くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「転校生」

転校生

ファンタジックなムード満載は、やっぱり、大林宣彦監督らしい。派手な映像ではないが、素朴な映像の中に、独創的な演出がちりばめられ、ノスタルジックなムードに引き込まれてしまう。

尾道三部作のうち、唯一見逃していた作品で、私個人的には「時をかける少女」を頂点に、昨年見た「さびしんぼう」と三本そろった。

映画は他の二作品と同じく、ホームムービーの映像から始まる。そして、主人公たち一美と一夫の中学生活がモノクロームで始まるのだ。

やがて、神社の石段から転げ落ちた二人の体が入れ替わって、画面はカラーになりタイトル。何気ない尾道の風景のカット、階段や坂道を巧みに取り入れた画面作りが、何ともノスタルジーを生み出す。

最初は戸惑う二人が、やがて、そのコミカルな展開から、さりげないエピソードの中で、思春期の女心と、男心の違いを見事に描写して、何気なく切ない、悲観的な展開へ流れていくさりげなさが、実に見事。

そして、やがて近づく一夫の引っ越し、お互いに、入れ替わったままであることにあきらめをつけ始め、一美は家出、それを追って一夫も一緒に逃避行する。わずか一晩の逃避行から、お互い決意したところで、極限になった一美は、石段から飛び降りようとし、それを止めた一夫と再び転げ落ちて、元に戻る。

最後は戻ることがわかっているとはいえ、それまで、坂や狭い路地の構図で斜めの多かった画面が、この瞬間はシンメトリーに石段とらえる。

モノクロに戻った画面、一夫の引っ越し、「さよならわたし・・・」と追いかける一美のラストシーンが実に切ない。過ぎゆく思春期の、危うい男女の揺れる心の成長が、見事に演出される瞬間である。これが名作ですね。

本当によかった。でも、尾道三部作ではやはり「時をかける少女」がダントツに好きですけどね。