くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「万能鑑定士Q モナ・リザの瞳」「GO」

万能鑑定士Q

万能鑑定士Q モナリザの瞳」
全然期待していなかった。しかもそれほど好きでもない綾瀬はるか主演なのだから、テンションがかなり低い状態でみたのですが、これがなんと、えらくおもしろかった。たぶん、最近見た邦画の娯楽映画の中では一番楽しめたのではないでしょうか。

もちろん、ストーリー展開は、原作によるところがあるとはおもいますが、それぞれのエピソードの導入部から組み立て、二転三転するサスペンスフルな展開、導入部に徹底的に挿入されるCG演出など、バランスが実にいい。それぞれの役者の演技力不足を完全にカバーし、ただ展開する物語を楽しめるように作られた脚本と演出に拍手したいと思います。

映画は、一枚のパンフレットを主人公莉子のところに鑑定依頼しにくるシーンから始まる、いかにも、ちょっと別の世界かという導入部はありきたりだが、そこから、そのパンフレットのパーティ会場での鮮やかな推理シーン、そして、ルーブルでのモナリザ鑑定人の試験へと流れるストーリー展開が鮮やかで、一気に本編へなだれ込んでいく。そこで、いかにもな鑑定訓練シーンから、モナリザの瞳の謎、そして、その謎にとりつかれて、鑑定能力を失った莉子が、松阪扮する小笠原の推理で、その謎が暴かれ、本当の理由が次第に明らかになり、ストーリーは核心へと流れていく。

いろいろと、荒いところがあり、突っ走ってしまうところもないわけではないが、そんなものはおいといて、次の謎、次の謎と釘付けにされていく組立がうまい。途中の登場人物の人間ドラマはほとんど吹っ飛ばしていくし、それらしいせりふが、演技になっていないのだから、これでいいのかもしれない。

そして、実は、真相は、訓練をしたルーブルのスタッフは偽物で、真実は、モナリザを本物に入れ替えることで、ルーブルにあるのが偽物だったのを正す
という展開から、実はルーブルにあるモナリザが偽者なのだというその噂が、そもそも作られたフェイクだったと解明する莉子の名推理から、本物があわや燃やされたかと思えば、実は、本物を人質にフランス政府から金を取ろうという犯人たちの真相へとつながれて、大団円。

いあや、分かりやすい謎解きのどんでん返し、次々と、展開するストーリーに、あら探しをする暇もない。原作のおもしろさを、見事にそのエッセンスをくみ取って脚本に仕上げ、それをスピーディに演出したスタッフに拍手したい一本でした。

優れた映画とはいえないまでも、十分に娯楽として成り立った作品だったと思います。


「GO」
ご存知、行定勲監督の代表作であるが、今まで未見だった一本。確かに、優れた映像感覚とテンポで描いて行く日本人と在日朝鮮人のラブストーリーは、それが、独特の色合いを見せる作品である。しかも、脚本は宮藤官九郎だから、おそらく、冒頭のテロップにもあるとおり、かなり改変されているのだろう。

主人公杉原がバスケットボールをしている。しかし、他のメンバーが杉原が在日韓国人であることでいじめをし、それに切れた杉原が大暴れする。物語は杉原の独り言で、3年前に戻り、中学、いや朝鮮人民学校時代の地下鉄の上でのタイマンしーんへ。細かいカット飛ばしで、独特の編集を試み、うるさいほどに映像がポンポンと跳ぶのだが、これが行定勲の若き日の演出といえるのかもしれない。

ともすると、日本人と在日韓国人(元は朝鮮人だが、韓国籍を買ったという設定)の差別の話と、暴力の話しに行くところを、実は自分のラブストーリーだと正しながら、やがて、桜井との出会い、そして恋物語が前面に出てくる。かにみえるが、すぐにまた元ボクサーの父親との殴り合いのシーンやら、同じ人民学校の友人とのエピソードやらに話題が跳ぶ。

しかし、常に根底にあるのは日本人と朝鮮人の差別である。終盤、親友の死で落ち込んだ杉原を慰めるため、いよいよ、体を重ねるべく覚悟した桜井とのベッドシーンで、杉原は自分が在日韓国人だと告げ、それに一瞬の嫌悪感を見せる桜井のエピソードへ流れて行く。そして、落ち込んだ杉原とちょっとありえないような駐在とのエピソードの後、どうしようもなくなったところで、考え直した桜井からの電話で物語りはラストシーンへ。

初めてのデートの小学校へ行き、二人はキスをし、雪が降ってきて、時はクリスマスイブ。エンディング。

非常に内容の濃さ、ストーリーの組み立ての緻密さ、斬新なカット割と編集による映像演出、ひとつのことにこだわっていないような展開ながら、しっかりとしたメッセージを見せるできばえは、まったく見事である。キネマ旬報一位がふさわしいかどうかは、若干、個人的な好みも合って疑問が残るが、さすがに代表作と呼べる映画だった。