くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「喜劇とんかつ一代」「河のほとりで」「東京夜話」

kurawan2014-07-28

「喜劇とんかつ一代」
映画が楽しい。そんなことがスクリーンからほとばしり出てくるような、典型的な川島雄三監督作品、いわゆる川島コメディである。

しゃれた音のセンスで、背後にちらほらと、ふざけたように聞こえてくる動物の鳴き声や、湯島天神を歩くシーンで「湯の島エレジー」、コミカルな音楽、いかにもミステリアスな音響など、どれをとっても、粋で、遊び心満点。そのこだわりがはまってしまう魅力がある。

映画は一流料亭のコック長伝次と、そこをやめて一人トンカツ屋を営む男久作、さらに彼らの周りの妻、こども、愛人、恋人、客、なにかもが入り乱れての群像コメディで、これというほどの筋の通った物語はない。

クロレラをひたすら研究する男遠山、奇妙なフランス人マリウス、食べ物の名前を付けた芸者たちなど、どれもこれもに肩をこるものがないし、それでいて、ちゃんと、笑いをちりばめ、どたばたも取りいれ、テンポよく突っ走っていく。

映画はこんなに楽しいのですよといわんばかりの映画、娯楽ってこれだよね、川島監督がスクリーンの向こうから笑いかけているように思える一本でした。


「河のほとりに」
解説の通りの隠れた名作、すばらしい一本でした。ただ、いかんせん、色落ちしてしまって、とてもカラー作品に見えないほどひどい状態なのが本当に残念でした。

映画は、新蔵という男が、かつての妻あさ子と飛行機の中で再会するシーンに始まります。新蔵は、20年前に、あさ子と結婚していたが、彼女の親友のとも子とその後、結婚をしている。物語はこの三人の物語、とも子とあさ子の友情、お互いの娘たね子と息子新太郎の恋愛物語がからみあいながらの、大人の恋愛ドラマ、いや人間ドラマで、それぞれのエピソードの組立が実に美しい。

子供同士の恋にからめて、かつてのあさ子の旅館のマネージャーの女性信子と新太郎の一夜の出来事、信子と坂本との再婚の話が交互に組み合わされるシーン、さらにあさ子と夫兼吉のほのぼのした生活、とも子と新蔵の生活が交錯して描かれるバランスの良さ。

そして、二つの家族を行き来する、藤五を演じた東野英治郎が抜群の演技力で、物語を引き締めます。

恋愛への考え方、SEXへの認識が少し時代を感じさせますが、それはさておいても、ストーリー構成のうまさ、いや、美しさに、すっかり引き込まれる大人のドラマに仕上がっているのです。

監督が千葉泰樹なので、フィルムが大事にされていないのでしょう。痛みが激しいのが本当に残念な一本でした。まさしく、名作です。


「東京夜話」
芸映画の名匠豊田四郎監督作品であるが、ちょっと、ストーリーの展開がちぐはぐで、まとまりがない。さらに、お得意の、映像のテクニックがあまりみられなかったのが残念な一本でした。

東京の盛り場の町並みが写され、一人の男伸一が、とあるバーにバーテンとしてやってくるシーンから映画が始まる。実は、このバーのママ仙子はこの伸一の母親で、ママの夫良作は、かつて資産家であったが、今は落ちぶれ、それでも、かつての栄光から抜けられない甲斐性なしの男。

ストーリーの組立は、伸一と、バーのホステスマリイ、銀座に出物の店が出たので、それを手に入れるために奔走する仙子と良作の話のはずであるが、あまりにも淡島千景の存在感が大きい上に、見事に心理描写を表現するために、ストーリーの中で圧倒的に中心的となり、伸一の話がぼやけ、さらに、ホステスに横恋慕するやくざやマリイを娘のようにかわいがる畳屋のおやじのエピソードも、ただの枝葉として、ストーリーを膨らまさない。

その上、伸一の学校の同級生が、学生運動に挫折していく姿など、無駄な社会問題まで挿入されるのがどうも始末が悪いのである。

確かに、東京の夜の様々な出来事としての作品だとは思うので、ちりばめられたエピソードが描かれるのはそれでいいと思うが、淡島千景の迫力に、他の俳優が、太刀打ちできなかった感のある作品でした。

とはいえ、やはり、この時代の映画は、しっかり作られていますね。