くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アパートメント:143」「煙突の見える場所」「東京のえく

アパートメント143

「アパートメント:143」
「リミット」のロドリゴ・コルテスが脚本のスペインホラー映画。
今はやりのドキュメンタリータッチの作品です。カメラを振り回しているように見せていますが、実はデジタル処理でぶれているように見せているなどなかなか手の込んだ撮影を試みています。

テクニカルなぶれと細かいカット編集で緊張感のある導入部で一気にこの映画の舞台であるアラン・ホワイトのアパートの中へ引き込んでいく。あとは、部屋中に設置されたカメラ映像と、手持ちカメラの映像で巧みに恐怖をあおっていく。

B級ホラー映画らしいわざとらしいショッキングシーンもありますが、フラッシュを繰り返しながら突然女が現れたり、徐々にエスカレートしていくホラーシーンはなかなか練られた脚本でうならせてくれます。

クライマックスはケイトリンという一人娘が「エクソシスト」よろしく宙に浮かんで部屋中がポルダーガイストに襲われて、実は死んだ妻の亡霊ではなくて、娘の統合失調症による超常現象を描き、すべて解決してケイトリンは病院へ。

設置したカメラを片づけ、最後の一台だけ残してみんながいなくなる。当然このカメラが何かを写すのだと思っていると、ゆっくり動いたカメラに天井を張ってくる妻の化け物がでてエンディング。

おきまりながら、おきまりでいいところが楽しいのがB級映画の楽しさである。まぁまぁ可もなく不可もない楽しめた映画でした。


「煙突の見える場所」
見る方向によって一本に見えたり、四本に見えたりする煙突がみえる千住の長屋を舞台に、そこに住む人々の人生模様を描く五所平之助監督の名作である。

一人一人の登場人物の表情をアップで的確に捉え、そのとらえる角度を多彩に描きながら、主人公の緒方夫婦の長屋に置き去りにされた赤ん坊の騒動を通じて、どん底にいきる人々の希望へとつないでいくストーリーテリングのうまさは抜群。

戦争未亡人の女弘子が愛する男隆吉と生活しているものの、二階に下宿する若い二人久保と仙子に気を使い、近所の人々に気を使いながらの夫婦生活がぎくしゃくして今にも壊れそうになっている。

そこへ、なぜか死んだはずの前の夫の子供が置き去りにされる。当然、二人の関係はさらにぎくしゃくし、今にも壊れそうになるが、二階の役所勤めの久保が本当の父を見つけ、その母を説得し、連れ戻させようとする。

時を同じくして赤ん坊が生死の境の病気になり死んでしまうと絶望に浸る弘子たちに仙子が希望を捨てるなと叱咤する。前向きになった人たちの看病もあって山を乗り越え、赤ん坊は快復へ。

緒方たちはいつの間にか赤ん坊に愛着を覚え、それが二人のぎくしゃくした心をいやしてくれたために、返してもらいにきた女を追い返す素振りまで見せる。

仙子の職場の同僚の女のエピソードも含め、絡み合ったかに見える人間同士のドラマがそのどん底から何かの希望を見いだす様を彼方に見える煙突を巧みに物語に織り込んで人の心の変化を描ききった演出は秀逸そのもの。

誰もが次の希望を見つけ歩みだしていくラストは、製作された当時の人々を未来へ導いたことだろうと思います。さすがに時代性を感じざるを得ない物語ですが、人間の奥底になる強さのようなものがひしひしと伝わってくる作品でした。


東京のえくぼ
とっても楽しい映画でした。
監督は後にプログラムピクチャーの雄となる松林宗恵監督で、この映画がデビュー作である。

洒落ていてユーモアたっぷり、その上風刺がぴりっと効いた最高の娯楽映画でした。決して名作とか傑作ではないかもしれませんが、映画館をでたときに「ああおもしろかった。見てよかったな」と幸せになれる、そんな映画でした。映画が娯楽の王様だったことを身にしみて感じてしまう、最高の映画だった気がします。

物語は単純、スリに間違われた男が実は大企業の社長で、そのスリを訴えた主人公伸子がその会社の社長秘書になる。毎日機械的に社長業を営む社長は伸子の助けで会社を脱走、伸子の家で数日を暮らして庶民の中で自分の立場を再認識するというもの。

機械的に処理する社長の姿はまさに日本経済への皮肉であり、チャップリンの「モダン・タイムズ」を思わせます。取り巻きの役員も滑稽な出で立ちで走り回る姿とともに思い切り皮肉が効いている。

社長に戻った男は伸子と結婚をしてハッピーエンド。特別出演の高峰秀子がとってつけたように最後に登場してスター映画を見せつけるサービスも満点。ウキウキするような主題歌が流れて東京の町が映されて終わるエンディングも最高でした。本当に映画っていいものですね。そんな気持ちにさせられる一本でした