「銀の匙 Silver Spoon」
帯広の農業高校を舞台に描かれる青春学園ドラマである原作を映画化したものです。監督は吉田恵輔です。
非常に単純な、淡々としたドラマですが、描くべきところ、見せるべきところは丁寧にしっかりと描き、決して不必要な抑揚を持たせずに、平坦な中に、素直なドラマとして完成されています。
決して、派手な物語でも、演出でもありませんが、非常に好感の持てる作品で、それが平凡すぎるといわれればそれまでながら、欠点も目立つわけもなく、職人芸的な味わいもある作品だったと思います。
名門進学校に通っていた主人公八軒は、今の学校での競争社会に耐えきれず、農業高校へ移ることを両親にはなす。当然、冷たくあしらわれるが、そのまま北海道の全寮制の高校へ行くところから本編へ。
主演を演じた中島健人が少々弱いために、全体のストーリーを牽引していく迫力に欠けるのですが、全体にドングリの背比べのような演技力の相互作用で、それなりに展開し、ラストシーンを迎える。
箸にも棒にもかからないような作品に仕上がっていないのは、吉田恵輔監督の力量であると思えるものの、もう一歩冒険してもよかったような気もします。
「それでも夜は明ける」
アカデミー賞作品賞を受賞した映画ですが、確かに、圧倒的なドラマ性でこちらに迫ってくる迫力は半端ではありません。
今年のノミネート作品の中ではもっともにアカデミー賞作品賞らしい一本で、「ダラス・バイヤーズクラブ」のややミニシアター系に近いムード、「ゼロ・グラビティ」のあくまで娯楽映画作品、と比べれば、受賞してしかるべき貫禄を持った映画といえると思います。
ただ、なぜ今、黒人問題が取りざたされるのか?と思わなくもない。
監督は「SHAMEシェイム」のスティーヴ・マックィーンです。
映画が始まると、黒人奴隷たちがそろってこちらを向いている。雇い主の白人がサトウキビの刈り取り方を説明するシーン、タイトル、そして、きっちりとした身なりの主人公ソロモンのカット、交差して、奴隷服を着て雑魚寝する彼の姿と描きながら、ソロモンが奴隷となった下りを描いていきます。
木々の間から空をとらえるカット、日差しを映すシーンなど、細かい絵作りにも配慮された演出は、劇的なドラマに芸術性を重ねていく。この画面作りの妙味は、脚本の組立のうまさと相まって見事なストーリーテリングを見せます。
実話に基づくドラマで、奴隷制度が存在した1841年、自由黒人だったソロモンが、白人の罠にかかり、ある日、奴隷黒人としてニューオリンズへ売られてしまう。そこでの12年間の苦難の日々と、やがて、カナダ人のバスという男に知り合って、自分の身の潔白を証明してもらい、解放されるまでを描いていく。
ストーリーはシンプルだが、主人公ソロモンの、奴隷とさげすまれながらもしっかりとした尊厳を失わない姿を演じるキウェテル・イジュホーの迫真の演技はすばらしく、今回のアカデミー主演男優賞のノミネート者のレベルの高さを伺わせます。
ニューヨークへ戻ったソロモンを待っていたのは、再婚した妻の姿という、あまりにも切ないエンディングとなっていますが、あくまで実話と理解すれば、しかるべきラストシーンだと思います。
作品つぃてのクオリティが抜群の一本で、テーマが少々重く、ひたすらきまじめに迫ってくるのがしんどいといえばしんどいですが、退屈を感じさせない演出に拍手すべき一本でした。