くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」「ZAZIEザジ」「

ネブラスカふたつの心をつなぐ旅

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」
人間の汚い欲望の部分が、物語の中心に描かれているのに、とっても、優しくて美しい映画でした。なんといっても、モノクロームで広角レンズでとらえた奥行きのある広大な景色がすばらしくて、低いカメラ位置から、低い雲や、転々と草原に存在する草などが、横長の画面にきれいに広がる。

そんな、美しい、なにもない純粋な世界をひたすら車が走っていくロードムービーがこの作品です。監督はアレクサンダー・ペイン

一人の老人ウディがとぼとぼと高速の入り口を上ってきて、パトカーに止められるところから映画が始まる。100万ドルが当たったという案内がきたから歩いてリンカーンの町まで行くのだという。どう見ても胡散臭い通知に、息子のデイビッドが止めるが、どうしても聞かない父親を連れて一路ネブラスカ州リンカーンの町を目指す。

途中で、かつて父が住んでいた町により、幼なじみにあったり、かつての恋人に会ったりするが、叔父さんの家に久しぶりに行き、ぶらぶらしている二人のこれまた、まともに見えないいとこにで会う。どこかコミカルな画面の構図が、笑いを呼ぶところが、映像づくりがうまいですね。

バーで幼なじみたちと飲んでいるところで、ウディが当選のことをいったために、何かちぐはぐになる。画面の中に次々と人物が増えてくる。それも、どこかコミカルにこちらを見ているカットがなんとも皮肉な笑いとなってくる。映像で語るとはこのことをいうなと思えるほどに、絵作りがうまい。

昔のどうでもいいネタをたよりに、金をせびりに来る人が次々と現れ、断っては悪態をつかれる。ある夜、当選の通知が盗まれ、それが偽物だと広まって、これまた逆に悪態をつかれる。それでも、淡々と対応するウディの存在がなんとも柳のようだし、妻のケイトや兄のロスが、父をちゃんと守っているという構図も心地よい。

100万ドルを手にしたら、念願のトラックを買い、圧縮機がほしいのだというささやかな望みだけのウディ。そんな彼をデイビッドは、嘘とわかりながら、リンカーンの町へ。そして、そこで、通知を出した会社で、当選していないことをいってもらい、記念の帽子をもらい、車に乗るが、デイビッドは車を撃って、トラックを買い、圧縮機を買う。そしてネブラスカの町をでるときに数ブロックウディに運転させる。通りで、金をたかってきた人々とで会う。このシーンが抜群に小気味よいのである。ざまぁみろなのである。

二人の車は延々と帰路に向かって走っていく。広がる草原、美しい空、エンディングもまたすばらしい。不思議なくらいシンプルなロードムービーですが、不思議なくらい、染み渡るように引き込まれる。主演のブルーシ・ダーンの演技もすばらしい。


「ZAZIEザジ」
「さよならドビュッシー」ですっかりとりこになった利重剛監督作品なので、見に行きました。

利重監督の映像感性が凝縮された一本で、ほとんど自主映画に近いストーリー展開と、映像詩のような組み立てで、伝説のロックシンガーZAZIEが五年ぶりにウォーターフロントに戻ってきてからの出来事が語られていきます。

影や、カット割りを巧みに組み合わせ、手持ちカメラのような新鮮味のある色彩演出に、若さがほとばしる一本で、物語というほどのものはそれほどないものの、終盤で登場する、やや痴呆気味の老婆の存在や、外国人女性の存在、ZAZIEを最後に刺し殺すファンの存在など、きっちりとしたメッセージの存在する配役の配置がおもしろい。

刺し殺す瞬間、上からの視点で、赤いビラがまかれるという、まるで、一昔前の東映時代劇のような演出から、ハイウェイをこちらに走ってくるZAZIEをカメラがどんどん引いていって、人物が消えるエンディングまで、映像演出のオリジナリティが目を引く作品でした。


「2LDK」
大好きな堤幸彦監督の初期の作品ということで見に行ったのですが、これがめちゃくちゃにおもしろい。まさに堤幸彦ワールド炸裂です。

暗いマンションの部屋の玄関。一人の女性希美が帰ってくる。希美は手際よく部屋に入り、鍵を閉め、電気をつけて部屋へ。そしてソファに横になる。続いて一人の女ラナが玄関先へ。鍵がかかっているので、たたく、呼ぶ、あわてて希美が開ける。

二人は先輩後輩で、今、映画のオーデションにいってきた女優の卵で、ルームシェアしている。ブランドに身を包み、派手なラナとジャージを着て田舎からでてきた希美。二人の会話と心の声が交互に流れ、緊張感がどんどん高まる。この導入部のブラックな世界観はまさに堤幸彦

やがて、私のものを使った、使ってない、食べた食べてないが繰り返され、さらに緊張感が高まり、そして、男の問題をきっかけに、二人のバトル戦に。

チェーンソー、電気、などなど、スプラッターに近い喧嘩がエスカレートしていくのです。クローズアップや細かいカットを組み合わせ、どんどん激しくなっていく二人の戦いがエンターテインメントになっていく。

導入部の陰湿な心理戦から、さぐり合いのような言葉のバトル、さらに、高まる神経がホラー映画の展開へ。まさに絶品の堤幸彦ワールドである。

死んだかと思うと、そうでなくて、お互いに顔を攻撃し、ラストは、鋭いアイスピンでお互いの首を突き刺し絶命、そこにオーデション結果で二人とも合格したという留守電が流れる。

舞台劇のように、二人だけの室内劇ですが、物語展開が巧妙といえる脚本の妙味を楽しむことができます。本当におもしろかった。