くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ダブリンの時計職人」「おとなの恋には嘘がある」

ダブリンの時計職人

「ダブリンの時計職人」
おもしろい題材なのだが、今一つ、個性に欠けるというか、どこか不完全燃焼のような出来映えになっているのが残念。

映画は、海を眺める駐車場から始まる。一人の男、主人公のフレッドが海を眺めてベンチに座っている。後ろの車が、回収業者のクレーンでつり上げられ、タイトル、物語は彼がこの駐車場で暮らし始めるシーンへ戻る。

要するに車生活をするホームレスの話である。
時折、時計を直すシーンがでてくるので、かつて時計職人だったというのがわかるが、ストーリーの中で、あまり生きてこない。過去の事情にはあまりふれないストーリー展開なのである。

そこに黄色の車に乗って、若者カハルがやっってくる。程なくして仲良くなってゆく二人。人生の後半で、無気力になっていたフレッドにカハルは、スポーツ施設で泳ぐことや、中佐上で戯れる恋人をからかうことや、忘れかけている若き日々をフレッドに思い出させる。この部分がいわゆるこの映画の中心なのだと思うが、思いの外少なく、プールでフレッドが見初めたジュールスへの恋心も、どこか中途半端な尺で描かれる。

結局、ドラッグにおぼれていくカハルは、最後の最後で、過剰接種で路上で死んでしまい、ジュールスはヘルシンキへ旅立ち、一人残ったフレッドのファーストシーンに戻って映画は終わる。

ほとんど三人のドラマという舞台劇のようなストーリー展開であるが、描きようによればもっと個性的な秀作になった気がする。前半部分のシンプルな絵づくりはおもしろいのだが、どこか物足りなさを残す演出が、作品を際だたせ切れなかった気がする。普通の作品的な感想です。


「おとなの恋には嘘がある」
軽快な会話の応酬で見せるアメリカ的なラブストーリーの佳作。素直に、会話のテンポに引き込まれ、何となく笑いがこみ上げてくる。懐かしいアメリカンコメディの色合いを持ったホームラブストーリーという感じの映画でした。

セックス・アンド・ザ・シティ」のニコール・ホロフセナー監督らしい味わいが随所に光る一本で、相手のせりふに、絶妙のタイミングでかぶせる間合い、カットとカットのオーバーラップ、カメラに語りかけるような演出による、観客との一体感の創出など、リズミカルに進むストーリーテリングは楽しい。

映画は主人公エヴァが、車を降りて大きな荷物を持ってとある階段のある家に出向くシーンに始まる。テンポのよい音楽と、フラットな画面がこれからの物語の楽しさを物語るようなファーストシーンがいい。

エヴァは出張のマッサージ師で、マッサージベッドを抱えて、お客さんを回る。夫とは離婚し、娘と二人暮らしだが、その娘エレンもまもなく、大学へ行くためにでていく。

そんなエヴァはあるパーティで、一人の男性アルバートと出会い、意気投合する。一方そのパーティで著名な詩人マリアンヌとも出会い、マッサージの主張でマリアンヌの家を訪問するうちに友達づきあいを始める。

ユーモアのセンス抜群に飛び出すエヴァのせりふに、掛け合いのように答える周りの俳優たちのおもしろさ、エレンの友達のクロエがそんなエヴァに引かれて、エヴァに母親以上の相談事を持ちかけたりする。

ところが、アルバートの元妻はマリアンヌであることが、ふとしたきっかけでエヴァが知ることになり、物語は大きく動くのです。

元夫の悪口ばかり言うマリアンヌの言葉に、微妙に反応しながら、アルバートとのつきあいを続けるエヴァ。マリアンヌの娘テスもまた、学校のために家を出ることになっていく。

同じ境遇のバツイチの男女のラブストーリーと、女同士の親子関係の複雑さ、男女の思惑のずれなどなどが、せりふの端々にウィットいっぱいに挟み込まれ、ハイテンポで進んでいく物語がとにかく楽しい。どこか「セックス・アンド・ザ・シティ」を思わせる演出がやや鼻につくものの、笑いと何気ない涙が見え隠れする展開に、独特のユーモアが醸し出されます。

クライマックス、すべてがばれて、ぎくしゃくしたエヴァアルバート。それぞれがそれぞれに娘を送り出し、何気なく気になる二人は、エヴァアルバートの家を訪ね、玄関先に座って、仲直りして語る今の心境に、大人の世界を見せて映画は終わります。

軽い小品ですが、ちょっと心に残る大人の物語だった気がします。いい映画でした。