くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ディナーラッシュ」「プリスナーズ」

ディナーラッシュ

ディナーラッシュ
ちょっと小味の利いた、スリリングな、群像劇の秀作。TUTAYA発掘映画祭で見ることができました。

映画が始まると、有名レストランの厨房がスローモーションで写される。近くに同様の店ができたという会話から、まけるはずがないという会話へ。このワンフレーズでこの見栄がかなりの老舗の有名店だとわかる。

画面が変わると一人の老人が孫を黒人の女性に引き渡す。彼方から、デブと小柄ないかにもギャングっぽい男が近づいてくる。そしてこの老人エンリコにたちはだかる。そして二人は逃げる老人を撃つ。

タイトルが流れ、場面はレストランの厨房。ここのオーナー、ルイスの相棒だったのがエンリコ。地元のヤミ行為の胴もとなどを牛耳るいわばギャング。このレストランに、先ほどの二人がやってくる。どうやら、この店を乗っ取りたいということらしい。続いて、口うるさい老人、レストラン批評家らしい二人連れの女たち。しかし、せりふの端々に店のオーナー、ルイスに呼ばれたというような言葉が挟まれ、これがラストへの伏線になる。

この店のシェフは、新しい料理を売り出し、レストランの形をモダンにしていこうとする兄のウードと賭事が好きで、この日もヤミばくちに手を出す弟のダンカン。さらにウェイトレスとの恋や店員たちの巧妙なせりふが飛び交う中で、ルイスのどこかエンリコを亡くしたという落胆の中に鋭さを秘めた視線が店の中を見つめる。

物語の後半になると、さらに招待されたと刑事とその妻がやってくる。三ヶ月先まで予約で取れないのに、いとも簡単にとれたという。カウンターでは、金融マンらしい男。そして、刑事の妻がトイレに行こうとすると、階段の途中でめがねの男がとおせんぼ。トイレにきたデブと小柄なギャング。先にトイレにいた金融マンがピストルを取り出し、二人を撃つ。刑事が飛び込む。

一方、ルイスはウードに店を任せ引退すると告げる。弟のダンカンには博打の穴を埋めてやる。

空き地に止まる車の中でルイスと先ほどの金融マン、めがねの男がいる。ルイスは親友で相棒だったエンリコの敵をとるために今夜の事件を画策したのだとわかる。

味な映画である。細かいカットの切り替えしで、繁忙を極める厨房の様子をせわしなくとらえ、一方で、レストランの中には、ウェイトレスやウェイターの人間模様をさりげなく描写し、それぞれの役割の人物が効果的に配置されている。

そのそれぞれを微妙なタイミングで交錯させ、次第にラストシーンへ向かうストーリー展開を組み立てる脚本と、映像の演出がうまい。監督はCM出身のボブ・ジラルディという人だが、なんの、コーエン兄弟を思わせるセンスを感じる一本だった。


「プリスナーズ」
物語を語る上のエピソードや伏線を順番にならべて、二時間半くらいの長さに引き延ばしたような作品で、もう少しストーリー展開に切れがあってもいいのではないかと思えるほどに、純長に感じた作品だった。ストーリーの核になる部分が、乱立しているという感じなのである。だから、クライマックスの真相が明らかになる部分の爽快さがない上に、エピローグとなるホイッスルによる居場所を知らせる映画的なラストだけが、妙にたってしまうのである。

監督は「灼熱の魂」のドゥニ・ビルヌーヴ監督。あの作品も、次々と組み立てられたエピソードが終盤に、二転三転させて真相が見えてくるという作り方をしているが、今回はそれを懲りすぎた感じでしょうか。確かに映画作品としては、なかなかのクオリティで作られていると思いますが、気負いすぎたのが、不必要な長さになったという感じです。

映画は、近所の仲良し家族ドーヴァー家と黒人のバーチ家のシーンに始まる。娘のアナとジョイも仲良しで、それでも、ちょっと外にでるときもお互いの兄と姉に監視してもらわないといけないほど、危ない地区。と、これもどうかと思うが、期せずして、二人の幼い少女が失踪。あわてた両親は警察に連絡しロキ刑事がやってくる。

たまたま怪しいキャンピングカーが止まっていたために、その持ち主であるアレックスを逮捕するが、48時間の拘束期間のうちに白状せず、釈放。そのときにアナの父ケラーにいった一言で、彼を犯人と確信したケラーはアレックスを拉致する。

ここまではストーリーとしてシャープに進む。一方ロキは少女失踪に祈る人々の中に怪しい青年を見つけ、彼を追い始める。しかし、彼を追いつめ逮捕したものの、自宅には蛇を飼っていて、迷路の書き物がある。しかも、取り調べ中に自殺してしまう。

さらに、ロキは捜査の中で、少年誘拐の前科のある神父の家に行き、その地下で、ミイラになった男の死体を見つける。その男の胸には迷路のペンダントが。

物語はあちこちで進行し、そのどれもにストーリーの中心になる芯がないために、どれを基準に見ていくのか混乱してくる。そして終盤、ジョイが無事帰ってくる。そして、ふとつぶやいた言葉で、ケラーはアレックスを養育していた叔母の家に乗り込む。二人はここに拉致されていたと確信するのである。

しかし、返り打ちに合い、この叔母が夫とともに昔から少年少女を誘拐していて、アレックスもその中の一人で、ケラーを、庭においてある車の下に隠した部屋に落とす。

様々な手がかりから、ロキも叔母を犯人と確信し、突入するが、叔母はアナに薬を注射しているところで、すんでのところで射殺。アナを病院に搬送したロキ。ところがケラーの行方がわからない。

叔母の家の庭を掘るが、まさか車の下に洞穴があると気がつかない。あきらめたとき、ロキの耳に、アナのおもちゃのホイッスルの音が聞こえる暗転エンディング。

と、確かにストーリーの中のエピソードは相当に複雑に組み合わされているが、決して混乱しない。このストーリーテリングのうまさはさすがにこの監督はうまいが、いかんせん、あちこちに物語が乱立させすぎた。結果、いったいなにを描きたいのか分からなくなる結果になった感じである。故に長く感じるのだ。

もう少し、思い切った削除と組み直しをして、シャープに物語を整理すればかなりの出来映えになったろうに、後一歩もったいない映画だった気がします。