くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」「少女は自転車にのっ

フォンターナ広場

「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」
1969年、イタリア、ミラノ、フォンターナ広場の全国農業銀行が爆破された事件を描いた、サスペンスヒューマンドラマである。

結局、真犯人は不明で、容疑者も33年後にすべて無罪となったこの事件、真相がわからないままになっている。その、事件と捜査、真実の混沌とした姿が、実に見事に映像として完成されている。その意味で、非常にクオリティの高い一本であるが、いかんせん重い。

映画が始まると一人の男が、自動洗浄機のタイマーを50個注文するシーンから始まり、タイトルの後、物語はいくつかの章に分けられて展開していく。

映画館で、最初に、大勢の登場人物とその関係があるのでと、チラシをくれる。それを覚悟してみるのだが、中心となる警部カラブレージと、最初に犯人と目され、突然、捜査室から飛び降りて死んでしまうアナキストのリーダーピネッリを中心にしたドラマは、ほとんど混乱することはない。もちろん、人物が登場するたびに人名をテロップするという字幕のサービスも効いているかもしれない。

アナキストやネオファシスト、報道関係者、政府関係者に内務省情報局が絡む中に、ふつうに警察の捜査関係者が絡むから、正直、誰が誰というのはわからないように思えるが、意外と、何となく頭に入っていく。これは演出のうまさといわざるを得ません。

ラブレージ警視が、ピネッリと人間的な親交があるという導入部から、それぞれの組織が、確執があるようで、どこか、その存在を認めている部分があったり、当時のイタリアの複雑な政治情勢も次第に頭に入ってきた後の、事件の勃発、その後の、政府上層部の思惑や、謀略が渦巻き、一方で、真実は見えないままに、カラブレージ警視の苦悩が絡む。

果たして、どこで、なにが狂ったのかわからないほど、混沌としたドラマは、突然、ピネッリが死に、さらに、つぎつぎと様々な証言が交わされ、矛盾が指摘されてくる。そして、物語は、想像もしない真実にたどり着いて、一段落したかに見えた後、カラブレージ警視が殺されてエンディングになる。

ぐいぐいと迫ってくる演出の迫力に圧倒され、どこに真相があるのかを問いかけてくる力強さ、鬼気迫る物語が、次第にみている私たちとこの歴史の一ページに放り込んで、巻き込んでいく。その臨場感にすっかり取り込まれた後、物語はすべて不明のままに終わるのである。

しかし、分厚い本を読み終えた後の読後感のような感慨をしっかりと心の中に残してくれる。すばらしい一本である。

監督はマルコ・トゥリオ・ジョルダーノである。
いやぁ、見事な映画だった。


「少女は自転車にのって」
とっても素敵で、キュートな傑作に出会いました。なぜかどんどん引き込まれるこの映画の魅力は、決して言葉や文章では語り尽くせないと思います。それほど、釘付けになってしまう魅力があるんです。

監督はサウジアラビアのハイファ・アル=マンスールという女性です。

映画は映画館を設置することが禁じられているサウジアラビアの作品。

一人の10歳の少女ワジダは、普通に学校に行き、近所の男の子の友達アブダラとふざけあう毎日を送っている。でも、彼女はほかの友達のような地味な黒い靴も履かず、何かにつけ、コーランの厳しい戒律を破るような行動をする。

優しい母親は、父親と正式な結婚をするべく、身繕いを進めている。ちょっと、その風習がわからないが、まず何人かの女性と関係を持ち、その中で、結婚相手を決めるのだろうかと思う。

一人で女性が出歩くことも禁じられ、男性からみられたり、声を聞かれるのさえ禁止されている社会。いつも、目だけがでている真っ黒な服を着て外出をする。そんな厳しい習慣があるにも関わらず、どこか、みずみずしいほどにワジダと母親の生活が描かれている。

アブダラと自転車の競争をしたいと思いつき、たまたま、店に自転車が売りに出されているのを見つけたワジダは、そのお金800リヤルをためるために、ミサンガを売ったり、上級生の密会の橋渡しをする。

このワジダを演じた少女の笑顔が実にかわいらしくて、そんな彼女が、一生懸命お金を貯めようとがんばる姿もとっても魅力的。

ある日、コーランの暗唱大会があることが知らされ、それに優勝すると1000リアルの賞金がもらえるとあって、苦手なコーランを一生懸命練習するワジダ。このひたむきさは、本当に若さ故の純粋さで、もう、こちらも応援してしまうのです。

一方の母親は、厳しい戒律を守り、正妻となるべく努力するが、友人のレイラは、顔を隠さずに仕事をしていたりしているのを見、ワジダの行動を見ているうちに、何か違うものを感じ始めていく。

やがて、暗唱大会の日、見事ワジダは優勝したが、なんと賞金はパレスチナへ寄付を強要されてしまうのです。このあたりのお国柄もさることながら、使い道を聞かれて「自転車を買う」と答えるワジダの笑顔が、また素敵なのです。

がっかりして戻ったワジダ、しかし父親はワジダの母を選ばずに別の人と結婚、ワジダの母は父のためにと伸ばしていた髪を切り、ワジダのために自転車を買ってあげる。

何かが少しずつ変わっている。そんなサウジアラビアの姿が、ちらほらとかいま見られ、買ってもらった自転車で、アブダラと一緒に走るワジダ。黒い衣服もはだけるようにジーパンが足下から見え、そして、車が走る大通りにたどり着いたワジダは、その開放された世界に目を輝かせ、映画は終わります。

彼女の晴れやかな顔を見ているだけでもこの映画を見た甲斐があるというほどに、とっても素敵な彼女の姿に未来が見える。

本当に、すばらしい映画でした。