くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「雪の轍」「お嬢さん」

kurawan2015-07-13

「雪の轍」
映像の美しさに、まず目を引かれる。世界遺産の町並みをとらえるオープニングから、室内の調度品の配置と、照らす明かり、その中で、繰り返される会話劇がこの映画のクオリティの高さを見せてくれます。監督はトルコの巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイランという人である。

カッパドキア洞窟ホテル、ホテル・オオセロを遠景にとらえるカットから映画が始まる。山間に浮かぶ黄色い建物の美しさがすばらしい。

やってきたのは、このホテルのオーナーで主人公のアイドゥン。彼はもと俳優で、今は若い妻と暮らしているが、どうもぎくしゃくしている。

物語は、アイドゥンと妻、さらに出戻りの妹との会話、あるいは、使用人や、友人との会話劇を中心に、ほぼ、室内劇として展開していく。

さすがに3時間を超える会話劇としては長いのだが、美しい情景描写と絵づくりのうまさがすばらしいために、退屈より、長さ故の体力的的なしんどさが前にでる。

家も貸している主人公は、家賃を滞納している店子から、なぜか恨まれている。

黄色い車に乗っているアイドゥンと使用人が、突然、店子の息子に石を投げつけられる導入部分から、ストーリーが動き始める。

会話が会話を重ね、一見、すれ違ってる風な人物たちの意見が、微妙な一点で少しずつ重なり合い、接点が生まれたかに見えるクライマックスは、なかなかである。

津々と雪が降り始める描写を、室内の会話の合間の雨音のような効果音で示し、やがて、雪に閉ざされたホテルで、お互いの本音がぶつかり始める。

クライマックス、妻と別れる決心をしたアイドゥンはイスタンブールに向かうべく、使用人と出かけるが、駅で心変わりし、友人の農場へ。そこで、過ごした後、家に戻ってくる。一方の妻も、店子に無償の償いという感じで届けた大金を暖炉に燃やされ、現実に向かい合う自分、さらに夫の言葉が身にしみて、涙の中、家に帰る。

夜明け、猟で射止めたウサギを持って、アイドゥンは帰ってくる。窓から見下ろす妻。妻を見上げ、頭の中で、もう一度やり直したいという意味合いの台詞がアイドゥンに被さり、「トルコ演劇史」を書き終えたアイドゥンのカット、カメラは雪景色のホテル・オセロを遠景にとらえエンディング。

確かに、しんどい映画だが、一級品であり、こういう映画をあえて作ろうとする気概のある作家が、最近はいなくなったと思う。見事な作品でした。


「お嬢さん」
三島由紀夫原作であるが、非常に軽いタッチの恋愛コメディである。たわいのない映画といえばそれまでの一本、若尾文子特集で見た。監督は弓削太郎という人。

会社の重役令嬢の主人公が、いかにもプレイボーイな青年と結婚するが、ことあるごとに、過去の女の存在を疑う様子をコミカルに描いていく。

編集のテンポといい、台詞の掛け合いのリズムといい、どこかちぐはぐで間が悪いのは演出の性かもしれないが、タイトルバックのイラストや、想像するときのピンぼけ映像など、古き懐かしい演出も多々見られ、今となっては楽しい映画である。

何気なく見られる当時の世相や風習もおもしろく、昭和の一時代をかいま見る楽しみもあった映画でした。