の卓也はゲームデザイナーである。珠は大学院の哲学科に通っている。カットが変わると、何やらコードを抜いた手がドアにそれを結びつけ、自殺を思わせるシーンが映る。

珠の担当教授篠原の部屋で、珠が提案した論文のアイデアについて教授から提案されたのが、一人の人物を尾行してそれをまとめ上げるというものだった。それに惹かれた珠はアパートの向かいの大きな家の主人石坂を尾行することにする。編集部の部長である彼の姿を追ううちに見えてきたのは、妻と娘、裕福な家庭という生活の裏にある彼の暗部だった。それは、一人の女性との不倫関係である。

珠はひたすら石坂を追いかけていくのだが、やがて、不倫が妻にばれ、諍いから妻の自殺未遂にまで発展する姿を目の当たりにする。さらに、尾行していることが石坂に見つかり、詰め寄られて、論文のためだと白状する。しかし、それを良しとしない石坂に、珠は体を張って了解を求める。しかし、ホテルを出る珠と石川の姿をじっと見るもう一人の姿があった。

教授に尾行が続けられなくなった旨を話すと、別のターゲットで続けなさいという。そこで珠が選んだのは篠原教授をつけることだった。優しい妻と二人暮らしで、病院には余命いくばくもない母が入院している。病院に見舞い、愛する妻と暖かい日々を過ごす篠原教授。やがて母が死に、実は妻と思っていた人物は代行業者が派遣した代理妻だったのだ。それを教授から白状される珠。

こうして論文は完成するが、一方教授は、代理妻とはいえ、ささやかな想いを抱いていたことを知り、挨拶をして去っていく代理妻を見送り、珠の論文を評価し、コードを抜いてドアに巻いて冒頭の自殺を匂わすシーンに続く。

一方で。珠は、卓也と別れたのだが、ふと自分を見つめる誰かの視線を感じて振り返る。そこに立っていたのは・・・・・・。これが指輪の手が映るので教授ではないかと思うのですが、でも教授は自殺をほのめかす映像になっているし、卓也にしては少し合わない気がするのです。

前半から中盤あたりまでのサスペンスフルな展開が、終盤で、たまらない人間の孤独感、人生の深さが胸に迫ってきて、どうしようもない感動に変わりました。良い映画でした。